日本海リーグから阪神タイガースへ 佐野大陽(富山サンダーバーズ)は「一陽来復」で開幕1軍を勝ち取る
■日本海リーグから虎入りした2選手は共通項多し
12月9日、大阪市内のホテルで阪神タイガースの新人選手入団発表会が行われた。日本海リーグから入団した2人の選手たちはタテジマのユニフォームに袖を通し、壇上で誇らしげなピカピカの笑顔を輝かせていた。
また、それぞれの地元から駆けつけたご家族も、晴れ姿に目尻を下げてご覧になっておられた。
富山GRNサンダーバーズからドラフト5位指名の佐野大陽選手と、石川ミリオンスターズから育成ドラフト4位指名の川﨑俊哲選手。奇しくも2人は同い年でショート、背番号も同じ「1」を背負っていたという縁がある。ともにOBの鳥谷敬選手に憧れてきたというところも共通しているのだ。
これまでは敵同士でチームの勝利を争ってきたが、これからはチームメイトとしてポジションを争うライバルになる。
そんな2人の入団会見に注目した。まずは佐野大陽選手だ。
■ユニフォームが似合うようになりたい
「どうっすか?似合ってます?」
ユニフォームを着た感想を尋ねると、逆に佐野選手から質問が返ってきた。どうやら本人は「イマイチだなって…」と着こなしに自信がないようだ。「このユニフォーム自体はめっちゃかっこいいんですけど、僕自身が似合っていない」と眉をひそめる。
“大陽理論”によると、「伝統あるタテジマを着こなすには、ユニフォームがピチピチになるくらいゴツくなければならない」というのだ。夕食には米を3合食べるが「あんまり体重が増えない」と嘆き、回数なども意識しながらとにかく食べまくっているという。
今後はさらにウエイトトレーニングにも力を入れて、現在の81キロから91キロまで増量し、143試合を戦い抜ける体を作り上げることを誓っているが、そうなった暁には、きっと「僕、ユニフォーム似合っているでしょ」と胸を張れるはずだ。
■最後は神頼み
趣味の欄に書いた「寺社巡り」が話題になった。佐野選手にとっての最強のお寺は「鈴虫寺(華厳寺)」だという。「わらじを履いたお地蔵さんが願いをかなえてくれる」と人気のパワースポットだが、富山から京都までひとりはるばる足を運んだのは「ドラフト前にそわそわして、いてもたってもいられなくて、神頼みしよう」という強い思いがあったからだ。
そもそも昨年、中部大学からプロ入りを目指したが指名がなかった。野球で努力することは当然だが、それだけでは足りないと考え、「最後は神頼みだ」と寺社を巡るようになった。
1年前に石川県の金劒宮で「お金持ちになれますように」と願ったのに始まり、地元の静岡も含め、1年間で訪れた寺社は20カ所にも及ぶという。「この1年、『ドラフトで指名される』っていうものに全振りしてきた」と願いに願いまくった。
自らを「スピリチュアル的な部分がある」と言い、パワーを感じるために寺社に出かけるのだが、それによって運がいいと思えるできごとは多々あったと明かす。
件の鈴虫寺では黄色いお守りをもらい、願いがかなうと返しにいくことになっている。次の願いごとは「開幕1軍です!」とキッパリ。近距離になったことで、これからはいつでも気軽にお願いに行ける。
■一陽来復
佐野選手には、何かを引き寄せるパワーがあるようだ。こんなできごともあったと教えてくれた。
入団会見後のファンミーティングでは、新人選手全員がたいせつにしている言葉を色紙にしたためた。佐野選手が書いたのは「一陽来復」。悪いことが続いた後、幸運に向かうことを意味する。
「プロ野球の世界は常にいいことばかりではないので、苦しいときやしんどいときに、この言葉を思い出して、奮い立たせてくれる」。
どんなにつらくとも、必ず好転すると信じられるという。
実はこの言葉、今年の初詣で地元・富士宮市の富士山本宮浅間大社に行ったときに巡り合ったのだという。
「毎年、『今年の言葉』みたいなのが書いてあって、そこで家族で写真を撮るんですけど、その言葉が『一陽来復』でした」。
佐野選手をはじめ、きょうだいがみな名前に「陽」の字をもつこともあり、「何かすごく感じるものがありました。家族にとって大事な言葉です」と語る。
勝負の年だと覚悟して迎えた今年。佐野選手のその強い意志が、ご縁なども含め、さまざまなものを引き寄せている。
そういえばこの色紙、抽選でファンにプレゼントしたのだが、当たったのが「45番」の札を持った女性だった。背番号との一致に会場からはどよめきが上がった。
その女性も感激し、「これからずっと佐野選手を応援し続けます!」と興奮気味だった。はるばる福井県から来た甲斐があったようだ。
やはり、何か持っている男だ。
■一問一答
性格:「人なつっこい」
富士宮名物:「富士宮やきそば」
目標:「鳥谷敬選手」
鳥谷選手から何か一つ能力をもらえるとしたら:「強靭なフィジカル」
初めてのお給料で買いたいもの:「時計。かっこいいヤツ」
バレンタインチョコの最高記録:「2コ。友だちから」
*ちなみに誕生日が2月14日
■古巣と、その監督への感謝
壇上での共同会見で、佐野選手が熱く口にしたのは古巣・富山GRNサンダーバーズへの思いだった。
「1年で野球人としてすごく成長させてもらいました。富山の球団には感謝しかありません。プレーで返していけるように、これから頑張りたい」。
活躍することが恩返しになる。
そして、恩師である吉岡雄二監督にも感謝の念が尽きない。吉岡監督は来季から東京ヤクルトスワローズの1軍打撃コーチに就くことが決まった。同じセ・リーグ。つまりは敵になる。
「吉岡監督からは『1軍の舞台で待ってるぞ』という言葉をいただいたので、早く1軍に上がって成長した姿でお会いできたらなって思っています」。
タテジマが似合う体になって、甲子園で打って守って走ってというところを見てもらいたいと願っている。
■セールスポイント
ウリは「正確な捕球と正確な送球の堅実な守備、コンスタントにヒットが打てるところ」とアピールし、「ショートを守っている立ち姿だったり、打席に入っているときの構えだったり、華のある選手」と表現する憧れの鳥谷選手のように、自身も華のある選手を目指す。
背番号は45に決まった。
「一日でも早く『佐野の番号』って言ってもらえるようなプレーをして、この番号が憧れの番号になれるように、阪神の顔の番号になれるように頑張っていきたい」。
活躍することで、その背番号は輝きを増す。最初はフレッシュに泥臭く、いずれは鳥谷選手級のレジェンドに、そして子どもたちから「佐野選手のようになりたい」と憧れられる選手に―。
夢の甲子園球場で佐野大陽は躍動する。
【佐野大陽(さの たいよう)*プロフィール】
2002年2月14日(22歳)
178cm・81kg/右投右打
常葉大橘高校―中部大学―富山GRNサンダーバーズ
静岡県富士宮市出身/内野手/背番号45
座右の銘「やるかやるか」
【佐野大陽*今季成績】
39試合/打席184/打数143/安打48/二塁打1/三塁打1/本塁打0
四球32/死球5/三振17/犠打0/犠飛3/併殺打3
打点19/得点32/盗塁9/盗塁死5/失策6
打率.336/出塁率.464/長打率.357/OPS.821
(太字はリーグトップ)
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(撮影はすべて筆者)