政治におけるジェンダー・女性の問題を考えるうえで貴重な報告書が出された
最近、衆議院が興味深い報告書をまとめて、公表した。それは、『IPUジェンダー自己評価「議会のジェンダー配慮への評価に関するアンケート調査」報告書』(衆議院事務局(調査局IPU調査プロジェクトチーム) 2022年6月)である。
同報古書は、全衆議院議員(昨年秋の選挙で当選した衆議院議員)および政党を対象に対して行ったアンケート調査などを基に、作成したものである。その体裁や記述も非常に地味で、飽くまでも情報提供メインで分析・検討やそれに基づく提言などはないが、日本の閉塞し混迷する政治および政策形成の状況を考えた場合に、その状況を打破・改善するうえで非常に重要な点である政治のプレイヤーを大きく入れ替えるという観点から(注1)、貴重な情報を提供しているということができる。
同報告書は、2022年2月25日、超党派議連「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟(会長:中川正春衆議院議員(立民))」より、細田博之衆議院議長(海江田万里同副議長立会い)に対して、IPU(Inter-Parliamentary Uniou、列国議会同盟)が作成した、各国議会がこれを基にして主体的にジェンダー配慮の自己評価を行い、具体的な提言につなげることが期待されている「自己評価ツールキット」(2016年公開)を活用した衆議院での自己評価の実施に関する申入れがなされた。これを受け、衆議院議院運営委員会(委員長:山口俊一衆議院議員)が協議・審議しながら、アンケート調査が実施され、衆議院事務局がとりまとめたものである。
同ツールキットは、2016年の公開以来これまでに、全世界の国々のうち、英国、コロンビア、ジョージア、ケニア、ナミビア、セルビア、タンザニアの7か国(注2)において、それを利用した自己評価が確認されているに過ぎないという。また上記国のうちコロンビアとジョージアは、自己評価の一環として、議員に対するアンケート調査を実施しているとのことである。
上記のことからもわかるように、日本の衆議院が、この自己評価のツールキットに基づいて作成されたアンケート調査を行い、その成果をまとめたことは、ジェンダー(特に女性)比率の改善に対する認識や意気込みが高いと評価できると考えていいだろう。
他方、同報告書は、衆議院議員や政党のアンケート調査の結果の情報を単に整理しまとめたものだ。また「各議員が忌憚なく意見を表明できるように、議員アンケートは無記名式で行うこととし、また、政党アンケートについては、報告書作成の際、政党名を記載しないこととする方針(同報告書より引用)」で行われた。
これらのことからもわかるように、同報告書は、貴重な情報を回収・整理しまとめてはいるが、当該の対象問題について検討・分析がなされておらず、また収集情報の提供をしているのみで、これを社会的にどのように活用するかは国民等(特にメディアや研究者・専門家等)に委ねられている。その意味で、具体的な行動や活動につなげていくのが難しい体裁になっているといわざるを得ないのである。
それでも、いくつかの興味深い回答や内容を見出すことができる。
本報告書のアンケート調査への有効回答数(回答率)は、衆議院議員465名に対して、382名(82.2%)であり、58項目という多くの質問項目であることや無記名式であるにもかかわらずこれだけの回答数(率)があったということは、当該対象テーマに関して、衆議院議員の間でも、高い関心があると推測することができる。また近年の女性の役割や社会進出に対する国民の社会的な関心の高まりも、議員の回答率の高さに影響していると考えることができるだろう。
それに当該対象テーマである女性の政治参加等は、社会におけるトレンドからも、だれも否定できない課題になってきている。他方で女性の政治参加(ここでは国会・衆議院の議席獲得)は男性の議席の喪失や獲得の困難化を意味するというゼロサム状況を意味する。
このような状況のなか、同報告書のアンケート結果においても、多くの議員(衆議院議員)が議席数における現在の男女数(率)を問題としてとらえていることがわかる。
より具体的には、「現在の国会における女性議員の数は十分と考えますか」との問いに、男女を含めた全国会議員において、「不十分」「どちらかといえば不十分」の回答が合わせて、82.7%を占めたのである。
しかしながらその回答を男女別の議員でみると、男性議員よりも、女性議員の方がこの点における問題意識は高いことがわかる(図表1参照)。男性議員からすれば、この点における問題・課題はわかっても、女性議員の増加は、自身の議席を失う危険性につながるので、当然の結果ともいえるであろう。
このことは、同アンケートの「国会の要職に占める女性の割合は十分と考えますか」との問いに対する男女議員の回答にもほぼ同じような傾向がでている(図表2参照)。これも、上記の問いと同じように、現状および変化に伴う男女議員の有利性と予見しうる不利益性への認識による結果であると考えることができるだろう。
他の質問項目にも、同様の傾向がみられる。このように考えていくと、そこに見えてくることは、次のようなことになろう。
・一般論として、女性の国会議員の数・率は増やすべきであろう。
・しかしながら、すでに国会で議席を獲得している立場(男性議員)からすると、女性の国会議員の数・率の増加は、自身に不利であるので、積極的には推進できない。
同報告書は、衆議院議員および同議員が所属する政党を対象に行ったアンケート調査を基にまとめたものである。衆院議員は定数465人中、女性は現在46人(9.9%)にすぎず、その多くは男性議員なのである。それらのことを踏まえると、衆議院の議員全体として、現状を変えて、女性議員の数や率を大幅に変更していくインセンティブや力が生まれににくいのが現状だといえよう。
他方、7月10日に投開票された参議院議員選挙で、過去最多の35人の女性議員が誕生し、非改選と合わせた参院の女性議員は定数248人の中64名(25.8%)となった。この数字は、政治において議員候補者の一定数を女性と定める制度であるいわゆる「クオータ制」が実現しているかのように見える。
しかしながら、同報告書では、女性議員の方がその傾向が強かったが、「一定数の女性の議員を確保するための仕組み(制度)は必要だと思いますか」という問いに、「必要」および「どちらかといえば必要」との回答の割合は49.6%でほぼ半数に迫った。そしてそのように回答した議員の自由記述による具体的な仕組み(制度)の提案は、その対象におけるバリエーションはあるが、クォータ制をあげたものが多く、さらにパリテ制類似の法整備(注3)なども挙げられた。
しかしながら、他国における関連する事項に関する経験などをみても(注4)、義務制などのかなりの強制力や社会的にそれが必然的に必要とされる状況でも起きない限り、女性をはじめとする男性以外のジェンダーの議員の数・率を拡大していくことは容易ではないというのが現実なのである。特に、日本のように今も男性中心的社会で、男性議員がマジョリティの国会・議会・政治の状況では、その実現への道のりは厳しく、国会・議会の側からは、その変化を求めることは必ずしも高まってこないと考えられる。
以上のことからもわかるように、現状を変えていくには、国会・議会や政治の側からの変化を待っているだけではダメなのである。
それはつまり、メディアを含む社会や国民が、大きく変化する国際情勢のなか、低迷する日本の政治や政策形成に喝をいれるためにも、政治のプレイヤーを大きく変更、入れ替える必要性があることを的確に理解し、政治・政党に積極的に要求したり、働きかけたりしていくことが大切であり、必要不可欠であるということを意味するのである。
(注1)この点に関しては、次の拙者記事等を参照のこと。
・「義務的パリテ制の導入で、政治のプレイヤーを代えよう」(Yahoo!ニュース、2022年2月20日)
・「日本の政治を変えるために『政党助成金』を変えてはどうか?」(Yahoo!ニュース、2022年2月24日)
(注2)IPUの2020年の情報によれば、女性議員比率ランキングに対象国は193か国で、1位はルワンダ(55.70%)、最下位(193位)がバヌアツ(0.00)であった。自己評価実施国である英国(30.20%)51位、コロンビア(19.60位)115位、ジョージア(14.10%)150位、ケニア(23.30%)85位、ナミビア(37.00%)33位、セルビア(37.70%)30位、タンザニア(36.90位)34位であった。なお、日本(14.40%)147位であった。()内が女性議員比率(%)である。
(注3)パリテ法とは、「男女平等(同数)の政治参画を規定しているフランスの法律。選挙の候補者を男女同数にすること、候補者名簿を男女交互に記載することなどを政党に義務付けている。2000年6月制定。パリテは、フランス語で「均等・同数」という意味。女性に一定の議員・閣僚の枠を割り当てるクオータ制が社会的マイノリティーの権利擁護を目的にしているのに対し、男女の性差を普遍的な差異と位置付けるパリテは更に踏み込み、社会のあらゆる意思決定の場に男女が平等にかかわることを目的にしている。…以下、略…」(大迫秀樹 フリー編集者/2019年)(出典:「知恵蔵」((株)朝日新聞出版))
(注4)この点に関しては、次の拙者記事等を参照のこと。
・「国政で女性議員約5割を実現するメキシコに学ぶ女性の政治参画(上)」(Yahoo!ニュース、2022年2月6日)
・「国政で女性議員約5割を実現するメキシコに学ぶ女性の政治参画(下)」(Yahoo!ニュース、2022年2月7日)