日本型経済構造を壊すTPPの先兵を務めるのが日本という絵柄
フーテン老人世直し録(259)
霜月某日
今国会の最大課題であるTPP協定の国会承認が4日の衆議院TPP特別委員会で強行可決された。
野党は山本農水大臣の二度にわたる問題発言を問題視し、大臣が辞任しない限り審議に応じないとしていたが、アメリカ大統領選挙前の衆院通過を目指してきた政府・与党は日本維新の会の賛成を得て予定通り数の力で押し切った。
これまでの審議からは交渉過程の不透明さが際立つだけで協定の中身はよくわからない。わかるのはアメリカの意向に日本の政府・与党が忠実に従っているという構図だけである。オバマ政権が残りわずかな期間で米国議会の承認を得やすくするには日本が国会承認を急いでみせる必要があったからだという。
アメリカ経済諮問委員会は3日、TPPが成立せずに、中国を中心とするRCEP(アジア地域包括的経済連携)が発効すればアメリカは日本市場で中国より不利になるとの報告書を発表した。これでわかるようにアメリカは中国との経済競争に勝つためにTPPを必要としている。そのために何でも言うことを聞く安倍政権を利用しようとしているわけである。
80年代から日米経済摩擦を見続けてきたフーテンにはアメリカの思惑もわかるが日本は利用されるだけで良いのかという気になる。1985年、冷戦体制を続けてきたアメリカは気がついてみれば世界一の借金国となり、日本が世界一の金貸し国となった。
日本は自動車と家電製品の輸出で儲け、儲けた金を外国に貸し付け利子収入でまた儲ける。しかも世界一格差が小さく日本国民は「一億総中流」を満喫していた。アメリカは日本経済がなぜ強いのかを分析し始める。そして官僚が司令塔になり自民党と財界が一体となった「癒着の構造」があると非難し始めた。
日本には資本主義とは異なる経済構造がある。それを壊さない限り日本との平等な競争はできない。アメリカはそう考え、レーガン政権が「構造協議」という仕組みを作った。日本の経済構造をアメリカと同じに作り替えるため、日米で話し合おうというのである。それがクリントン政権になると「年次改革要望書」に変わった。
アメリカから毎年「ここを変えろ」と日本政府に指示が来る。霞ヶ関の官僚にとって「年次改革要望書」に答えることが最大の仕事になった。その頃の日本は宮沢政権だが、クリントン大統領は冷戦が終わったこともあってヨーロッパよりアジアに目を向け、とりわけ中国市場に注目した。それが米中の「戦略的パートナーシップ」となり、日本は「パッシング(無視)」されたのである。
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