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“中国事業に関与”証言も出たバイデン氏は“人格”で勝てるのか “経済”ではトランプ氏圧勝 最終討論会

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
終始穏やかな雰囲気の中で行われた最終討論会。バイデン氏は人格の重要性を強調。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 第2回にして最後の大統領候補討論会がテネシー州ナッシュビルで行れた。罵り合いが起きた第1回討論会とは打って変わり、発言に対する妨害もなく、穏やかに始まり穏やかに終わった討論会だった。

 第2回討論会もバイデン氏が勝った、トランプ氏挽回できずとの見方が多いが、果たして、反トランプ派はこれでバイデン氏大統領選勝利確定モードに入ることができるのだろうか?

“経済”ではトランプ氏圧勝

 筆者は、CNNが討論会直後に行った世論調査結果に注目している。ちなみに、調査対象者は32%が民主党支持、31%が共和党支持、37%が無所属だった。つまり、民主党支持のCNNだからといって、調査対象者に民主党支持者が圧倒的に多かったわけではない。

 この世論調査で、第2回討論会の勝者はどちらかたずねたところ、トランプ氏が第1回討論会の時よりもバイデン氏との差を縮めていた。

 第1回討論会では60%がバイデン氏勝利、28%がトランプ氏勝利と答えたのに対し、第2回討論会では、53%がバイデン氏勝利、39%がトランプ氏勝利とトランプ氏が割合を伸ばした。比較までに、トランプ氏支持のFOXニュースが行った討論会直後の世論調査では、74%がトランプ氏勝利、24%がバイデン氏勝利と答えている。

 注目すべきは、CNNが、論点別にどちらの候補者がより良く対処したかについても調査したことだ。その結果、調査対象者は、“気候変動”、“人種的平等”、“新型コロナウイルス”という論点については、どれもバイデン氏に軍配をあげたが、“経済”についてはトランプ氏に軍配をあげた人が56%と、バイデン氏の44%に対し、トランプ氏が12ポイントもリードした。

 “経済”の論点で、トランプ氏が圧勝したことは看過できないのではないかと思う。元国務省政策アナリストのベネット・ランバーグ氏がこう話していた。

「経済が好調なら、トランプ氏は再選して、2期目に入ることができるかもしれません」

 それだけ、“経済”は大統領選では勝敗を左右する重要な問題なのだ。実際、CNNのキャスターからも、“経済”は国民にとって、“気候変動”、“人種的平等”、“新型コロナウイルス”よりも比重が大きい問題かもしれないという声があがっていた。

 もっとも、新型コロナウイルス問題のために、今、米国経済は惨憺たる状況だ。それでも、コロナ以前は経済が好調だったことを考えると、トランプ氏が12ポイントもリードしたことは、これからの経済回復をトランプ氏に託したいという国民の思いを反映しているようにも思われる。

石油産業閉鎖発言の波紋

 また、“経済”という論点で、トランプ氏の方がリードしたのは、バイデン氏の発言が波紋を呼んだからかもしれない。

 バイデン氏はトランプ氏に「石油産業を閉鎖したいのか?」と聞かれ、「そうだ。(石油産業から)移行する」と閉鎖を肯定する発言をした。それに対し、トランプ氏は「大変な発言だ。彼は石油産業を破壊するぞ」と驚いて見せた。

 FOXニュースも「バイデン氏は石油産業を閉鎖したがっている」と言って、閉鎖の部分ばかりをあげつらって批判した。確かに、閉鎖発言は化石燃料を発掘しているテキサス州やペンシルバニア州などにとっては大問題だろう。

 バイデン氏は討論会後、記者たちに「化石燃料を排除はしない。化石燃料に対する助成金は排除するが、長期に渡って化石燃料は排除しない」と言って、誤解を招いた発言の火消しに走った。バイデン氏としては、すぐに石油産業を排除するのではなく、石油産業からじょじょに代替エネルギー産業に移行することを意味したのだ。

 

 また、“外交”という論点については、50%がバイデン氏、48%がトランプ氏をそれぞれ評価し、バイデン氏が勝ったもののその差はわずかで引き分けに近かった。

バイデン氏の武器は“人格”

 ところで、ある調査によると、有権者は、バイデン氏について、“人格”の点でトランプ氏より優れていると評価しているものの、“政策”の点でバイデン氏が実際にどんな対応をするのか未知数であることを懸念している。トランプ氏はバイデン氏について「口だけで、実行力がない」と批判しているが、国民もバイデン氏が自身の公約を本当に実行に移すのか不安を感じているのかもしれない。

 また、“人格”は実際、バイデン氏が武器としているものだ。討論会でも、新型コロナウイルスために経済的に困窮している人々や国境で親と引き離され、今も親と再会できずにいる545人の不法移民の子供たちのことを思いやった。トランプ氏が彼らに対してしていることは「犯罪だ」とまで言って同氏を非難した。

 討論会の最終弁論でも、バイデン氏はトランプ氏の“人格”を問題視した。

「私の人格を知っているでしょう。彼(トランプ氏)の人格を知っているでしょう。投票には、国家の品格がかけられている。我々をよく見てほしい」

爆弾発言「メールは本物」

 今、FOXニュースやトランプ派は、そんなバイデン氏の人格を攻撃しようとしている。息子ハンター・バイデン氏のスキャンダルを追求し、バイデン氏が嘘つきであることを証明しようとしているのだ。

 先日、保守系タブロイド紙ニューヨーク・ポストがハンター氏のラップトップの中から、ハンター氏のビジネスに対するバイデン氏の関与を示唆する疑惑の電子メールが見つかったことを暴露した。そのメールはロシアのデマ拡散作戦による偽メールなのか、それともハンター氏の本物のメールなのか? メールの信憑性が取り沙汰されていたが、21日夜、爆弾発言が飛び出した。

 ニューヨーク・ポストが掲載した2017年5月13日付の電子メールの受信者で、ハンター氏の元ビジネスパートナー(中国のエネルギー企業とバイデン一族によるパートナーシップ企業シノホークホールディングスのCEOだった)であるトニー・ボブリンスキー氏が、FOXニュースに対し、電子メールはロシアのデマ拡散作戦による偽メールではなく、本物のメールであると証言、その詳細について語ったのだ。

バイデン氏に10%の株式オファーか?

 2017年5月13日付の電子メールは中国事業での報酬パッケージに関するもので、株式の配分が提案されているが、その中には「Hに20、“ビッグ・ガイ”に対してHに10」と記されている。

 同氏によると、Hはハンター氏のことで、“ビッグ・ガイ”というのがジョー・バイデン氏のことだという。ハンター氏は父のことを“ビッグ・ガイ”、あるいは、“マイ・チェアマン”と呼んでいたというのだ。つまり、このメールが事実を伝えているのなら、ジョー・バイデン氏に対して10%の株式がオファーされていたことになる。

 ボブリンスキー氏は述べている。

「ジョー・バイデン氏は、ハンターとはビジネスについて話し合ったことはないと言っている。私は、それが事実ではないことを目の当たりにしてきた。ハンターはまた、ビジネス取引に関する承認やアドバイスをジョー・バイデン氏に頻繁に求めていると話していた」

 また、同氏はビジネスパートナーからの警告メッセージも公開した。その中にはジョー・バイデン氏の名前も登場する。

「ジョーが関与していることは言うな。言えるのは会っている時だけだ。わかっていると思うが、彼らはとても神経質になっているんだ」

主要メディアは“爆弾発言”を無視

 ちなみに、主要メディアは、ことごとくボブリンスキー氏の発言は根拠がないとして報じていない。報じたメジャーなメディアはFOXニュースくらいだ。

 CNNは、同氏の発言について、トランプ派による「絶望的な中傷作戦だ」と言い切り、国民の税金で運営されているNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)は「時間の無駄だ」と言って一蹴している。

 ハンター氏のスキャンダルに対する取り上げ方において、メディアは、トランプ派のFOXニュースと反トランプ派の主要メディアの真っ二つに分かれている状況だ。

 バイデン氏自身は、討論会で、「外国とのビジネス取引から1セントも得ていない」と明言した。

 バイデン氏は武器とする“人格”に対するトランプ派の攻撃を退け、現在のリードを保ちつつ選挙を乗り切ることができるのか? あるいは、米国民は、結局のところ、“人格”より“経済”を重視する判断を下すのか? 

 投票日まであと10日。米国民が下す審判に注目したい。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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