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「トランプ氏は終わらない」元側近バノン氏が暗躍 “バイデン氏メール・スキャンダル”の信憑性

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
疑惑メールを送られた、バイデン氏の息子ハンター氏の顔写真を掲げるトランプ支持者。(写真:ロイター/アフロ)

 米大統領選の投票日まで、残すところあと2週間となった。

 支持率調査でバイデン氏のリードが続く中、声をあげ始めた男がいる。2016年の大統領選時に選挙参謀を務め、トランプ政権発足当初、“影の大統領”と囁かれていた元主席戦略官のスティーブ・バノン氏だ。

2024年、トランプ氏は再出馬する

 バノン氏はオーストラリアのメディアにこう語った。

「予言するよ。何らかの理由で、選挙に負けたら、あるいは、なんらかの方法でバイデン氏が勝利宣言したら、トランプ氏は2024年の大統領選挙に出馬すると発表するだろう。トランプ氏は終わらないよ」

 確かに、トランプ氏のエネルギーと負けず嫌いな性格をもってすれば、今回の選挙で負けたとしても、2024年にカムバックすることは十分に考えられるかもしれない。

バイデン捜査を訴える

 しかし、2024年まで待たずとも、投票日の2週間前という土壇場になって、トランプ氏は“最後の勝負”に出ようとしているようだ。

 10月20日、FOXニュースのモーニングショーに電話出演したトランプ氏は、バイデン氏を“犯罪者”と罵り、司法長官のウィリアム・バー氏に、バイデン氏の調査をするための人物を任命するよう訴えたのだ。

「司法長官に行動させなくてはならない。彼はすぐに行動する必要がある。重大な腐敗だ。これに対処する人物を任命すべきだ。これは投票日まで明らかにされる必要がある」

 トランプ氏としては、特別検察官のロバート・ムラー氏がトランプ氏のロシア疑惑を捜査したように、バイデン親子のウクライナ繋がりの捜査をするために特別検察官を任命したいということなのだろうか。

バノン氏のメディア戦略

 投票日目前に、トランプ氏がそう言い出したのは、保守系のタブロイド紙ニューヨーク・ポストが、ウクライナのエネルギー企業ブリスマ社の顧問バディム・ポザルスキー氏がバイデン氏の長男ハンター・バイデン氏宛てに送った電子メールを暴露したことが背景にある。

 

 その電子メールは、2015年当時、ブリスマ社の役員を務めていたハンター・バイデン氏が、当時副大統領だった父ジョー・バイデン氏とポザルスキー氏のワシントンでの会合をアレンジし、両氏が会ったことを示唆している。

 トランプ陣営は、当時、バイデン氏が息子の利益を考え、ブリスマ社の汚職疑惑を捜査していた検察官をクビにするようウクライナ政府に働きかけたと主張してきた。それに対し、バイデン氏は「息子の仕事に利益を与えるようなことはしていない、ブリスマ社の関係者には会ったことがない」と否定してきたが、もし、問題の電子メールが事実だとすれば、バイデン氏は嘘をついてきたことになるという。

 ちなみに、電子メールは、トランプ氏べったりの顧問弁護士ルディー・ジュリアーニ氏が入手したものだ。その意味で、臭さムンムンである。ジュリアーニ氏はバノン氏にコンタクトし、その電子メールをどうメディアで暴露すればいいかメディア戦略について相談した。そこで、バノン氏がトランプ氏寄りのニューヨーク・ポストにその電子メールの存在を伝えたというわけだ。

 この電子メールに関し、バイデン氏側は、バイデン氏の当時のスケジュールによると、バイデン氏はポザルスキー氏とは会っていなかったと話している。

 また、共和党上院議員もハンター・バイデン氏とウクライナの繋がりを調査したが、その結果、ハンター・バイデン氏の行動は問題があるものの、ジョー・バイデン氏は息子を守るような行動はしておらず、同氏を告訴するにはあたらないと先月報告している。

記事執筆者がクレジット掲載を拒否

 ニューヨーク・ポストの記事の信憑性も問われている。

 米紙NYタイムズによると、実際に記事を執筆した人物は信憑性を懸念し、執筆者名の掲載を拒否した。また、ニューヨーク・ポストの他の記者たちも、情報源の信憑性と投票日直前に記事が出るタイミングに疑問を持った。そのため、最終的に記事の執筆者として名前を入れられたのが、記事とは無関係な女性とトランプ氏の友人であるFOXニュースの司会者ショーン・ハニティー氏のショーのアソシエイト・プロデューサーを務めた後、4月から同紙で働き始めた女性だったという。

出元はトランプ氏支持者

 また、電子メール自体の信憑性も指摘されている。出元はデラウェア州にあるコンピューター修理店のオーナーだ。そのオーナーは、ハンター・バイデン氏と思われる人物がその修理店に現れ、コンピューターの修理を依頼、修理代も払わず、結局、修理したコンピューターも取りにこなかったという。問題の電子メールは、その人物が持ってきたラップトップコンピューターのハード・ドライブの中にあったものだ。

 ちなみに、このオーナーは2016年の選挙ではトランプ氏に投票、弾劾裁判でもトランプ氏が不当に扱われていることに不満を感じていた。つまり、政治的にトランプ氏を支持してきた人物が出元となっているのである。

 2019年12月、このオーナーは信頼できる人物を通じてFBIとコンタクトをとった。そして、コンピューターとハード・ドライブを提出するよう召喚状をもらったオーナーは、それに従って提出したが、提出前にハード・ドライブのコピーをとっておいた。

 しかし、今年1月、FBIから何の最新報告も行われず、また、弾劾裁判の状況に不満を感じたオーナーは、ハード・ドライブのコピーをジュリアーニ氏の弁護士であるコステロ氏に提供した。それがジュリアーニ氏の手に渡ったわけである。

電子メールはロシアのデマ拡散作戦か

 エキスパートは、問題の電子メールは、ロシアが、バイデン氏にダメージを与えるために使った偽情報、つまり、デマである可能性が高いとの見方を示している。

 確かに、ジュリアーニ氏とロシアのスパイの関係は指摘されていた。ジュリアーニ氏は、米政府がロシアのスパイとみているウクライナの司法関係者と接触があったからだ。

 また、2019年12月、国家安全保障問題担当大統領補佐官のロバート・オブライエン氏は、ロシアのスパイが、バイデン氏の信用を失墜させるべく、偽情報を流すルートとしてジュリアーニ氏を利用していると警告していた。

ハンター氏の弁護士からのメール

 しかし、バノン氏は問題の電子メールはロシアのデマ拡散作戦とは関係ないと、オーストラリアのスカイニュースのインタビューで話している。

「電子メールは本物だ。ハンター・バイデン氏の弁護士が、電話やメールで“ハード・ドライブを取り戻したい”と言ってきたんだ。これは、ロシアの諜報作戦なんかではない。彼ら(バイデン側)はそれがハンター・バイデン氏のハード・ドライブだと認めているのだ。弁護士からきたメールもある。それを出す必要があるなら、出すよ」

 問題の電子メールは、バイデン氏にダメージを与えるためにロシアが仕掛けたデマだったのか? FBIが現在調査中だという。

 また、バノン氏はハンター・バイデン氏の弁護士からきたというメールを公開するのか?

 大統領選終盤に起きた疑惑メールの真相解明に注目が集まっている。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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