内閣官房参与はご存知なかった 2019年に施行された法律と2018年の税制改正
2021年5月8日、ABC朝日放送「正義のミカタ」にリモート出演した。午後はコープこうべ主催のオンラインセミナーでの食品ロスに関する基調講演で、番組は午前だったので、直前のご依頼だったがお引き受けした。
3つあるテーマの1つが「食品ロス」で、賞味期限と消費期限の違いや、事業系食品ロスが生まれる要因である食品業界の商慣習(欠品ペナルティや3分の1ルール、日付後退品など)、賞味期限が過ぎていても販売は可能であることなどをお話しした。
余剰食品の活用方法として、フードバンクの話題が提供された。フードバンクとは、まだ食べられるにもかかわらず、賞味期限接近や箱つぶれなど、さまざまな理由で販売できない食品を引き取り、必要な方へとつなぐ活動、もしくはその活動をする団体のことを指す。1967年に米国で誕生してから、今では世界40カ国以上でこの活動がおこなわている。日本では2000年に初めてのフードバンクが誕生し(実際にはもっと前から類似の活動があったという主張もある)2021年5月現在、北海道から沖縄まで130前後のフードバンクが活動している。
これをもっと推進するにあたり、法律が必要ではないか、という話になり、出演していた内閣官房参与の高橋洋一氏が「法律を作ればいい」「議員立法でも」という趣旨をおっしゃった。
2019年5月に成立、10月に施行している「食品ロス削減推進法」
これを聞いて、ちょっとがっくりした。私がリモートで出演した時点でプロフィールに「食品ロス削減推進法成立に尽力」と紹介されているからだ。まあ、それは見なかったにしても、フードバンクを推進すべきと盛り込まれた「食品ロス削減推進法」は、2019年5月に成立し、同年10月1日に施行されている。すでに2年近く前に成立しているのだ。そこに至るまでには2016年からの、参議院議員の竹谷とし子さんや他の議員の方々の動きがある。法律が成立する5ヶ月前の2018年12月には、超党派による「食品ロス削減及びフードバンクを推進する議員連盟」も発足している。
そこで、高橋洋一氏の発言を受け、「2019年、既に食品ロス削減推進法は成立・施行されている」という旨をお話しした。すると高橋氏は「税法を変えなきゃだめ」とおっしゃった。
2018年に税制も変わっている フードバンク寄付すれば全額損金参入可に
これについても、税制は、3年前の2018年に既に変わっている。国税庁と農林水産省が、企業などがフードバンクへ食品を寄付した場合、一定の条件のもと、経費として全額損金参入できる(課税対象からはずすことができる)と発表している(法人税法第22条第3項、第37条)。
放送時間が限られていたので、そこまで突っ込んでお話しすることはかなわなかった。生放送を視聴してくれていた大阪在住の企業の男性も「法律の話にもう少し踏み込んでもらえればさらによかった」と話していた。
世界の温室効果ガス排出の37%を占める食品産業と8〜10%を占める食品ロス
日本は世界で第5位の温室効果ガス排出国だ。首相は2050年までに温室効果ガス排出ゼロを目指すと発表した。そうであれば、世界の温室効果ガス排出の37%前後を占める食品産業の社会構造や、8〜10%を占める食品ロスの現状を変えていく必要がある。コロナ禍では事業系の食品ロスが膨らむ傾向にある。内閣の中枢にいらっしゃる方がご存知ないのだから、一般の方は、なおさらご存知ではないだろう。食品ロス問題についての啓発をさらに進めなければと改めて認識した。
折しも高橋洋一氏はツイッターのトレンドにあがっている(2021年5月10日6:54現在)。
食の問題にせよ、新型コロナウイルス感染症対策にせよ、政府には真摯に取り組んでいただきたい。どちらも人の命が関わっているのだ。
参考情報
本日2019年10月1日施行、日本初の食品ロスに関する法律「食品ロス削減推進法」に何を期待するか(井出留美、2019.10.1)
日本初「食品ロス削減推進法」が本日ついに成立!2019年5月24日午前10時からの参議院本会議で可決(井出留美、2019.5.24)
「寄付より廃棄」の選択肢が変わる 国税庁・農林水産省がフードバンク等への寄贈食品の全額損金算入を認可(井出留美、2019.1.22)
2018年12月13日 超党派による「食品ロス削減及びフードバンク支援を推進する議員連盟」が発足(井出留美、2018.12.14)