日本の政治を変えるために「政党助成金」を変えてはどうか?
日本は、従来からの行政中心の政策形成では急速な社会変化対応が難しいことや、そこにおける問題や課題が生じたために、その対応として「政治主導」の仕組みつくりが、主に1990年代以降行われてきた。その結果、小選挙区制導入、政策担当秘書制度の成立、官邸主導体制を含む中央省庁の再編などの様々な制度や体制が構築されてきた。
その結果、ある意味の「政治主導」体制は実現してきたといえるが、その本質は、「行政中心の政策形成・政治」に「政治」のスパイスを塗した程度のものなのではないだろうか。その結果が、行政が政治に忖度、シュリンクし、その役割を十分に果たせなくなってきていると共に、政治も有効かつ適切に行政・官僚を活用できるようにはなっておらず、その結果として行政および政治の双方がその役割において中途半端な状況に陥っており、低迷傾向にある日本社会に有効な政策を創り出すことができない状況が生まれてきているといえるのである。
筆者としては、時代の要請的に「政治主導」という方向性は誤っていないと考えている。
他方、その「政治主導」が有効に機能するには、行政中心で機能してきた日本の政治活動や政策形成をコントロールし、変更させられる政治の側の成長や変化が必要だ。
しかしながら、政治が社会の変化に対応できるように小選挙区制が導入されたが、それに対応する形で政治、特に政党が変化・改善、成長してきたかというと大いに疑問だ。
確かに、小選挙制の導入で、政党の本部の力は集権化され、強化され、以前ほどは党内の派閥の力などは弱まった。派閥はそれまでは、政党内で競争し、切磋琢磨し、政治リーダー人材を育成し、時に疑似政権交代を行い、政治のダイナミズムをつくり出し、時代や社会の要請に応えることができた。だが今は、派閥は、そのような機能はかなり減衰してきており、役割を終えた感がある。
その意味からも、政党が大きく変化し、その不足分をカバーし、新しい状況に対応し、新しい人材育成や政党の能力・機能を飛躍的に向上することが必要である。だが現実にはそのようにはなってきていない。以前同様、政党、特に与党自民党は、今も個人の議員や候補者の後援会を積み上げた集合体に過ぎない。
その結果として、時代や社会の変化の中、日本の政党は、その役割や機能を、本来はより大きな役割を担えるはずなのに、時代や社会の変化に追いついてこれていず、ある意味退化させてきた感がある。
上述してきたことを踏まえて、本記事では、政党が変化し政治バージョンアップを図るための方策について考えていきたい。政党に関しても多くの論点があるが、ここでは話を分かりやすくするために、「政党助成金」に焦点を絞って論じていくことにする。
政党助成金(政党交付金)については、総務省のHPに、次のように書かれている。
「政党助成制度
政党助成制度は、議会制民主政治における政党の機能の重要性にかんがみ、選挙制度及び政治資金制度の改革と軌を一にして創設された、国が政党に対する助成を行うことにより、政党の政治活動の健全な発達を促進し、もって民主政治の健全な発展に寄与することを目的とした制度です。
政党助成法(平成6[1994]年2月4日公布、平成7[1995]年1月1日施行)には、政党助成を行うにあたって必要な政党の要件、政党の届出その他政党交付金に関する手続きのほか、政党交付金の使途の報告などについて定められています。」
また、その金額については、次のように書かれている。
「政党交付金の総額
毎年の政党交付金の総額は、人口(直近において官報で公示された国勢調査の結果による確定数)に250円を乗じて得た額を基準として予算で定めることとされており、平成27年国勢調査人口により算出すると、約318億円となります。
250円 × 127,094,745人(平成27年国勢調査人口)=31,773,687千円
総務大臣は、各政党から届出のあった所属国会議員数、衆議院議員総選挙及び参議院議員通常選挙の得票数に応じて、各政党に交付する政党交付金の額を算出します。」
ではなぜこのような助成金が設けられたのか。それは、政治には、選挙のための活動費や政治団体や事務所の運営費などの多くの資金が必要だからである。
そのような資金獲得のために、議員や候補者による不当な資金集めやそれに伴う歪んだ政治が行われていた。そこで、そのような多額の資金獲得の負担を減らし、不当な資金集めを防止すると共に、政治活動の透明性を図る目的から、政党助成金がつくられたのである(注1)。
しかしながら、その後も、議員や候補者による政治資金の使途における様々な問題は後を絶っていないし、また政党助成金自体の想定外の使われ方等の問題も起きているのが現状である。
また、総務省のHPには、政党助成金の使途について、次のように記されている。
「政党交付金の使途
国は、政党の政治活動の自由を尊重し、政党交付金の交付に当たっては、条件を付し、又はその使途について制限してはならないとされています。
政党は、政党交付金が国民から徴収された税金その他の貴重な財源で賄われるものであることに特に留意し、その責任を自覚し、その組織及び運営については民主的かつ公正なものとするとともに、国民の信頼にもとることのないように、政党交付金を適切に使用しなければならないとされています。
政党交付金の使途の適正については、使途の報告を通じて広く国民の前に明らかにして、国民の批判と監視の下に置くことにより、これを図ることとされています。」
政党助成金の制度がつくられた時期から考えると(注2)、同制度は、本来は政治、政党がダイナミックに活動し、政治主導を実現するという目的も含意されて、つくられたと考えることもできる。
ところが、この制度は、国会で多くの議席を獲得した政党が、議席数に応じて、より多くの助成金を獲得できる仕組みであり、ある意味現状の維持・固定化につながりやすい仕組みなのだ。
以上のように政党助成金の経過および歴史並びに現状の政治を考えた場合に、政党および政治の新しい方向性や動きを生み出すために、同助成金に関して考慮すべき視点を提示すると共に、その活用に関しての提案をしたい。
1.考慮すべき点
次の2点が考慮すべきであるといえよう。
(1)使途の特定化
上述したように、「政党の政治活動の自由を尊重し、政党交付金の交付に当たっては、条件を付し、又はその使途について制限してはならない」とされているが、政党助成金の本来の趣旨である政治のダイナミズムを起こす役割・機能を果たせていず、また「政治の不当な資金集めを防止すると共に、政治活動の透明性を図る」目的も十分に果たされているとはいえない。その意味では、政党助成金の一部は使途を特定してもいいのではないかと考えることもできよう。
(2)増加額およびその使途の限定化
他方、既に使われている資金の変更は非常に難しいのが現実である。また現在の政党助成金の総額は必ずしも多額ではないことや政治(特に民主主義)には必要悪として多くに費用がかかる。これらのことを考慮して、政党助成金を、国民一人当たり250円から320円に増額し、総額で約318億円から約400億円に増額し、現在の相当額についてこれまで同様に使途特定しない代わりに、その増額分である約80億円については(注3)、使途を特性してはどうだろうか。またその使途に反した資金流用をした政党からは、全交付政党助成金を返金させるようにすべきだろう。
2.提案(増額政党助成金の使途)
では、その増額分はどのような目的に使われるべきだろうか。筆者は、現時点では、次の3つを考えている。
(1)政治のプレイヤーを変える(代える)ための活用
筆者は、拙記事「義務的パリテ制の導入で、政治のプレイヤーを代えよう」(Yahoo!ニュース、2022年2月20日)で、政治および政策形成の現状を変えるために、国政の議員の半数を女性にするための方策を提言した。その方向性をさらに推進するために、政党助成金の一部を政党は必ず女性候補者の発掘および育成に活用するように義務付けるのだ。その際にも、メキシコの義務的パリテ制やその経験が参考になる(注4)。金額としては、メキシコの事例なども勘案すると全体の約2、3%、10億円程度で十分ではないだろうか。
(2)政治に競争性を生むための活用
政治や政策づくりが活性化するには、政党や議員などの間に切磋琢磨の競争関係が生まれることが重要だ。特に民主主義においては、多様な意見や価値が活かされるために、特定の既得権益が権力を持ち続けないように、政権交代が起きやすい状況や仕組みづくりをしておくことは必須だ。
これに対して、現在の日本のように、与党には行政・官僚機構が強力にサポートし、議席数の関係からより多額の政党助成金が入る仕組みおよび環境等においては(注5)、政治や政策形成における緊張感も競争性も生まれにくい。
そこで、野党に資金的にハンデをつけるのである。より具体的には、政党助成金の一部を、野党のみが政策活動や国会活動に限って使用できる資金とすべきだろう。このような政党助成金を考える上では、英国の下院のショートマネーや上院のクランボーン・マネー(注6)が参考になる。この対象金額は、全体の5%、20億円ぐらいで十分ではないかと考える。
(3)政策活動強化のために活用
日本は相変わらず行政中心の政策形成国家だ。特に与党は、ある意味の政治主導が一部実現しているが、行政におんぶに抱っこして、政策づくりをやっている。行政は、政策づくりにおいて、今後とも重要なプレイヤーではあろうが、社会的には政策のアイデアや情報を創れる人材や組織・仕組みにおける多様化・多元化が必要だ。特に政党は、本来は国民・市民・有権者に近い存在であり、行政とは別に重要かつ多くの情報を得られる存在だ。
その意味からも、残る50億円は、政策活動に限定して使用されるべきだ。その際に、参考になるのは、政党助成金の3割が政策活動に限定されそれを活かして政党シンクタンクをつくっている韓国の事例や政治・政策活動を行うドイツの政党に関連する政治財団の事例が参考になるであろう。
これまで述べてきたように、政党助成金の活用の仕方を変えることで、日本の政治や政策過程に変化を生み出し、新しい日本の可能性を見出していけるのではないだろうかと考えている。ぜひ読者のご意見をいただきたいと思う。
(注1)「政党交付金とは?政党助成制度の意義や規則を簡単解説」(山口和史、2021年6月24日、政治ドットコム)参照。
(注2)ご存じのように、政党助成金がつくられた時期には、政治における次のような大きな動きがあった。
1993(平成5)年8月9日には、細川内閣ができ、1994年(平成6年)4月28日まで続いたが、同内閣は1955年(昭和30年)の結党以来38年間単独政権を維持した自由民主党(自民党)をはじめて下野させ、55年体制を崩壊させたのである。同政権に続き羽田政権が誕生したが非常に短命であった。そんな中、何としても政権に返り咲きたい自民党は、1994年(平成6年)6月30日には、55年体制における最大の競争相手であった日本社会党および新党さきがけとの連立政権である村山内閣を成立させるというアクロバティックな対応をしたのである。
(注3)現在の政治および政策状況を変えることができるなら、日本の社会規模から考えて、非常にリーズナブルな金額であると考えることができる。
(注4)この点に関しては、拙記事「国政で女性議員約5割を実現するメキシコに学ぶ女性の政治参画(下)」(Yahoo!ニュース、2022年2月7日)および「3.メキシコの事例」(庄司香、『令和元年度 諸外国における政治分野への女性の参画に関する調査報告書』[アイ・シー・ネット、2020年]から)参照のこと。
(注5)与党の場合には、それら以外にも、多くの資金や情報、人材が集まって来る。
(注6)英国議会のHPの“Short Money”[英国下院図書館、2020年11月16日]や拙記事「立法府から見た日本の民主主義」(Yahoo!ニュース、2021年2月2日)など参照のこと。
(注7)韓国における政党シンクタンクについては、「韓国における政策研究所(政党シンクタンク)について」(国会図書館、2018年6月29日)参照。またドイツの政治財団に関しては、拙著『世界のシンク・タンク』(上野真城子氏との共著、サイマル出版会、1993年)や「ドイツの政党系財団との意見交換」(山内康一HP、2019年4月12日)などを参照のこと。