Yahoo!ニュース

女優の夢破れ、やさぐれるアラサーのヒロインを等身大で。逆ギレして暴言を吐けたのは父役の名優のおかげ

水上賢治映画ライター
「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影

 「偶然にも最悪な少年」や「ハードロマンチッカー」などで知られるグ スーヨン監督による本作「幽霊はわがままな夢を見る」は、その成立の仕方が幸せではないかと思える映画だ。

 本企画の発起人といっていいのは俳優の加藤雅也。下関出身のグ スーヨン監督と長い付き合いがありながら、彼は一緒に組むタイミングがなかった。

 常々「なにか一緒にやりたい」と思っていたところ、下関出身の女優・深町友里恵と短編映画「恋文」で共演。

 そこで三人で会ったことをきっかけに話が一気に進み、下関発のオリジナルムービー「幽霊はわがままな夢を見る」は誕生した。

 作品は、女優になる夢破れ、自らの才能にも絶望して故郷・下関に戻ってきたヒロイン・ユリが、父の経営するラジオ局を手伝いながら自身を見つめ直す、ひとつの成長物語。

 ただ、そこはグ スーヨン監督らしく、単にポジティブでは終わらない、人生のほろ苦さとちょっとしたゴーストストーリーも交わったユニークな一作になっている。

 そして、そこで強烈なインパクトを残すのが、ユリを演じた深町友里恵だ。

 夢が断たれ、もはややぶれかぶれで悪態はつくわ態度は悪いわという、ある種のダーク・ヒロインをただならぬやさぐれ感を出して演じ切っている。

 地元・下関での撮影の舞台裏から、加藤雅也とグ スーヨン監督との出会い、この作品に対する思いまで、彼女に訊く。

 地元・下関での撮影の舞台裏から、加藤雅也とグ スーヨン監督との出会い、この作品に対する思いまで、彼女に訊く。

 ここからは彼女自身のキャリアについてメインで訊く番外編に入る。番外編全三回/第二回

「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影
「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影

加藤さんには、わたし=ユリをすべて受けとめてくれる安心感があった

 前回(番外編第一回はこちら)では、地元・下関での撮影を振り返ってもらった。

 では、本作で主演を務めるきっかけをくれた加藤雅也との共演では、どんなことを感じだろう?

 ユリはかなり父にあたりが強いというか。

 怒りを露わにして父に当たり散らすが?

「いろいろな面で助けていただいてありがたかったです。

 ユリのやさぐれ感があそこまで出せたのは、加藤さんのおかげで。イラつかせてくれるよう芝居や会話のテンポを加藤さんがわざと少しずらしてきたといった話をしました。

 それと同時に加藤さんには、わたし=ユリをすべて受けとめてくれるという大きな安心感があったんですよね。

 どんな球を投げてもキャッチするから縮こまらないで思い切ってこい、みたいな感じで受けとめてくれる度量があったので、わたしとしては迷いなくそこに飛び込んでいける感じがあった。思い切っていけばいいと遠慮なくぶつかっていけたんです。

 加藤さん演じる父の昌治に逆ギレして暴言を吐きながらつい手が出るシーンが冒頭にあるじゃないですか?

 実は、あのシーンはけっこう撮影入ってすぐで、確か加藤さんとのファーストコンタクトの芝居だったんですけど……。

 わたしはもうテンションがマックスになって気持ちが収まらなくて、全力で怒ってしまったんですよね。

 そこまでの怒りは求められていなかった気がするんですけど、でも、加藤さんはそれをきちんと受けとめてくださった。

 その瞬間、もうわたしは細かいことは考えないで加藤さんにぶつかっていけばいいと思えたんですよね。

 ユリは甘えもあってかなり理不尽に父に当たり散らすんですけど、それをうまく引き出すことができたのは加藤さんが受けとめてくれたことが大きかったと思います」

「幽霊はわがままな夢を見る」より
「幽霊はわがままな夢を見る」より

苦労したので、みなさんの印象に残るシーンになっていてくれたら

 演じる上で、一番苦労したシーンはどこだろうか?

「ラストの屋上で叫ぶシーンはかなり悩みました。

 このシーンはユリの心境の変化を表す重要なシーンじゃないですか。

 なのに、もう後のない最後の最後、撮影の最終日に組まれていたんですよ。

 あのシーンは、いろいろな解釈があっていいと思うんです。

 ユリがすべてを捨てる覚悟を決めたようにも思えれば、がんじがらめになっていたことから解き放たれるようにも思える。

 ただ、いずれにしてもユリがいろいろな葛藤や苦悩の末にあの境地にたどり着く。

 その思いを出さなければならない。

 いや、どうしようか、わたし出せるかなと思って。早朝の5時の撮影だったんですけど、もう朝方の4時ぐらいギリギリまでどうすれば正解か悩んでいました。

 最後は自分なりの答えをそのまま出したんですけど、あの屋上のシーンは最後まで悩みました。

 苦労したので、みなさんの印象に残るシーンになっていてくれたらうれしいですね」

(※番外編第三回に続く)

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第一回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第二回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第三回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第四回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第五回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第六回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー番外編第一回】

「幽霊はわがままな夢を見る」より
「幽霊はわがままな夢を見る」より

「幽霊はわがままな夢を見る」

監督:グ スーヨン

脚本:グ スーヨン、具 光然

出演:深町友里恵、加藤雅也、大後寿々花、西尾聖玄、山崎静代(南海キャンディーズ)、佐野史郎ほか

公式サイト https://www.yureiwagamama.com/

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C)株式会社トミーズ芸能社

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事