ジュニアトーナメントまで1カ月弱。「阪神タイガースジュニア2024」の今ある課題とは
■オリックス・バファローズジュニア戦(11月30日@津門野球場)
年末の大一番に向けて、毎週末に練習を重ねている阪神タイガースジュニア2024。他チームとの練習試合も13試合を数える。
11月30日、オリックス・バファローズジュニアとの練習試合は6イニングスを終了した時点で引き分けとなり、攻守を交代しながらタイブレークの練習も行った。
その後、ちびっこ虎戦士たちは翌日の香川県での四国アイランドリーグplusジュニアとの練習試合に向けて、兵庫県を後にした。
■ランニングスコアとバッテリー
◆ランニングスコア
オリックス:000 040=4 H6、E2
阪神 :100 210=4 H7、E4
◆バッテリー
オリックス:山西(3.0)、山本(1)、西村(2)―早野
阪神 :関井(4.2)、大谷(1.1)、井上和―井上凛
本塁打:斎藤3号2ラン
■投打の殊勲選手を讃えたあと、エラーを戒める
この試合を振り返り、玉置隆監督に投打の殊勲選手を挙げてもらうとともに、試合のポイントを聞いた。
玉置監督はまず、投では「(関井)楽永ですよね」と切り出し、「マウンドさばきも素晴らしかったし、ピンチになっても冷静ですね。すごく周りも見えている」と讃えた。
「力でねじ伏せるというよりは頭で考えながら技術で抑えていましたね。ランナーもしっかり止めていましたし。その点については彼の経験でしょうね」。
強豪な自チームでの先輩の教えが、マウンドさばきにも生かされているのだろうと話す。
そして打では、追加点となる第3号2ランと同点タイムリーを放った斎藤達騎選手の名前を口にした。
「ここ一番での一発とタイムリー。どちらも打ってほしいときに打ってくれた」。
そう言って相好を崩した。
ただ、手放しで喜びはしない。「得点も失点も全部エラーが絡んでいる」と苦言を呈する。
「なんでもないプレー。ファインプレーは要らない。そりゃ捕ってくれたら嬉しいけど、そうではなく当たり前のアウトを当たり前に取っておけば、ああいう無駄な失点は防げる。エラーで取られた点というのは返ってこない」。
いかに堅実にプレーできるかが重要であるとうなずく。
■タイガースジュニアの長所と課題
さらに踏み込んで、玉置監督は語る。「ウチのチームのいいところって、たぶん12球団でも1、2を争うくらい仲がいいところ。雰囲気もいい」と、まずは長所を挙げた。
「そういうチームって、点が入りだしたときは止まらないんです。みんないい笑顔で、それが伝染して、もうイケイケドンドンになって点がどんどん入る」。
だが、いいときばかりではない。先取点を取られることもあるし、ビッグイニングを作られることもある。「こういうチームの弱いところは、後手に回ったときに跳ね返すことができないところ」と言いきる。
「1人が『やばい』という顔をしたとき、逆にそれが伝染していく。それで追い上げられないっていう苦しい展開になっていく」。
これは結成当初から玉置監督が危惧してきたことで、これまでも何度も口酸っぱく言ってきたことだ。
この日も3-0となったところで、玉置監督は嫌な感じがしたという。「チーム全体が『勝ったな』という雰囲気になったんですよね。緩んでるなっていうのがわかった」と、危険信号を感じた。
そこで「ここやで。ここで叩き潰していかんと、後で怖くなってくるよ」と声をかけて鼓舞した。しかし案の定、五回にエラーが出て逆転された。悪い予感が的中した。
しかし、この日はそこで終わらず、反発を見せた。その裏に1点を返してなんとか同点に追いついて、ゲームセットを迎えたのだ。
「後半に(金川)蓮佑の二塁打から達騎の同点の1本が出たのはよかった。けど、ああいうことを全員ができるようになってこないと、本戦でも1人がしゅんとしたときに跳ね返すことができずに終わってしまう。そこがあと残り1カ月の課題かなと思いますね」。
ここからのさらなる飛躍に期待を込める。
今後、重要なのは「それぞれの行動と声。目に見えないものだけど」と玉置監督は説く。「諦めないことなんですけど、諦めちゃうんです。そうじゃなくて、最後までやっていこうよって」と、一人一人のマインドが鍵を握るという。
この日は終盤、しゅんとなったところでベンチのメンバーから声が飛んだ。「もっと声出せよー!」と。すると、グラウンドにいるメンバーも呼応して声を出しはじめ、活気が出てきた。
「あれをみんなができるようになれば、絶対に後手に回ることはないんで。今までなかなかできていなかったけど、今日のようにできれば」。
チームとして徐々に課題を克服し、成長していることがうかがえたゲームだった。
■殊勲選手のコメント
◆関井楽永
「ちょっと準備が足りなかったのか、最初はけっこう制球に苦しんだけど、最終的に抑えられてよかったです。キャッチャーの(井上)凛太朗が盗塁を刺してくれたり、(北嶋)隼士とかもピンチでマウンドに来てくれたりして、すごく助かりました」。
◆斎藤達騎&阪田應介
阪田應介選手が乱入し、なぜか掛け合いに…。
應「(2ランを)打った感触は、めっちゃ気持ちよかったです。打てて気持ちよかったです(笑)」。
達「(打ったのは)俺やろ、俺やろ」。
應「俺もヒット打ったし。(2ランのあと、2死で)雰囲気が悪くなったときに、雰囲気が変わる1打が打ててよかったです」。
達「最初の1点だけだったら負けるかなと思って、1発出しました。ホームランは狙っていました」。
■中野煌大に注目!
そしてもう1人、玉置監督がピックアップした選手がいる。背番号5の中野煌大選手だ。この日はつなぎの左前打を放っていたが、「記事に書いてあげて」と選出した理由はほかにあった。
「先週、守備練習しているときに煌大の手が(福家)一花の目のあたりに当たっちゃって、ちょっと腫れたんですよ。煌大ってめちゃめちゃ優しい子なんで、それをずっと気にして横で泣いていて…。みんなは『気にすんなよ』って、一花も『大丈夫』って言ってるのに、女の子の顔を傷つけてしまったからって泣いていたんです」。
このような一件があったと説明した。
中野選手に聞くと「当たったときは、『やってしまった』って思って。女の子の顔やし。なんてことをしたんやって思いました」と顔を曇らせる。日ごろから人への思いやりを大事にしているだけに、故意ではないとはいえ顔を傷つけてしまったことで自らを責めていたのだ。
「みんなも声かけてくれて、あまり気にしないようにはしてたけど…」とは言うが、その日はやはり普段とは様子が違ったのだろう。首脳陣やナインもモノマネなどをして、中野選手を笑わせようと懸命だった。
そしてとうとう最後に、周りに促されて中野選手もモノマネをやって見せ、その顔にようやく笑顔が戻った。
「一花には『ごめんな』って言って、『全然いいよ』って言ってくれた」とのやりとりを明かし、気持ちも晴れたと振り返っていた。
「心優しきスラッガー」と玉置監督が評する中野選手は、「2つ上のお兄ちゃんがすごく楽しそうに野球をやっていたから」と幼稚園のころから野球に夢中になった。
最初はレフトなど外野をやっていたが、小学2年から違うチームに移ると3年生ではショートなど内野をやるようになり、6年生の現在はピッチャー、キャッチャー、サードと幅広く活躍している。
タイガースジュニアに入って「みんなとのコミュニケーションを大事にしている」と語り、守備ではカバーリングが、打撃ではつなぐ意識が向上したと自己評価している。
タイガースジュニアというチームを「すごく仲がいい。ひとりに何かあったら、みんなが駆け寄って声をかける」とチームワークが抜群だと紹介し、自身も誰かに何かあれば駆けつけるようにしていると胸を張る。
今後もコミュニケーションを深めることを継続し、さらに自身の課題も挙げる。
「守備での打球判断とかもしっかりやりたいし、間に合うと思った打球でも後ろから回ってしっかり捕れるようにしていきたい。バッティングはみんながうまいから、後ろの人につなげるっていう意識をもってやりたい。バットが下から出てフライになることがあるから、しっかり上からたたいてヒットを打てるように」。
すべて自分で決めにいこうとせず、仲間を信じて後ろにつないでいきたいと強調する。
とは言いつつも、この翌日の試合(四国アイランドリーグplusジュニア戦)では「1番・センター」で、相手先発・立岩駿投手(U-12)からの先頭打者弾を含む1試合2ホーマーを記録した。
これで対外試合通算4本塁打となり、チームトップに躍り出た。
つなぎを意識しながらも、決めるときには決める心優しき男、それが中野煌大だ。
■大会まで1カ月弱
大会に向け、「個々の技術とかポテンシャルとか、詰められるところは詰めていきます」と力を込めた玉置監督。「苦しくなったときに跳ね返せるか。仲よし軍団はそこだけが課題」という一番の難題に、今後も取り組んでいく。
「ピンチになったとき、後手に回ったときにどう跳ね返すかという準備をしっかりしていく。全員の力と方向が大事。向いている方向が全員一致していれば、必然的に跳ね返すことができるチームになっていく」。
子どもたちを信じ、根気強く指導していくつもりだ。
大会まで1カ月を切った。ここからさらにどれだけ成長するのだろうか。伸びしろしかない小学6年生たちの最後の追い込みに期待したい。
【今日のとっておきの1枚】
来たるべき出番に備え、ベンチ脇でもくもくとバットを振り続けていた神田莉湖選手。最終回に代打で打席に立ち、惜しくも左直に倒れたが、力強いスイングから放たれた打球は男子に負けていなかった。
*時間の都合により、「本日のキャプテンのオコトバ」はお休みです。
(撮影はすべて筆者)
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