《2023ドラフト候補》“えぐい高速カットボール”の使い手・日渡柊太(日本海・富山)、その進化の軌跡
■富山のドラフト候補、三人衆
NPBドラフト会議が目前に迫っている。今年は大学生投手が“豊作”だといわれ、あちらこちらのメディアでさまざまなドラフト候補選手の名前が挙がっている。そんな中、独立リーグにも注目投手が多くいる。
今年から日本海リーグに加盟している富山GRNサンダーバーズには3人の候補投手がいるが、おもしろいのが三者三様で、それぞれまったくタイプが異なる。
大谷輝龍投手は最速159キロで常時150キロ超えを誇り、フォークやスライダーの精度も高い右の本格派だ。(大谷輝龍*参照記事)
快(松原快)投手はサイド気味のスリークォーターでキレ味抜群のスライダーとシンカーを操り、最速156キロとストレートも速い。(松原快*参照記事)
そして、もうひとり。「えぐい」と称される高速カットボールの使い手、日渡柊太投手である。開幕戦で無死満塁から3連続奪三振の鮮烈デビューしたことは記憶に新しいが、現在、そのころよりも格段にグレードアップし、投球スタイルもボールの質も進化している。(日渡柊太*参照記事1、参照記事2)
鋭いカットボールを軸にした配球スタイルは、独立リーグ界を見渡しても稀有である。
では、今シーズンの成長の軌跡を振り返ろう。
■衝撃デビューからの伸び悩み
「いける」―。
初登板が満塁のピンチでの3連続奪三振だ。しかもファウルもなく、まったく当てられずに10球で料理した。「ちょっと自信過剰になっちゃったのはありますね(笑)」と振り返るが、それは無理のないことだろう。
しかし気温が上がるにつれ、打者のバットも振れだす。しかも2チームしかないリーグゆえ、同じ打者との対戦が続くから、相手の目も慣れてくる。
ターム1(*注)で10試合に登板して17コの三振を奪って得た自信が、ターム2に入るころには「最初は三振が取れていたけど、だんだんファウルから前に飛ばされはじめて、自分が思っていたよりも打たれた」と苦しくなってきた。
リリースでボールに力が伝わっていないと感じ、ボールの質にも納得がいかなかった。ターム2は三振数も10試合で8コに半減した。
もっと伸びるだろうと自分で自分にかけていた期待は裏切られ、「もっともっと成長しなきゃって、いろいろ試行錯誤していたけど、うまくいかなくて伸び悩んでいた」と、歯がゆい日々を過ごした。
(*注)日本海リーグではシーズン40試合をターム1(15試合)、ターム2(15試合)、ターム3(10試合)と3つのタームに分けて戦った。
■吉岡雄二監督からの助言
そんなターム2の中頃だっただろうか。帰りの挨拶に行くと吉岡雄二監督に呼び止められ、じっくりと話をした。吉岡監督はかつて読売ジャイアンツ、大阪近鉄バファローズ、東北楽天ゴールデンイーグルスとNPBで19年間、勝負強い打撃で活躍した強打者だ。
「打者目線の配球の話でした。プロで成功された方の考えは勉強になりましたね」。
それまで左打者に対しては、ストレートとカットボールをインサイドに攻め込むのが“日渡スタイル”だった。同じコースでも「右の内はバッターが壁になって投げやすいけど、左の外は目標がなくて投げづらい」ということもあり、左打者に投げるのは真ん中から内の半面のみで、キャッチャーも外に構えることすらなかった。それで十分に抑えられていたのだ。
しかし、それも通用したのはターム1までで、ターム2では読まれて捉えられることも増えてきていた。
「監督はそれに気づかれて、外のまっすぐの使い方を教えてくれました。和田(毅)投手(福岡ソフトバンクホークス)を例に出して、一番よかった年に三振を多く取っていたのが右バッターの外の高めのまっすぐだったと。その使い方の話を聞きました」。
吉岡監督の実体験に基づいた話だった。
1時間にも及ぶ助言は心にズシンと響いた。頭打ち状態を打破するべく、さっそくブルペンに入って左打者のアウトコースに徹底して投げ込んだ。配球についても大上真人捕手ともじっくり話し合った。
「ターム2の途中から左の外を使いはじめたんですけど、すごく幅が広がりました。外のまっすぐはボール球になっても見せるだけで違って、いつもの内のボールがまた生きるという感じがありました」。
バッターの反応からも、アウトコースをかなり意識していることが見てとれた。
■“理想のカットボール”の追求
そして、開幕時からずっと追求してきたのが、“理想のカットボール”だ。当初は曲がり幅も大きく、球速も130キロ後半だった。試合中にチームメイトがつけるチャートには「スライダー」と記されていることが多々あった。
追い求めたのは「140キロを超える、曲がり幅の小さいカットボール」だ。キャッチボールでも投げ、ブルペンでも1球ごとに大上捕手に反応を聞いては自身の指先の感覚とすり合わせ、理想とする速さや軌道に近づけていった。
改良を重ねて、シーズン終盤には143キロまで上がり、リーグ内では“打たれない球”に仕上がった。
■スライダーも良化
副産物なのか、カットボールの精度が上がるとともにスライダーも良化してきた。
かつてカーブのようにも見えていたスライダーは、山内詩希選手(石川ミリオンスターズ)に追い込んでから右前打されたとき、改善の必要性を感じたという(7月2日・県営富山球場)。
投げた瞬間に自分では三振だと思ったのが、「パッと止まって外にバチンと合された」と振り返る。
「前は投げた瞬間に一度、手元からふわって浮いていた」のを修正し、「まっすぐの軌道からちゃんと曲がるようになりました。カットより曲がり幅は大きいし、思ったより縦の変化ですね」と現在のスライダーを説明する。
改良したスライダーの球速帯は130キロ台前半で、カットボールと明確に色分けすることができるようになった。
■奥行きを使うチェンジアップ、そしてカーブも
さらに、開幕当初は「自信ある球じゃない」と試合で使うのをためらっていたチェンジアップも、“戦力”に育て上げた。
「最初はそんなに必要でもなくて、執着もしてなかったんですけど、ブルペンでゾーンに投げる練習をしていたらけっこう投げられるようになって、試合で決まると自信もついた」。
今では引っかけることもなく、緩急を使うのに役立っている。
「空振りを取るより、タイミングをズラしてゴロを打たせることが多い。ベースの前で落ちるというより打者に届くまでの間に奥行きがあるような、ベースまでスーッと遅くまっすぐいって、打者の前後を使うみたいな感じですね」。
独特のニュアンスで言葉にしてくれたが、時間を操っていることがイメージできる。チェンジアップでタイミングをズラされた打者が、バッティングを崩される。シーズン後半に見られたのが、それだ。
そしてターム3からはカーブも駆使するようになった。「6月に阪神タイガースと対戦したときに1、2球投げてちょっと手応えがつかめたんで、ターム3でちょくちょく使うようになりました」と、ほかの変化球の精度が上がったところにプラスして、さらに投球の幅が広がった。
■自分のスタイルを確立
シーズンが深まるにつれ、カウント球にも決め球にも使える理想の球に成長したカットボールを軸に、ストレートとほかの変化球も織り交ぜ、労せず打者を打ち取れるようになっていった。
カットボールを主体にするようになったのには、大谷投手と快投手の存在も大きいという。
「僕が150キロ超えても、大谷の150キロ後半があったら目立たない。快さんも強いまっすぐにスライダーとシンカー。じゃあ僕の武器はといったら、それはカットボールだと気づいた。カットを軸にして、ほかの変化球と150キロ近いまっすぐで自分のスタイルになる」。
2人の存在は刺激になるとともに、大きな影響を与えてくれた。こうして、たしかな“日渡スタイル”が確立できたのだ。
■大学時代との違い
最速153キロを出した大学時代は、「とにかく球速だけ出しにいっていた」と“数字だけ”を求めていたため、「けっこう打たれた」と結果には結びつかなかった。
今年の最速は150キロ(常時140キロ台後半)だが、「差し込んだり、空振りが取れる」と当時のストレートとの質の違いを実感している。
「ストライクからボールになる球」で三振を取っていた変化球も、今年はブルペンから「ゾーンにしっかり自分のボールを投げる」と取り組み、精度がよくなった。「ゾーンで勝負できる」という自信も芽生えた。
「スピードだけじゃないってわかったし、練習への取り組み方、ブルペンでの投球内容が変わりました」。
ピッチングの奥深さに触れられたシーズンでもあった。
■今季のベストピッチ
今季のベストピッチを問うと、「2つあるんです。理想の配球というか、ボールが投げられたんです」と、9月8日の植幸輔選手との対戦(金沢市民野球場)と、8月5日の川﨑俊哲選手との対戦(同球場)を挙げる。(ともにミリオンスターズ)
◆VS植幸輔
「インコースまっすぐで空振り、次のカーブがストライクだと思ったけどボールの判定で、またインコース高めのまっすぐで空振り、最後に外のまっすぐで空振り三振を取ったんです。完全に遅れて合すような形になっていて…。吉岡監督に教わってやってきた外のまっすぐがちゃんと出せた投球でした」。
◆VS川﨑俊哲
「初めて負けがついた試合でもあるんですけど…。杉崎(蒼太)の三塁打で逆転されたあと、2アウト三塁で川﨑と対戦して3球三振でした。インコースのカットボールが構えたところにいって見逃し、インコースまっすぐでファウルを取って、最後は外にチェンジアップで落として。この配球は一番、自分の形が出せましたね」。
いずれもやってきたことが具現化できた対戦だった。とくに植選手との対戦は、吉岡監督のアドバイスにより意識して取り組んできた「外のストレート」での結果だけに、達成感はひとしおだった。
■野球に集中できたことに感謝
大卒1年目の日渡投手は、大学生のドラフト候補たちより年齢は1つ上だ。しかし年に2度のリーグ戦ではなく、NPBと同じくシーズンを通して戦い抜いたことはアドバンテージになる。しかもケガもなく、リーグ最多の登板もこなした。
「1年間ちゃんと投げてシーズンを終えられたのがよかった。ケアやリカバリーにしっかり時間を注いでやってきました」。
チューブや自重で肩のインナーマッスルや負傷経験のある内転筋のトレーニングを続けたことにより、大学時代とは体も変わり、よりパフォーマンスが発揮できるようになった。
「野球に没頭させてもらえたこの環境にも感謝しています。勝つことが楽しかったし、負けてもまたそれを改善して次にって、野球に集中して向き合えた」。
大学時代は進路に迷ったこともあったが、今、自身が選択した道が正解だったと胸を張れる。
■理想は則本昂大のような三振が取れる投手
そんな日渡投手が理想とする投手像は東北楽天ゴールデンイーグルスの則本昂大投手だ。
「三振にこだわっているし、動画見てかっこいいなと思って、ずっと憧れてきました。けっこうマネしたりも(笑)」。だから大学時代も今も、背番号は14を選択した。
則本投手は最多奪三振のタイトルを5年連続で獲得している。自身も「前に飛ばされたら負けっていう気持ちが強い」と三振にはこだわりを持ち、今後もそこは変わらず追求していきたいとうなずく。
「今年、NPBの選手と対戦して感じたのは、体の大きさもパワーもスイングも、ピッチャーの球の質もすべて違うなということ。自分ももっとレベルアップして、NPBの世界でも三振が取れるスタイルを見つけていきたい」。
同じ舞台でNPBの強打者から三振を奪うべく、牙を研ぎながらドラフト指名を待つ。
【日渡柊太(ひわたし しゅうた】
2000年10月16日/岐阜県
176cm・76kg/右・右
市立岐阜商業高校―中部大学
最速153キロ
カットボール、スライダー、チェンジアップ、カーブ
【日渡柊太*今季成績】
27試合 27・2/3回 1勝1敗
被安打28 奪三振34 与四球8 与死球3
失点13(自責11) 防御率3.58 奪三振率11.06
【富山GRNサンダーバーズ*ドラフト候補選手】
【富山GRNサンダーバーズ球団公式YouTube】
*日渡柊太
*大谷輝龍
*松原快