日本初「食品ロス削減推進法」が本日ついに成立!2019年5月24日午前10時からの参議院本会議で可決
日本初となる「食品ロス削減推進法」が、ついに成立した。本日、2019年5月24日午前10時から開催された参議院本会議で可決された。筆者も成立の瞬間、傍聴席にいた。反対ゼロだった。微力ながら、法案に関わった者として、ついにこの日が来た、という思いだ。
法案成立までの多くの人の尽力
法案成立に至るまでには、多くの方の努力があった。
長年にわたり尽力されてこられたお一人が、参議院議員で公認会計士の竹谷とし子さんだ。
竹谷さんと初めてお会いしたのは、3年前の、2016年2月28日。まだこの時は法案は無かった。
「東京都内7会場で、食品ロスを減らすために多くの人に呼びかける講演をして欲しい」というご依頼を頂き、竹谷さんとともに2月28日を皮切りに、都内7会場で、多い会場では1,600名に食品ロスの講演を行った。
その後も何度か講演の機会を頂いた後、いよいよ法律案を作成するという流れになった。
2017年2月2日には参議院議員会館に呼んで頂き、「食品ロス削減推進のための法整備について」のヒヤリングで、法案の内容を具体的にどのようなものにすべきか、アドバイスさせて頂いた。この日はオブザーバーとして、消費者庁、消防庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省、内閣府や衆議院などが出席された。
2017年5月12日付の竹谷さんのブログ記事には、朝8時から、食品ロス削減のための法律案の内容を議論していることが記されている。
竹谷さんは、北海道・標津町(しべつちょう)のお生まれ。6人兄弟の末っ子として育った。小学生の頃には飢餓に苦しむ難民の存在を知り、自分に何ができるかを考えたと言う。農産物が豊かな北海道の中で育ったことが、竹谷さんを「食」への関心へ導き、生産者の立場に立つ視点を生んできたのでは、と想像する。
どんな人も、その行動の背景には、突き動かしている思いがある。竹谷さんは、議員としての義務感から行動しているのではなく、幼い頃に抱いた強い思いが根底にあり、それが現在の議員活動につながっていることを、ヒヤリングや講演でご一緒するたびに感じる。
もうお一人は、全国フードバンク推進協議会の事務局長、米山広明さんだ。
米国では、政策に影響を及ぼすための、いわゆるロビイング活動(ロビー活動)が根付いている。が、日本はそうではない。そのような環境の中、根気強く、国会議員への訪問を続けて来られた。
2018年6月13日に開催された、国会議員向けの緊急院内集会や、2018年12月13日、超党派による「食品ロス削減及びフードバンク支援を推進する議員連盟」発足の会議、フードバンクなどへ企業が寄付した場合の「全額損金算入」制度導入の報告会など、政策提言の活動を精力的に務めてこられた。
他にも、この成立に向けては、超党派の議員連盟や、全国のフードバンク団体ほか、多くの方の尽力があった。
法律はゴールではなくスタート、法律ができたからOK、ではない
その上で、強調しておきたいのは、法律はゴールではなく、スタートということだ。法律ができたから完璧、というわけでもない。
長年、食品ロスやフードバンクを研究している愛知工業大学教授の小林富雄先生は、著書で、2016年2月3日にフランスで世界初の法律が成立したことについて、次のように語っている。
筆者も、小林先生にお声がけ頂いて、この英仏調査へ同行させて頂いていた。やはり「法律だのみ」ではない、という風土が強く感じられた。中でも日本の農水省にあたる農業省の女性が、飲食店の持ち帰りを促進するため、ドギーバッグならぬ、シェフに敬意を示した「グルメバッグ」の公式サイトを立ち上げ、調理済食品の寄付の効果として「食品ロス削減」のみならず、「生活困窮者の栄養バランス達成」や「施設へ寄付に赴く子どもたちの社会性育成や視野の拡大」といった、日本では厚生労働省や文部科学省が担当するような内容にまで言及していたことは、大きく感銘を受けた。
では、はたして、日本では、何から手をつければよいのだろうか。
グレーゾーンをかいくぐる「優越的地位の濫用」の厳格な取り締まり
一つは、強力な販売力を持つ小売業界の「優越的地位の濫用」に対する強制力の発揮である。
2019年1月、農林水産省が小売業界に対し、恵方巻きの販売は需要に見合う数に抑えるよう、通知を出した。一部の小売は、これを受けて、販売量を抑制したものの、大手小売は「前年より多い」販売量を目指し、その結果、日本全体を見れば相変わらず売れ残りが大量に発生する結果となった。
ほとんどの国民は気づいていないが、これら事業者の売れ残りは、自治体の財源、つまり、我々が納めた税金も使って処理されている(東京都世田谷区では、2019年4月時点で、事業系一般廃棄物1kgあたり57円、2018年4月時点で1kgあたり55円)。
今、社会問題となっている、一部企業のコンビニ問題に関しても、その根底にあるのは「優越的地位の濫用」である。売れ残り食品のコストは加盟店が8割以上を負担しており(企業によって異なる)、本部負担は1割程度に過ぎない。コンビニ会計と言われる独自の会計システムにより、見切り販売すれば加盟店は明らかに年間400万円レベルで儲けが増えるのに、見切りより廃棄した方が本部が儲かるため、一部の企業は、加盟店オーナーに対し、さまざまな表現で見切り販売をさせないようにしている。契約を継続できるかどうかは本部が握っているため、逆らえば契約解除のリスクを負うと考えるオーナーは、見切り販売をした方が明らかに儲かるにもかかわらず、全国55,000店舗のうち、デイリー食品(おにぎり、弁当など)の見切り販売をしているコンビニは、わずか1%に過ぎない。
また、食品メーカーは、欠品(棚が空っぽになること)を起こすと、コンビニやスーパーなどの小売から「取引停止」を命じられる可能性がある。取引を継続するためには、絶対に欠品を起こしてはならない。その結果、常に多く作り過ぎざるを得ない。これも、強いバイイングパワー(販売力)を持つ小売と、それに従わざるを得ないメーカー各社との力関係の強弱が生み出す「食品ロス」である。
その他、短い納品期限や販売期限などの「3分の1ルール」や、経済産業省が防止するマニュアルを出した「(小売からメーカーへの)不当な返品」など、挙げればきりがないほど、優越的地位の濫用による食品ロスが日々発生している。
TBS系列「久米宏ラジオなんですけど」に出演した際、恵方巻きの販売量を国が通知することに対し、久米宏さんは、苦笑しながら「国がやらないといけないことなんですか?」と問うていた。
英国の最大手のスーパーであるTESCO(テスコ)などは、独自の食品ロス調査を行い、2個まとめ売りなど、食品ロスを生み出しやすい販売方法をやめている。SDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択される以前から、すでに倫理的な経営に移行しているわけだが、日本では、農林水産省が、恵方巻き販売の通知でお手本とした兵庫県のヤマダストアーなど、適量販売しようという小売は数えるほどしかない。小売の飽くなき「永遠なる右肩上がり(の売り上げ)」を目指す姿勢は、この法律成立を機に、見直して欲しい。
最優先は3RのReduce(リデュース:発生抑制)
二つ目は、このあと法律の基本方針を作るにあたっては、環境配慮の原則「3R(スリーアール)」のうち、最優先は「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」であると認識し、リデュース優先の方針を定めることである。
法律とはズレるが、リデュース優先については、国民に大きな影響を及ぼす報道関係者(マスメディア)にもお願いしたい。
筆者は2008年から食品ロス問題に関わってきた。ここ10年間のメディアの報道のされ方を見ていると、3Rのうち、2番目の優先順位である「Reuse(リユース:再利用)」や、3番目の「Recycle(リサイクル:再生利用)」がメインになっている。
衝撃的な映像や、困っている人を助けるシーンなど、視聴者の心を揺さぶるためにはうってつけなのはわかる。が、限られた食料や資源やコストを無駄遣いしない、最も優先すべきは「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」であることを、併せて、視聴者である一般消費者に伝えて欲しい。そうしないと、いつまで経っても「もったいない」と愚痴るだけで終わってしまう。
マスメディアが食品関連企業に忖度しているのか、適度に作る・売ることより、大量に製造・販売して、「余れば寄付」「余ればリサイクル」すればいい、と言っているようにも見える。リユース・リサイクルよりも、焼却処分されている量のほうが多い現状だ。
360度全方位で取り組んでいく
政府の責務としての基本方針が決まれば、自治体や事業者は、それに基づいて食品ロス削減推進計画や施策を決めて、対策に取り組む。
しかし忘れてはならないのは、われわれ消費者だ。
食品ロスは、
1、食料品価格に間接的に上乗せされた廃棄コスト
と、
2、焼却処分するための廃棄コスト(税金)
の2つをダブルで払わされていることと認識し、自分ごととして取り組んでいきたい。
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記事中の仏英渡航の写真に関して:筆者撮影