メタボ基準が変わった?腹囲に身長を考慮しないのはおかしい?【管理栄養士が解説】
今年3月、メタボリックシンドローム(以下、メタボ)の新しい診断基準案が発表されました。実際の診断基準はまだ変更されておらず(2024年7月現在)新潟大学の研究チームが案を公表した段階ですが、大きな話題になりました。
現行の基準では、腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上とされていますが、新基準案では男性83cm以上、女性77cm以上に修正されています。(出典1)
筆者が人間ドックを行うクリニックで勤務していた際、メタボの診断基準(特に腹囲)に関して、以下のようなご質問がよくありました。
そこで今回は、現行のメタボ診断基準を踏まえ「腹囲」に着目する理由を解説します。
腹囲は「内臓脂肪蓄積」の指標
腹囲に着目する理由は、内臓脂肪の蓄積レベルをチェックするためです。
内臓脂肪細胞から分泌される「アディポサイトカイン」は、高血圧や高血糖、脂質異常の引き金となり、心筋梗塞や脳梗塞などの危険性を高めます。
・高血圧や高血糖によって、血管の内壁が傷つきやすくなる
・血中コレステロールや中性脂肪が増加すると、血管壁の傷からコレステロールが入り込み、血管を狭くする
これらのメカニズムにより血管が詰まりやすくなり、心臓で詰まれば心筋梗塞・狭心症、脳で詰まれば脳梗塞が発症するというわけです。
内臓脂肪の蓄積を最も正確に把握できるのは、CTスキャンを使用してへそ位置の断面像を測定し、内臓脂肪面積を算出する方法です。CTスキャンで求めた内臓脂肪面積100平方センチメートル以上の人では、それ以下の人より合併している病気が50%多いことが明らかになっています。(出典2)
しかし、健康診断で全員にCTスキャンを行うのは現実的ではありません。そこで、内臓脂肪面積100平方センチメートルに相当する腹囲として、現行の基準値が設定されています。
なお新基準案では、これまでの基準ではリスクを見落としていた可能性があることが指摘され、先述した新しい腹囲の基準が設定されています。
身長は考慮する必要がない
ここで「背が高いから、基準を超えていても問題ないのでは?」という疑問について解説していきます。
腹囲(ウエスト)と「ウエスト/身長比」どちらが病気(高血糖、高血圧、脂質異常症)のリスクとの関連があるかを調べた研究があります。その結果、有意な差はないものの、どちらかといえばウエストのほうが関連が強い傾向があることが示されています。(出典3)
このため、病気のリスクを判定するための指標として腹囲を考えた場合、身長を考慮する必要性はないといえます。
腹囲以外の基準も重要
次に2つ目の疑問「筋肉で腹囲が大きくても、腹囲を基準に判断するのか?」に答えていきます。
腹囲と内臓脂肪面積や病気のリスクに相関があるとはいっても、個人レベルで見た場合には、筋肉などその他の要素によって腹囲が大きくなっている可能性は否定できません。気になる方は、人間ドック施設で内臓脂肪CTの検査を受け、内臓脂肪面積を測定してみるのもひとつの手です。
ただし、ここでひとつ押さえておきたいのは、メタボの基準は腹囲だけではないということです。
腹囲(またはBMI)と合わせ、血液検査などの結果で以下の3項目中2項目以上該当することが条件です。(出典4)
・中性脂肪150mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dL未満
・収縮期血圧130mmHg以上 かつ/または 拡張期血圧85mmHg以上
・空腹時血糖110mg/dL以上
これらはそれぞれ「脂質異常症」「高値血圧」「境界性糖尿病」の基準としても使用されている数値です。つまりメタボと診断された場合は、腹囲が大きい理由に関わらず、将来の病気につながる変化が体に起こっている状態といえます。
メタボは重大な病気の入り口ではありますが、まだ予防ができる段階です。食生活の改善や適度な運動を心がけることで、将来の病気のリスクを軽減できる可能性があります。生活習慣を見直し、できることから取り入れていくことをおすすめします。
食事や運動の詳しい取り組み方は、過去の記事をご覧ください。
HDLコレステロールが低いと言われたら?食事と運動のポイントを管理栄養士が解説
中性脂肪が高いと言われたら?食事と運動のポイントを管理栄養士が解説
血圧が高いと言われたら?食事と運動のポイントを管理栄養士が解説
血糖値が高いと言われたら?食事のポイントを管理栄養士が解説
血糖値が高いと言われたら?運動のポイントを管理栄養士が解説
【出典】
(1)新潟大学「心血管疾患発症高リスク者スクリーニングに最適化したメタボリックシンドローム(MetS)診断基準の修正案を作成」
(2)公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット 腹囲の基準は、なぜ85cm?」
(3)国立研究開発法人国立がん研究センター がん研究対策所予防関連プロジェクト「身体指標とメタボリックシンドロームとの関連について」
(4)厚生労働省「e-ヘルスネット メタボリックシンドロームの診断基準」