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国政で女性議員約5割を実現するメキシコに学ぶ女性の政治参画(下)

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
メキシコでは様々なジェンダー平等に向けた動きもある(写真:ロイター/アフロ)

             …前号からの続き

 このような社会環境を背景にして、女性の政治参画の実現には、次のようないくつかのポイントがあったからということができる。

1.厳格かつきめ細かな制度の義務化

 メキシコにおいても、クオータを導入しても、政治は男性(優位)社会であるために、女性の政治参加は現実にはなかなか高まらなかったことは既に述べた。実際に女性国会議員の比率が増えたのは、クオータ義務化、特に政党候補者へのパリテ導入の厳格な義務化が行われてからである。

 つまり、従来のクオータには抜け穴があり、政党は小選挙区制の候補者の配置で男性優位な扱いができたのを、選挙に関わる争いや選挙結果などの管轄に特化した選挙裁判所の歴史的判決や法改正と共に、関連機関の対応や情報公開などを通じて、その抜け穴を徐々に塞ぎ、政党が厳格に女性議員の選択肢にせざるをえない環境をつくってきたのである。その実現で重要であったことは、そのような環境実現のためのかなりきめ細かな条件設定の義務化がキーであったといえるだろう。

 これに対して、日本では、政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(2018年5月23日公布・施行)およびその改正(2021年6月16日公布・施行)が行われ、「衆議院、参議院及び地方議会の選挙において、男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指すことなどを基本原則とし、国・地方公共団体の責務や、政党等が所属する男女のそれぞれの公職の候補者の数について目標を定める等、自主的に取り組むよう努めることなどを定めてい」るが(注1)、努力規定に留まり、先述したデータからも推測されるように、その理想には程遠いのが現実である。

 日本も、メキシコの先例から学び、きめ細かな条件付けとその義務化規定が必要とされるところだ。

2.女性の活躍

 メキシコでは、候補者の40%のクオータ義務化(2008年導入)が実現したが、政党の男性候補者の有利な取り扱いや形だけの男女あるいは女男の正候補者・補充候補者によってペア(異性間ペアリング)の仕組みおよびクオータ実現・当選後の女性候補の辞任などの実態などから、女性議員は、2009年の選挙で、2003年選挙の22.6%から5.6%増の28.2%になっただけだった。このような問題・課題やスキャンダルに対して、メディアも大々的に批判した。

 このような状況に激怒した女性の政党リーダーや議員、フェミニスト活動家、研究者そしてジャーナリストなどが集まり、ネットワークを形成し、パリテ実現に向けて活発に活動したのである(注2)。

 同ネットワークは、クオータ法において、その抜け穴を封じると共に、不明確な定義の部分を明確にすることに尽力し、連邦選挙管理機構(Instituto Federal Electoral: IFE)により厳しい既定の制定を要望した。

 また選挙裁判所は、民主革命党(Partido de la Revolucion Democratica[PRD]、左派)、制度革命党(Partido Revolucionario Institucional[PRI]、中道)その他の主要リーダーが署名したMePからの訴状を受けて、予備選挙によるクオータ免除および異性間ペアリングを否定する歴史的判決を下した。同裁判所は、その後も、MePの訴訟に応じて、比例名簿上の完全な男女交互制を容認する判決などを出した。

 このような中、世論の支持も得られるようになると、IFEもそれまでの抑制的な姿勢からより積極的な姿勢に転じ、当初政党も対抗したが、最終的には40%クオータを遵守した候補者名簿を提出するに至ったのである。

 このように、女性の議員を核とした女性のネットワークが、メキシコにおける女性の政治参画の拡大に重要な役割を果たしたのである。なお、この女性議員たちは、超党派というよりも、党派を超えて、当事者として、党内でも戦いながらも、パリテ実現の変革のために女性同士で連帯するしかなかったという状況があったという背景も知っておくべきだろう。

 また、この活動とも関わるが、連邦議会には、ジェンダーに基づく争点である暴力、健康、政治参加等の分野における改革を行う委員会があり、主に女性議員が活躍している。上院の「ジェンダー平等のための委員会(Comision para la Igualdad de Genero)」、下院の「ジェンダー平等委員会(Comision de Igualdad de Genero)」である。

ダイバシティーは社会変革のキー
ダイバシティーは社会変革のキー提供:イメージマート

3.裁判所や独立機関、監視機関などの役割や活躍

 女性の政治参画としてクオータやパリテの制度やその理念の実現が図られてきたのは、メキシコには、その実現を生みだし、促進してきた、次のような様々な機関や制度が存在しているからだ。

・連邦選挙管理機構(Instituto Federal Electoral: IFE)・国家選挙管理機構(Instituto Nacional Electoral: INE、IFEの改組機関)

 IFEは当初、政党への介入で権限削減などの報復がある恐れから、クオータやパリテの厳格な対応に消極的であったが、世論の支持が広がる中、積極的姿勢に転じ、その傾向の動きで重要な役割を果たした。現在のINEは、内務大臣から外れ、市民代表だけが投票権を有する独立性の高い組織である。

・連邦司法選挙裁判所(Tribunal Electoral del Poder Judicial de la Federacion: TEPJF、「選挙裁判所」と略す)

 IFEと同様に当初女性の政治参画推進に消極的な姿勢であったが、世論の変化と共に変化した。特に2007年にカルメン・アラニス氏が初の女性長官に就任すると、選挙裁判所は、政治分野でのジェンダー平等実現において積極的な姿勢に転じ、重要なな役割を果たすようになったのである。

・国家女性庁(Instituto Nacional de las Mujeres: INMUJERES)

 2001年の国家女性庁法(Ley del Instituto Nacional de las Mujeres)を根拠法に設立された独立機関で、2006年のジェンダー平等法を基に制度化されたもので、連邦・州・ムシピオ(自治体)の各レベルのジェンダー平等の取り組みを調整する中枢機関である。

・監視機構(Unidad Tecnica de Fiscalizacion)

 INEの外郭機関であるが、後述する政党助成金の監視を行い、女性政治家育成のための研修費として適正に使用されるようにしている。

・女性の政治参画監視機構(Observatorio de Participacion Politica de las Mujeres)

同機構は、INE、IMMUJERES、選挙裁判所が、2014年に共同で、女性の政治参画推進のために設置されたプラットフォームで、パリテが連邦および地方で遵守されているかを監視するアライアンスである。

・政治分野におけるジェンダーに基づく女性への暴力に取り組む議定書(Protocolo para la atencion de la violencia politicia contra las mujeres en razon de genero)

 同議定書は、2018年選挙でパリテ実現を目指す中で、女性候補者へのハラスメントや暴力が予想されたのを受けて、2016年に連邦レベルで作成されたものである。同議定書は、「ジェンダー暴力を定義した上で、司法府や様々な行政機関が果たすべき役割を特定し、被害が生じた場合の相談、訴追、保護プロセスを定めることで、司法・行政機関の職員がジェンダー暴力に対する共通認識を構築し、機関横断的に効果的に調整・連携して被害者を保護できるようにすることを目的としたガイドライン」で、ジェンダー暴力の存在を正面から認めることを重視し、その具体例を明示し、「既存の法律にさらに明瞭な罰則を追加するように促すもの」である(注3)。

 上記のような組織や仕組みなどが相互に影響し絡み合いながら、メキシコにおける女性の政治参画を促進していったのである。

4.女性人材の確保と育成

 上記のような様々な組織の動きと活躍が、女性の政治参加促進の環境を形成していった。しかし、その環境で活躍できる女性人材が生まれてこない限り、女性の政治参画の拡大は実現しない。

 特にメキシコでは、政治における女性の参画や活用に対して、男性からの抵抗を強かった。そこで、クオータ推進派は、政府から得票率等に応じて政党に配分される政党助成金の一定の割合を、女性の政治家育成の研修費にすることを要望したのである。結果、2%充当が義務化され、2014年には3%に増額されたのである。

 ところが、その義務化の当初は、政党はその費用を、無関係の項目に流用したりした。そこで、各党の女性議員らが結集し、INEに助成金使途の監視を要望した。それを受けて、先述した監査機構が設立されたのである。なお、使途違反の場合、罰金も課せられる。

 いずれにしろ、仕組みとして女性の政治を育成できるような資金がつくられているのである。日本でも、一部の政党や議員、民間組織などの女性政治家育成の場は存在しているが、恒常的で制度化されているとはいい難い面がある。

5.様々なプレーヤーや組織などの相互作用と相互連携および世論やメディアの支持

 既に述べたところにも記載されているが、メキシコにおける女性の政治における参画や活躍は、様々なプレーヤーや組織などの活動やそれらが相互に補完し合うことで、実現されてきた。その活動が継続し、拡大したのは、時に政治などにおける後ろ向きな動きを批判し、時にそれらの動きを支持・促した社会の世論やメディアの動きも重要な役割を果たしてきたことを忘れてはならない。

 これまで、メキシコにおける女性の政治の参画や活躍について検討してきた。その進展がこの30年ぐらいで、ここまで実現してきたことは、ある意味驚異的な出来事であるということができる。

 他方で、先にも述べたように、メキシコは男性優位社会であるので、現在も女性議員へのハラスメントや制約等も多く、解決すべき問題・課題は多々あるようだ(注4)。また、メキシコは、「官製フェミニズム」によって、女性の政治参画は国政(連邦)レベルではここまで進んできたが、州レベルにおいては停滞している面もある。

 その意味では、同国におけるさらなる女性の政治の参加や活躍やジェンダー平等などにおける改革には今後も注目していくべきだろう。

 いずれにしても、これまで述べてきたメキシコにおける経験は、言葉だけで具体的に進展していかない日本の女性をはじめとするジェンダー平等や政治参画を進めていくうえで、大いに参考になるということができるだろう。

(注1)出典:「政治分野における男女共同参画」男女共同参画局HP

(注2)このネットワークは「多様な女性たち(Mujeres en Plural: MeP)」と呼ばれる。

(注3)出典:「3.メキシコの事例」(庄司香、『令和元年度 諸外国における政治分野への女性の参画に関する調査報告書』[アイ・シー・ネット、2020年]、pp107

(注4)「3.メキシコの事例」(庄司香、『令和元年度 諸外国における政治分野への女性の参画に関する調査報告書』[アイ・シー・ネット、2020年、pp85-119、内閣府男女共同参画局ウェブサイト])などを参照のこと。

【参考文献】

『令和元年度 諸外国における政治分野への女性の参画に関する調査報告書』アイ・シー・ネット、2020年、pp85.-119、内閣府男女共同参画局ウェブサイト)

「諸外国における政治分野の男女共同参画のための取組」男女共同参画局HP

列国議会同盟(IPU)「Women in Parliament」仮訳 男女共同参画局HP

政治分野における男女共同参画の推進に関する法律 男女共同参画局HP

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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