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トランプ氏、「完全に危機から脱したわけではない」のに退院 感染の口止めもしていた!

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
退院したトランプ氏は、ホワイトハウスに戻ると、すぐにマスクを外した。(写真:ロイター/アフロ)

 10月5日、トランプ氏が入院していたウォルター・リード陸軍病院から早くも退院した。ホワイトハウスに到着するやいなや、マスクを外すという大胆なパフォーマンスもして見せた。ホワイトハウス関係者が多数感染しているにもかかわらず、また、すぐそばでカメラマンが撮影しているにもかかわらず、である。

 トランプ氏は退院前、「コロナを恐れるな」という感染者とは思えないツイートをしたが、それを行動で示してみせたのだろう。

まだ危機から脱していない

 退院に先立ち行われた医師団の記者会見では、主治医のコンリー医師が「トランプ氏は完全には危機から脱していない可能性もある」と言及。

 また、新型コロナウイルスは発症から7〜10日目に重症化することが指摘されていることから、トランプ氏はこれから重症化する可能性もあるが、それにもかかわらず退院していいのかという点も取り沙汰されている。

 トランプ氏は入院には難色を示し、ホワイトハウスに留まりたがっていたという報道もあったので、退院の裏側にはトランプ氏からの強いプッシュがあったのではないか? 

 また、アドバイザーは退院せず病院に留まるようトランプ氏に勧めていたことも報じられている。退院し、その後またホワイトハウスで症状が悪化して病院に舞い戻る事態が生じたら、それこそ、選挙戦に打撃となるからだ。

 

 また、これまで行われた3回にわたる医師団の記者会見では多くのことが明らかにされておらず、透明性に欠く点も批判されている。明らかにされたのは以下の点に留まる。

酸素補給に反対

1. 血中酸素濃度が2度、95%以下に低下していた(血中酸素濃度の正常値は95%〜100%)

 10月1日(木)夜から10月2日(金)の朝にかけては、トランプ氏は軽い症状を示していたに留まったが、10月2日(金)の朝遅く発熱し(何度になったかは明らかにされていない)、血中酸素濃度が94%を切った。そのため、トランプ氏は約1時間酸素補給を受け、血中酸素濃度は正常値に回復。もっとも、トランプ氏は酸素補給は必要ないと反対したという。

 また、10月3日(土)もトランプ氏の血中酸素濃度が93%まで低下したため、医師は、ステロイド系抗炎症薬デキサメタゾンを投与。

 10月4日(日)朝の血中酸素濃度は98%だった。

2. 10月2日(金)には、リジェネロン社が開発した新型コロナ治療用の実験薬を1度投与。その後、トランプ氏は軍病院に入院した。

3. 10月3日(土)には、レムデシビルの2度目の投与が行われた。

4. 10月3日(土)に、2度目の酸素補給が行われたかは不明だが、行われていたとしても非常にわずかな量だという。

5. 10月2日(金)以降は、トランプ氏は発熱もしておらず、滞在しているスイートルームを問題なく歩き回っている。

6. 「X線写真は肺炎の兆候や肺の損傷を示しているか?」という質問に対しては、医師は回答を控えた。しかし、「予想されていた発見はいくつかあるが、医学的に大きく懸念されるものは何もない」と話した。

7. 「血中酸素濃度が90%以下に低下したことがあるか?」という質問に対しては、医師は「80%台前半には落ちなかった」と答えたに留まった。

8. トランプ氏にはこれまで72時間、解熱剤を服用していない。投与された薬の副作用も出ていない。

主治医は事実を隠蔽か

 ちなみに、10月3日に行われた記者会見では、「トランプ氏に酸素補給をしたのか?」という質問に対し、医師は曖昧にしか答えなかったために批判を受けた。

 10月4日の記者会見でも、医師はその点を蒸し返され、「なぜ、昨日は、トランプ氏が酸素補給を受けたかどうかについてはっきり答えなかったのか?」と詰問された。

 コンリー医師はそれについてこう弁明した。

「大統領の楽天的な姿勢を示そうとしたんだ。病気の経過を別方向に導く情報は与えたくなかった。そのため、何かを隠そうとしているかのような印象を与えてしまったが、隠そうとしたのではなかった。実際のところ、トランプ氏は非常に良好だ」

 つまり、トランプ氏がポジティブな姿勢であることから、医師は“病気の経過を別方向に導く情報は与えたくなかった”、別方向、つまり、悪化していると思わせるような話はしたくなかったということになる。“隠そうとしたのではなかった”と弁明したものの、実際、それは隠蔽と変わりがないのではないか? もっとも、トランプ氏がそうするよう医師に仕向けたのか、医師が忖度してそうする判断をしたかは不明だ。

感染を「誰にも言うな」

 また、医師団による一連の記者会見では、透明性の欠如が問題視されている。特に、トランプ氏が最後にコロナ検査で陰性結果を得たのはいつか、そして、初めて陽性結果を得たのはいつかという点が一番の謎なのだが、コンリー医師は最後までそのことを明らかにしなかった。

 しかし、そんな謎解明に繋がる記事を米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが掲載している。同紙によると、トランプ氏はすでに簡易検査で陽性判定を受けていたが、それを明らかにせず、アドバイザーにも陽性判定を口止めしていたと報じている。

 ホワイトハウスでは、まず簡易検査が行われ、それで陽性だった場合、鼻腔サンプルのPCR検査が行われている。

 同紙によると、トランプ氏は10月1日(木)夕方時点ですでに簡易検査で陽性であることが判明していた。トランプ氏はその後、友人のショーン・ハニティー氏が司会を務めるフォックスニュースの番組に出演したが、その中では、簡易検査で陽性という結果が出たことを明かさず、側近の一人(ヒックス氏のこと)が陽性になり、自身は「今夜早くか明朝、検査結果がわかるだろう」と2回目の検査結果待ち状態だと言及するに留まったという。つまり、この時、トランプ氏は簡易検査の陽性判定を受けて行われたPCR検査結果を待っていたわけである。その後、トランプ氏はPCR検査でも陽性であることが判明した。

 また、同紙は、トランプ氏が、自身が簡易検査で陽性結果だったことについて、「誰にも言うな」とアドバイザーに口止めしたことも報じている。

10月1日に陰性から陽性へ?

 また、同紙によると、ヒックス氏は10月1日朝、陽性という検査結果を受け取ったが、ブルームバーグ通信が同氏の感染を初めて報じた同日夕方まで、トランプ氏の側近たちはそれを極秘にしていたようだ。

 10月1日朝、ヒックス氏の陽性がすでに判明していたにもかかわらず、トランプチームは同日午後ニュージャージー州で基金調達イベントを開催、トランプ氏も100人ほどの支援者が集まったそのイベントに参加した。これに対して、ある関係者が、10月1日朝に行われた簡易検査ではトランプ氏は陰性だったからイベントに参加したと説明したという。

 もしそれが本当なら、トランプ氏は10月1日の朝時点では簡易検査で陰性だったが、同日夕方時点の簡易検査では陽性に転じていたことになる。

 10月2日朝にトランプ氏は発熱したが、新型コロナは発症の数日前から感染力が高まることを考慮すれば、ニュージャージー州で行われた資金調達イベントに参加したトランプ氏はすでに感染力が高い状態だったと考えられる。

 また、9月26日朝、第一回目討論会の準備のために集まったヒックス氏、元ニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏、元大統領顧問のケリーアン・コンウェイ氏、選対本部長のステピエン氏は、その後、みな感染が判明した。

 10月5日には、大統領報道官のマクナニー氏の感染も判明した。

外出は“狂気の沙汰”

 アメリカ各地で選挙集会を開いてきたトランプチームの関係者の感染が次々と判明している状況だが、感染者のコンタクト・トレーシングがなおざりにされていることも問題視されている。

 そして当のトランプ氏は10月4日、隔離生活中の身でありながら、外出して、病院前に集まっている支援者らに手を振った。医療関係者からは「シークレット・サービスに感染リスクを与える無責任極まりない行動だ」「狂気の沙汰だ」など批判の声があがっている。

 支持率ではバイデン氏がトランプ氏との差を広げたが、トランプ氏の狂信的支持者も、人の感染を案ずるより自身の選挙活動を優先させる自己愛の強いトランプ氏に愛想をつかし始めたのかもしれない。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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