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《2024ドラフト候補》阪神・松原快からの系譜を受け継ぐ日渡柊太(富山TB)が後輩たちに見せる姿

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
ドラフト会議を待つ日渡柊太(日本海リーグ・富山GRNサンダーバーズ)

■雪辱を果たすためにやってきた1年

 昨年、NPBドラフト会議で指名がなかったことは、今でも思い出すのはつらい。そのときの心境にぴったりな言葉を探すことも難しい。

 だからこそ、それを塗り替えるべく日渡柊太投手(日本海リーグ富山GRNサンダーバーズ)は今季、一心不乱に打ち込んできた。野球に、自身の成長に。

 前回は、昨年から飛躍的に進化した日渡投手の取り組みを順を追って紹介したが、今回はその進化を支えたさまざまな側面にスポットを当てる。

(前回の記事⇒「《2024ドラフト候補》昨年の雪辱を果たす! ドラフトに向けて日渡柊太(富山TB)の進化が止まらない」)

眼光鋭い日渡柊太
眼光鋭い日渡柊太

■変化球《カットボールとスライダー》

 昨年は、チーム内に150キロを大きく超えるドラフト候補選手がほかにいたので(千葉ロッテマリーンズ2位指名・大谷輝龍阪神タイガース育成1位指名・松原快)、差別化するために高速カットボールに磨きをかけ、それをウリにした。

 しかし今年は最速154キロまで上がり、なによりアベレージで150キロを超えるようになり、ストレートで十分に勝負できた。

 変化球も昨年とはやや変わった。140キロを超えていたカットボールが、大きく曲がるようになっていったのだが、これが使えた。

 「三塁側からカットボールを投げようとすると、ちょうどベース板の真ん中を通る感覚があって、めっちゃ甘いボールに見えちゃうんすよ。それを嫌っていたらどんどん曲がるようになっちゃって…。でもそれが逆に、いいボールに変わりましたね。いいスライダーっていうか」。

 曲げようと思ったわけではなく、“自己防衛本能”から自然と曲がっていったのだ。

 「三塁側から角度が出て、しっかり曲がっていく。まっすぐがよくなると同時に、スライダーもよくなりました。あ、でも、僕の中ではカットボールなんですけど(笑)」。

 ややこしい。たしかにスライダーにしか見えないのだが、投げている本人の感覚はカットボールだという。

 「スライダーと思って投げると膨らむんすよ。だから、投げる前にカットって意識して投げる。緩むと意味ないから」。

 なるほど、投げるときの自分の意識の問題なのだ。ただ、見た目にはスライダーなのだが。

 そして、“僕の中のスライダー”も、別に存在はしている。「縦の、ちょっとカーブっぽいのです。130キロ台前半で、縦スラみたいな感じです」と言い、130キロ台後半の“僕の中のカットボール”との、球速帯の違うスライダー系を投げ分けている。

日渡柊太
日渡柊太

日渡柊太
日渡柊太

■変化球《フォーク》

 昨年はチェンジアップを投げたが、今年はフォークにトライした。

 「NPBの1軍の中継ぎで投げるっていうのを想像したら、やっぱフォークは武器だな、今年は絶対に取り組まなきゃと思って」。

 そう考えたとき、現れたのが立野和明投手だった。北海道日本ハムファイターズを退団後、入団してきたのだ(8月1日 現役引退を発表)。フォークの使い手である立野投手に、握りから投げる感覚やリリースの仕方など、さまざまなことを聞いた。

 「最初は立野さんの投げ方をいろいろ聞いて、実際にやって練習して、それがだんだんわかってきて…。でも同じことをしていてもダメで、結局最後は自分の感覚なので」。

 試行錯誤を繰り返し、自分自身のフォークを習得していった。「精度はまだまだ」と言いつつも、球速も140キロまで出るようになり、かなり有効な球となった。NPB相手でも威力を発揮した。

 立野投手に感謝する日渡投手だが、「毎年、ターニングポイントっていうか、そういうのがある」と言うように、必死で頑張っている選手には、野球の神様はこういう粋な差配をするものだ。

日渡柊太
日渡柊太

日渡柊太
日渡柊太

■対NPB戦

 NPB球団のファームとは自チームで3試合、日本海リーグの選抜チームのメンバーとして3試合、合計6イニングス投げた。抜けフォークで一発食らいはしたが、あとは得点を許さず。WHIPが0.833、奪三振率も10.50と上々の結果と内容を見せた。

 「去年は初めてNPBと対戦して、2軍でまぁまぁ通用するかなみたいな感じだったんですけど、今年は圧倒しようと思いながら投げていました。戦う場所はここじゃないと。しっかり投げきれたと思います」。

 イメージしてきたのはNPBの1軍だ。だから、ファームの選手は絶対に抑えなければならない。自然とマウンドでは声を上げ、鋭い目つきで威嚇し、獲物を狙うようなギラギラ感を醸し出していた。

 9月20日(高岡)の読売ジャイアンツ3軍戦での登板では、今季最後の対戦となるバッターをストレートで空振り三振に斬ると、その場でくるっと一回転して吠えた。握った右拳に、NPBへ懸ける思いが詰まっていた。

 その思いは昨年以上だ。

 「去年は育成ででも行きたいと思ってやっていたけど、今年は来年(NPBの)1軍で投げ続けるためにとだけ思ってやっていたんで。2軍で圧倒できなかったら1軍のレベルじゃないって、そういうことも考えながらやっていましたね」。

 ただ抑えるだけじゃない。“1軍で通用するボール”を投げたつもりだ。その成長は、昨年から見続けているNPB球団のスカウト陣も高く評価していた。

日渡柊太
日渡柊太

■今季の成績

 前回記したように、まだニュースタイルが完成途上だった開幕3試合で大量失点し、数字を大きく悪化させた。だから、シーズン通算の防御率は非常に見栄えが悪く、4.03だ。

 ただ、3試合目(3回)までの9失点(自責8)で防御率が24.00に対して、4試合目以降の25試合(26回)は5失点で同1.73。K/BBも開幕3試合は2.25、4試合目以降は5.25、WHIPも同様に4.33と0.62である。

 すべての数字が別人のように良化し、今のピッチングが確実に身についたことが顕著である。

 「最初の数字が響きすぎですね(笑)。でも、逆に明確ですよね。やってきたことが出てきたのが、数字で見ることができますもんね」。

 その進化が数字から歴然とわかることに、日渡投手もうなずく。

 今季は初被弾もしたが(後述)、その後はバッテリーエラーによる2失点だけに留めている。「あの2点は、本当にもったいないなかったっすね」と悔やむが、捕手との共同作業であるだけに非常に惜しい失点だった。

 ただNPB側のスカウト陣も、シーズンの数字に左右されることはない。自身の目で確認した能力の評価が重要なので、心配はないだろう。すでに調査書も複数球団から届いている。

日渡柊太
日渡柊太

日渡柊太
日渡柊太

■独立リーグに入って初被弾

 昨年は1本も本塁打を許さなかった。今年も…と思っていたら8月10日(県営富山球場)、ソロ弾を浴びた。

 「実は僕、大学の友だちが見にくると、絶対に点を取られるっていうジンクスがあるんです(笑)。去年も開幕2戦目で3失点したとき来ていて、今年の開幕戦も大学の友だち、地元の友だち、家族も全員来ていて…そういうときって絶対に点を取られるんですよ」。

 その日に友だちが来ることはわかっていたので、なんとしてもジンクスを破ろうと決意して臨んだ試合だった。そこまで10試合連続無失点を重ね、自身の感覚もよくなってきていたから、「これはいける」と心の中でほくそ笑んでいた。

 だが、先頭を空振り三振に取ったあとの初球だった。真ん中よりの低めの球を、風に乗せてレフトへ運ばれた。

 「相手も“張り張り”できていて合っちゃった、みたいな…。もってかれましたね、ジンクスに(笑)。本当にもうびっくりしましたよ」。

 後続は抑えたものの、1点ビハインドから点差を広げてしまい、悔やまれる1発となった。

 ジンクスが破られる日は来るのか、今後に要注目だ。

(左)吉岡雄二監督にはさまざまなことを教わった
(左)吉岡雄二監督にはさまざまなことを教わった

■ある選手に“弟子入り”していた

 日渡投手にとって、「こいつだけは違う。レべチだ」と認める投手がいる。自身の出身大学と同じリーグに所属する大学の、現在4年生の彼はトップチームに選ばれるほどの実力を持つ。もちろん今ドラフトの超注目選手だ。2学年下になるが、その彼に畏敬の念を抱いている。

 もともと交流はあったが、今年は根掘り葉掘り質問し、体の使い方やプライオボールの扱い方などとことん教わった。「根本的に考えていたところが一緒な部分もあったんで、すごくマッチした。それでめっちゃ変わりましたね」と、進化の一助になった。訊いたことに対して惜しげもなく答えてくれたと深く感謝している。

 年上、年下は関係ない。「すごい」と思える相手は敬うし、得られるものがあれば貪欲に吸収する。自分が成長するためには、くだらないプライドなど必要ない。

 「今年、同じドラフトの対象として、そこを超えるくらいの勢いじゃないとダメだと思ってやってきた」。

 来年は同じ舞台に立って戦っている姿を、頭の中で描いている。

日渡柊太
日渡柊太

日渡柊太
日渡柊太

■富山に来てよかった

 「僕ね、独立に、富山に来て本当によかったと思うんです」。

 日渡投手はしみじみと口にする。元NPBの指導者に恵まれ、シーズンを通して公式戦、NPB戦と数多くの試合に投げることができた。リーグ戦の40試合が同じ相手とだけ戦うことも、プラスにとらえている。

 「NPBに行っても、対戦する相手はほとんど一緒。って考えたら、同じ相手と対戦することはいいことかなと。バッターの反応もわかりやすいから」。

 その反応を見て、次はどうしようと策を練る。そして、試す。それが向上につながったという。同じ相手と対戦し続けることの難しさに直面し、それを自身の糧としてきた日渡投手だからこそ、そのメリットに気づけたのだ。

 富山では濃い2年間を送ることができた。「去年、(松原)快さんに見せてもらったように、今年、僕が後輩たちに見せられることが一番いい」と、これまで頑張ってきた集大成をドラフト会議で昇華させることを誓う。

 「やっぱり快さんとかタニ(大谷輝龍)とかがいたから、もう1年できると思った。やっぱこの歳になると、もう無理かなって思ったりするじゃないですか。でも、快さんがまだ目指せるという姿を見せてくれた。僕も来年やるやつの目標というか、希望になれるように」。

 先輩が見せてくれた必死な姿を継承し、自身も見せてきたつもりだ。サンダーバーズでこの系譜がずっと続くことを願い、日渡柊太は10月24日を楽しみに待つ。

支配下指名を目指してきた日渡柊太
支配下指名を目指してきた日渡柊太

(撮影はすべて筆者)

【日渡柊太(ひわたし しゅうた)*プロフィール】

2000年10月16日(23歳)

176cm・80kg/右投右打

市立岐阜商業高校―中部大学

岐阜県出身/背番号14

最速:154キロ

球種:ストレート、カットボール、スライダー、フォーク

【日渡柊太*今季成績】

28試合/2勝0敗5S/防御率4.03

29回/被安打21/被本塁打1/奪三振30/与四球8/与死球1/暴投4

失点14/自責点13/奪三振率9.31/WHIP1.00/K/BB3.75

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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