なぜ「ロジカルな人」のほうが、人の心がわかるのか? 「ロジカル風な人」との決定的な違いとは?
■ ロジカルな人は、本当に人の心がわからないか?
「理屈で物を言う人は、上から目線だから苦手」
「人はロジックでは動かない。ロジカルシンキングばかり勉強している人は、人間の大事な部分をわかっていない」
ある日、大企業に勤めるスタッフからこのように言われて、強い違和感を覚えた。相手には伝えなかったが、まず、そもそもこの言い分がロジカルでなく、説得力がないと思えたからである。
「ロジカルな人って、わかったような口をきくじゃないか。だから人の心がわからないんだ」
立て続けに、このように言うものだから、私も反論したくなった。「あなたがわかったような口をきいているのではないか」と。そもそも論理的であることの意味を、はき違えている。
今回はなぜ「ロジカルな人」のほうが、人の心がわかるのか? 「ロジカル風な人」との違いについて徹底解説する。ぜひ最後まで読んでもらいたい。
■ 気を付けたい「ロジカル風な人」
まず、論理思考力がある人を「理屈っぽくて融通のきかない人」と、定義づけているなら、話が噛み合わないと覚えておくべきだ。論理的に物事を考えるうえで、まず知るべきは「前提」をそろえることである。「前提知識」が足りないなら、論理的な会話が成立しない。
次のAさんとBさんの会話を読んでみよう。
A: 「売上が上がらないから、キャンペーンをやった方がいい」
B: 「どうして」
A: 「過去に、キャンペーンをやって業績が回復したことがある」
B: 「何を言ってるかわからない。問題の捉え方がおかしいから、解決策もおかしくなる」
A: 「はあ?」
B: 「まず手順として、売上が上がらない問題を正しく特定することが先だ。そして問題を特定してから真因を探り、解決策を練る」
A: 「実は、もう社長にキャンペーンをやるべきだと進言してしまった」
B: 「結論ありきで考えるな。過去にうまくいったからとか、もう社長に言ったからとか、そんな理由でキャンペーンをやるだなんて、言い分は通らない」
A: 「じゃあ、どうすればいいんだ。批判ばかりしやがって。お前は俺の苦労がわからないんだ。一度、俺の立場になってみろよ」
B: 「そういう問題じゃないだろ。まいったな。これだから論理思考力がないヤツは困る。すぐに感情的になるんだから」
以上の会話文を読んだら、いかにもBさんの方がロジカルに物事を考えているように見えるだろう。しかし実際は、五十歩百歩である。どちらも論理思考力が足りない。たちが悪いのは、Bさんが「ロジカル風な人」に見える、ということである。
同業のコンサルタントには、こういう人がとても多い。
私は剣道をやっていたので剣道でたとえるが、剣道をはじめたばかりの人が竹刀を振り回している感じと言えばいいだろうか。ロジカル風なコミュニケーションをしているが、「まだ覚えたてで、体に馴染んでいない」状態である。うまく武器を使えていない。
■ 本当に論理的な人は、人の心をわかろうとする
本来、論理思考力がある人は、視野が広い。状況に応じ、視座を高めて物事の全体像をとらえようとする。この会話文を読む限りでは、Aさんの置かれた立場に立って、Bさんはコミュニケーションをとっていないようである。だからAさんを怒らせてしまったのだ。
正論をぶつけて、相手を言い負かそうとする姿勢は、決して褒められたものではない。本当にBさんが論理的な人だったら、おそらく以下のようなコミュニケーションをとるはずである。
A: 「売上が上がらないから、キャンペーンをやった方がいい」
B: 「どうして」
A: 「過去に、キャンペーンをやって業績が回復したことがある」
B: 「たしかに、そうかもしれないけど、他にも解決策があるかもしれないよ。でも、そういうわけにはいかないか」
A: 「そうなんだ。俺の部署ができることって、何らかのキャンペーンをやることぐらいしかない」
B: 「部長が好きだもんな。キャンペーンが」
A: 「実は、もう社長にキャンペーンをやるべきだと進言してしまった」
B: 「わかった。まずキャンペーンを成功させよう。成功させれば、部長や社長にも、別の施策を提案できるかもしれない」
A: 「そうなんだ。まず俺が結果を出さないと、話を聞いてもらえない。企画部に異動してから、何も評価されていないから」
B: 「俺も協力するよ」
本当に論理思考力がある人なら、Aさんの置かれた立場を考慮し、「正論を言ってAさんを説得できたとしても、その向こう側にいる部長や社長まで説得できるかというと、たぶんできない」と、仮説を立てられる。
組織という全体像を、俯瞰して視界におさめることができるからである。
<参考記事>
■【大作】新しい発想ができない人には絶対不可欠!「メタ思考」トレーニング3つのステップ
■ ロジカルな人は心理学を学ぶ
論理思考力がある人なら、いずれ心理学にたどり着く。人間は一人で生きてはいけない。ビジネスをしているなら、なおさらである。筋の通った話し方をすることで、説得力は増すが、説得技術で人を動かすことができないことは、経験を積めば誰でもわかる。
心理学は、人間の心を科学的に研究する学問である。実験、調査、研究を繰り返し、確立している。「認知心理学」や「行動経済学」「行動分析学」など、人の心理作用を体系的に整理した分野なら、世界的ベストセラーも多数ある。
人間の主観的な「認識」ではなく、実験結果など多数の「事実」をもとにして書かれているため、内容はきわめてロジカル。論理思考力が高い人ほど、興味深く読むことであろう。そして、組織で起こる、いろいろな事象(結論)の論拠はどこにあるのか。
「部下と信頼関係を構築するには、どうすればいいか」
「先送りをすればするほど、やる気が失せるのはなぜか」
「動機付けが必要なときと、必要でないときは、どんなときか」
このように仮説を立てて、検証し続けることができる。
最初はうまくいかなくても、自分自身で仮説検証サイクルを回していくから、徐々に人間関係もぎくしゃくしていかなくなる。
だから論理思考力がある人のほうが、感情のコントロールができ、柔軟になっていく。本当はまっすぐに進みたいけれど、この状況では遠回りしたほうが近道かもしれない、などと論理的に理解できる力があるのだ。人間関係を良好にするためにも、基礎的な論理思考力を身につけていきたい。
<参考記事>