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「1,000円の壁」ついに崩壊! トレンドから読み解く「2024年のラーメン」とは?

山路力也フードジャーナリスト
2024年のラーメンはいったいどうなる?

ついに「1,000円の壁」が崩壊した

『らぁ麺やまぐち』(西早稲田)の「鶏そば」は税込1,050円。
『らぁ麺やまぐち』(西早稲田)の「鶏そば」は税込1,050円。

 ラーメンが生まれて百年余り。加速度的に進化し続けているのがラーメンの世界だ。2024年のラーメンはどのようになっていくのか。これまでの歴史とここ数年のトレンドから、これから先のラーメンの姿を読み解いていきたい。

 まずは価格。これまでラーメンは「国民食」「庶民の食べ物」として、いわゆる「B級グルメ」の一つとして認識されてきた。しかしながら、昨今のラーメンは厳選した食材を使ったり、高度な調理技術を駆使して作られるものも少なくなく、戦後の物資の乏しかった頃に生まれたラーメンとは異なるものになっている。

 ラーメンを食べるターゲットの年齢層は、2000年前後のラーメンブームもあって、ここ20年で広がりを見せている。しかしながらコアターゲットである現代の20代〜30代にとって、ラーメンとは当初から厳選素材を使ったこだわりの麺料理であり、ラーメンに対して「庶民の食べ物」「B級グルメ」というイメージは稀薄だ。ラーメンが庶民の食べ物などと言っているのは昭和世代。ラーメンを食べる人たちの感覚は明らかに変わってきているのだ。

『博多ラーメン でぶちゃん』(高田馬場)の「博多ラーメン」は税込1,100円。
『博多ラーメン でぶちゃん』(高田馬場)の「博多ラーメン」は税込1,100円。

 安い日常食としてのイメージに縛られてきたラーメンには、長年「1,000円の壁」という価格の問題があった。ラーメン一杯の価格は1,000円を越えられないというものだが、長引く円安と原材料費の高騰、さらには人件費の高騰もあり、従来の価格を維持出来なくなっており、ラーメン一杯の価格1,000円を超える店が全国に続出している。

 その中で、さらにラーメンやサービスに磨きをかけて、より特別感や稀少性などの価値観を与えることにより、「B級グルメ」のイメージを払拭させるラーメン店も増えてきた。予約制で営業したり、コース仕立てで提供したりと、従来のラーメン及びラーメン店のイメージから、レストランや料理店へのフィールドへとシフトしていき、薄利多売ではなくしっかりと利益の取れる価値のあるラーメンを提供する営業スタイルだ。

 家族経営であったり自分の土地に店舗を構えているなど、地方のラーメン店の中にはいまだ安い価格で提供出来ている店もある。しかしながら、従業員を雇って家賃を払って営業している場合、従来の価格を維持出来ないのは至極当然のことと言えるだろう。さらに給与待遇や労働環境などを改善していかなければ、飲食業界に従事しようという人もいなくなる。「1,000円」の壁は崩壊すべくして崩壊したのだ。

ノスタルジックラーメンの再構築

昔ながらの中華そばを現代風に再構築した「ネオノスタルジック」なラーメンが増えている。
昔ながらの中華そばを現代風に再構築した「ネオノスタルジック」なラーメンが増えている。

 2000年代以降、ラーメンは劇的な進化を遂げて現在に至る。厳選された食材を大量に用いたり、調理工程も驚くほどに複雑になって手間暇もかかるようになった。その結果としてラーメンの注目度は高くなり、日本から世界へと広がっていったわけだが、同時にラーメンの価格も高騰し「庶民の食べ物」「国民食」という立ち位置も変わってきた。

 前述した食材原価の高騰への対応策として、値上げと共に考えられるのが商品設計の見直しによる原価の抑制だ。従来のラーメンの設計のままでは売価を維持出来ないが、ラーメンそのものの設計を見直すことによって原価を抑えて売価も抑えることが出来る。昨今、ラーメンブーム以前のラーメンを再構築して提供する「ネオノスタルジック」なラーメン店が増えている背景には、高騰し続ける原価を抑える目的があるだろう。

「ラーメンショップ」のラーメンを新たに作り出すトレンドも。
「ラーメンショップ」のラーメンを新たに作り出すトレンドも。

 昔ながらの中華そばをブラッシュアップした『ちゃん系』と括られるラーメン店や、『ラーメンショップ』のラーメンや、地方のご当地ラーメンなどにインスパイアされたラーメンが、既存のラーメン店主たちによって新たに生み出されている。長引く鶏油不足も手伝って、今後「背脂ラーメン」が再注目される時代も遠くないだろう。いずれにせよ20年以上も前から世にあったラーメンに、再び新たな命が吹き込まれて現代のラーメンシーンに甦っている。

 なぜこのような一昔前のラーメンが再び注目されているのか。無論、古くからラーメンを食べている人にとっては懐かしさがあるラーメンだが、前述したように進化した現代のラーメンしか知らない20代〜30代の世代にとっては、どれも食べたことのない新しいラーメンとして受け止められている。ここ数年一気に再注目されている「横浜家系ラーメン」も、半世紀前からあるオールドコンテンツだった。

 ラーメンに限らずファッションや音楽などのカルチャーのトレンドは、一般的には20年周期と言われている。市場のメインターゲットは概ね20年で入れ替わる。今の若者たちが『Y2Kファッション』を着こなして『J-POP』を好んで聴いているように、ノスタルジックなラーメンも彼らにとっては目新しい「現代のもの」として新鮮に受け入れられているのだ。

スープから麺へ再び注目が集まる時代に

スープから個性的な麺の表現の時代へ。
スープから個性的な麺の表現の時代へ。

 言うまでもなく、麺とスープはラーメンを構成する重要な要素だ。チャーシューなどの具材はあくまでも脇役。ラーメンの主役は麺とスープと言って良いだろう。数多くの他のラーメン店といかに差別化を図るのか。どこで個性を発揮していくのか。これまでは様々な素材や製法を駆使したスープにフォーカスされていたが、ここ数年は個性的な特徴のある麺にフォーカスされるようになって来た。

 しかしながら、ラーメンの歴史の中で麺に注目が集まった時代がなかったわけではない。2000年代に入り、つけ麺がブームとなった時に「自家製麺」を謳う店が一気に増えた。そして製麺所もまた個店ごとにカスタマイズしたオリジナルの麺を供給するようになり、人気製麺所の麺箱や木札が美味しい店を選ぶポイントにもなった。いずれも今のラーメン業界では当たり前の光景と言えるだろう。

個性的な自家製麺を出す店が増えている。
個性的な自家製麺を出す店が増えている。

 そう考えると、麺に再び注目が集まっているのも20年周期のブーム再来の一つなのかも知れない。現代の自家製麺は、使用する小麦の銘柄や小麦の持つ特性に注目したり、今までにない形状の麺や水回しから全て手作業で行う完全手打ち麺など、従来よりもアップデートされた印象を受ける。そしてそれに負けじと製麺所も独自の切り刃を開発したりと、さらに個性的で存在感のある麺の開発に余念がない。さらにスープのないシンプルな「TKM(たまごかけ麺)」が人気を呼ぶなど、麺にウェイトが置かれたメニューにも注目が集まっている。

 2024年のラーメンがどうなっていくのかは誰にも分からない。しかしながら間違いなく料理としての完成度は2023年のラーメンよりも高まっていく。ラーメンという麺料理は常に進化し続けており、その進化のスピードは他のあらゆる料理の進化の比ではない。ラーメンを点ではなく線で捉えていくと、よりラーメンという食べ物が美味しく楽しく感じるはずだ。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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