シリアのアル=カーイダが逼迫する支配地の経済を立て直すための対策を披露:彼らが直面する危機とは?
ジャウラーニー指導者が洋服姿で登場
シリア北西部の反体制派支配地域、いわゆる「解放区」で、国連安保理決議第1267号(1999年10月15日採択)委員会(通称アル=カーイダ制裁委員会)が国際テロ組織にしているシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が11月23日、困窮する同地の経済への対応について協議するための「シューラー(諮問)総会」を開催した。
総会が開催されたのは、トルコのジルベギョズ国境通行所(ハタイ県)に面するイドリブ県のバーブ・ハワー国境通行所。国連安保理決議第2165号(2014年7月14日採択)に基づき、シリア政府の許可なく越境(クロスボーダー)人道支援を行うことができる最後の通行所である。
欧米諸国とアル=カーイダを「合法的」に結ぶ「最後の結節点」で開催された総会には、シャーム解放機構が「解放区」の自治を委託しているシリア救国内閣(アリー・カッダ首班ら)の閣僚、経済関係の専門家、メディア関係者らが参集しただけでなく、シャーム解放機構指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー・シャームが洋服姿で姿を現した。
ジャウラーニーが洋服姿で公の場所に姿を現したのは、2021年2月の米国人ジャーナリストのマーティン・スミスによるインタビュー以来2回目。
逼迫する「解放区」経済
シューラー総会では、シャーム解放機構が軍事・治安権限を握る「解放区」の経済状況、とりわけトルコ・リラの下落に伴う物価高騰、とりわけパンと燃料の価格上昇への対応が協議された。
「解放区」では、トルコ・リラの下落を受けて、シリア救国内閣は2.5トルコ・リラで販売されているパン(フブズ)1袋の目方を650グラムから段階的に450グラムにまで引き下げていた。また、「解放区」で燃料の販売を統括するワタド石油社も、家庭用プロパンガス・ボンベの価格を1本137トルコ・リラに、ガソリンを1リットル9.83トルコ・リラに、灯油を1リットル9.14トルコ・リラに値上げするなどの措置をとっていた。
このことが「解放区」の住民の生活をさらに困窮させ、10月15日には、イドリブ市で燃料、パン、野菜、水、電気などの価格引き下げを求める抗議デモが発生していた。
経済対策を披露ジャウラーニー
ジャウラーニーはシューラー総会で演説を行い、物価高騰に対応するための経済対策を披露した。ジャウラーニーの演説の骨子は以下の通りである。
ジャウラーニーの公約通りパンの価格が引き下げられるかは定かでななく、緊急措置として拠出されるという300万ドルの出所も不明だ。
シャーム解放機構は、アル=カーイダとの関係を否定し、自らを「シリア革命」の旗手と位置づける一方で、「解放区」の統治に直接関与することを避けてきた。それは、国家を模した支配をめざしたイスラーム国が米主導の有志連合、ロシア、シリア、イランによる「テロとの戦い」によって弱体化させられたことから得た教訓だった。
経済対策を披露するジャウラーニーの姿は「国家元首」を彷彿とさせる。しかし、そのさまは、最大の支援国であるトルコの経済悪化の煽りを受けて「解放区」が困窮の度合いを増すなかでのシリアのアル=カーイダの危機感を映し出してもいる。
ジャウラーニーの公約が実現しなければ、「解放区」の反発はさらに強まり、公約が実現すれば、「解放区」の統治者としてのシャーム解放機構の存在が浮き彫りになり、ロシアやシリアが「テロとの戦い」を強める口実となるだろう。