ヌードも求められる魔性の女役に。気まぐれで小悪魔的なナオミらしさを探し求めて

水上賢治

映画ライター

12/22(日) 10:30

　2024年に生誕100年を迎え再評価の高まる増村保造監督が映画化した名作でもよく知られる谷崎潤一郎の小説「痴人の愛」。

　同小説が生まれて100年でもある節目の年、新たな映画「痴人の愛」が生まれた。

　新たな映画化に挑んだのは2023年に同じく谷崎文学の代表作である「卍」を、新解釈で現代の愛憎ドラマへとアップデートした井土紀州監督と脚本家の小谷香織のコンビ。

　今回の「痴人の愛」もまた新機軸。原作の踏襲すべきところは踏襲しながらも、がらっと変えた物語で、ファムファタール＝運命の女、ナオミと、彼女にいつの間にか魅入ってどうにも離れられなくなってしまった脚本家の男・譲治の愛の果てを描き出す。

　つかまえていられそうだが、気づけばいなくなっている。いまニコニコしていたかと思ったら、次の瞬間には怒って当たり散らす。

　自分勝手だけど小悪魔的で憎めず譲治を大いに翻弄するナオミ役に抜擢されたのは、これまでグラビアを中心に活躍してきた奈月セナだ。

　難役でヌード・シーンも求められた本作にいかにして取り組んだのか。

　魔性の女、ナオミをいかにして演じ切ったのか？

　「俳優・奈月セナの代表作になった」と語る彼女に訊く。全七回／第三回

服装や装飾もナオミを演じる上では重要なヒントに

　前回（第二回はこちら）、ナオミ役について「監督とのセッションを重ねることで、ナオミの人生の歩みを体に叩き込んでいって、それをもとにナオミの脳、つまり心の部分を作り上げていった感じでした」と明かしてくれた奈月。

　たとえば、どのようなことでナオミという役に近づいていったのだろうか？

「そうですね。たとえば服装もナオミを演じる上では大きなヒントをくれました。

　原作を読んでも、ナオミが当時のハイカラな服を着ていたり、きらびやかな装飾を身に着けていたことがわかる。

　今回も映画を実際に見ていただければわかると思うのですが、ちょっと派手目の服装で。

　ああいう服を身に着けると、やはりメンタルも変わってくる。

　気持ちも変わると、身のこなしやしぐさもちょっと変わってくるんですよね。

　そのようなことで、いろいろなことから影響を受けて、ナオミをつかんでいった感じでした」

自分なりにできるだけの入念に下準備をして実際に臨むことに。

でも、現場に入ってすぐにいったん白紙に

　そのように入念に下準備をして役作りをしていって、実際に演じてみて、なにかギャップが生じたりはしなかったのだろうか？

「今回のような大きな役を演じることは初めてでしたから、自分なりにやれるだけの下準備をしなければならない。なにか自分のせいで周囲に迷惑をかけてもいけないで、かなりしっかり考えてナオミ役を作りこんで現場にいかなきゃいけないと思っていました。で、実際に、かなりナオミ役を作りこんで現場に入ったんです。

　ところが、現場に入ったらちょっと違ったというか。

　ナオミは自由奔放で気まぐれでとらえどころがない女性じゃないですか？

　なにかきちっと固めて演じてしまうと、ナオミらしくなくなってしまうというか。

　ここはこう演じようとか、ここはこんな風にと考えてしまった時点で型にはまった感じになってしまう。なにを考えているかわからない、とらえどころのないナオミの魅力が出てこないんですね。

　そのことに現場に入ってすぐに気づきました。

　あまり考えすぎないで、その場で出てきた感情や行動をそのまま出す。そのように挑んだほうがナオミの良さや魅力がきっと出るのでないかと思いました。

　だから、そこからは作りこんできたものをいったん捨てましたね。

　監督との話し合いで、たとえばちょっと一般的ではない、いいとはいえない家庭環境で育ったとか、父親の愛情を知らないできているとか、なにか抱えきれない感情を抱えていきてきたとか、幼少期からの背景を聞いて。そこからたとえば実は愛を求めているとか、恵まれない環境でサバイブしてきた処世術で、男性の懐に入り込むのが上手いところとか、現在のナオミにつなげて、どのように演じようかいろいろと考えました。

　こうこられたらこう返すみたいな自分なりの演技プランを考えていました。

　わたし自身はナオミちゃんとはっきり言うと性格が真逆なので（笑）。だからこそ、ちゃんと作りこんでいかなきゃいけないと思っていたのでよけいに入念に下準備をしていたんです。

　けど、現場に入ったら違う気がしたので、惜しいけどもうそこは諦めてリセットするしかない。

　そこからは、あまりあれこれ考えないで、背景を頭の片隅に置いておくぐらいにして、ナオミとして現場に立って、その場で出てきた感情に赴くまま行動したり、言葉を発したりしていく。そのように演じていきました。

　ただ、そうできたのは、やはり譲治役の大西信満さんのおかげです。

　女優としてまだまだ未熟なわたしを、ほんとうにすべて受けとめてくださったんですよね。

　大西さんがすべてを受けとめてくださる安心感があったので、わたしも現場で思うがままにナオミを演じることができたと思います」

(※第四回に続く)

【「痴人の愛」奈月セナ　インタビュー第一回】

【「痴人の愛」奈月セナ　インタビュー第二回】