酒がそんなに悪いのか! 飲食店が緊急事態宣言の酒類提供の禁止に本気で激怒するワケ

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

3度目の緊急事態宣言が発出

東京都、大阪府、兵庫県、京都府に対して、2021年4月25日から5月11日までの期間、緊急事態宣言が発出されました。緊急事態宣言は今回で3度目となります。

菅義偉首相は4月23日夜に記者会見を行い、「このまま手をこまねいていれば大都市の感染拡大が国全体に広がることが危惧される」と緊張感をあらわにしました。

そして「ゴールデンウイークという多くの人が休みに入る機会をとらえ、短期間に対策を集中して実施することでウイルスの勢いを抑え込む必要があると判断した」といい、3度目の緊急事態宣言を決断したということです。

東京都は酒類提供を禁止

東京都は、緊急事態宣言の期間中、飲食店に対してこれまでよりも強い政策をとります。

酒類を提供する飲食店には休業を、酒類を提供しない飲食店には20時までの時短営業を要請。全面的に実施した場合には、「まん延防止等重点措置」と同様に企業規模や売上高に応じて1日4万円から20万円を支給します。

これまでは20時までの時短営業、19時までの酒類提供となっていましたが、今回は酒類の提供が禁止ということで、かなりインパクトが大きいです。飲食業界では禁酒令、禁酒法とも皮肉され、やりすぎだという声も少なくありません。

飲食店と酒類

飲食店での酒類の取り扱いなどについて説明しておきましょう。

酒類はシュルイと読みますが、言葉だけを聞いても伝わりにくいので、意図してサケルイと読まれることもあります。酒税法では、発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類、混成酒類と酒類を4種類に分類。

保健所から飲食店営業許可をとっていれば、酒類の全てを飲食店で提供することができます。より簡易的に取得できる喫茶店営業許可では酒類を提供できません。店内で調理している飲食店であれば、まず酒類の提供が可能と考えてよいでしょう。

ただ、酒類の提供とは、店内で飲む酒類を提供することであり、持ち帰ることは含まれません。酒類を販売するのであれば、税務署から酒類販売業免許を取得する必要があります。

酒類を提供する時間によっても違いがあり、バーなど食事を主としない飲食店が0時から6時まで酒類を提供するには「深夜における酒類提供飲食店営業」の届け出を警察署に提出しなければなりません。ファミリーレストランやラーメン屋など食事を主とする飲食店であれば提出しなくてもよいです。

飲食店だけをターゲットに

飲食店が、酒類の提供が禁止となったことに対して大きな不満をもっているのは、これまでの経緯が大きく関連しています。

新型コロナウイルスの感染が拡大した当初、国や自治体が風営法の1号営業に該当する飲食店を「接待を伴う飲食店」や「夜の街」と呼んだことによって、居酒屋やファインダイニングなど食事を楽しむ通常の飲食店が風評被害を与えられ、3月からの書き入れ時に売上機会を失いました。

2020年10月1日に農林水産省が主導して飲食業界を救う「Go To イート(Eat)」が始まりましたが、11月25日に経済再生担当相の西村康稔氏が「この3週間が勝負だ」と呼びかけたことによって、1年で最大の書き入れ時である12月も売上機会を逸失。新規感染者数の増加を飲食店ばかりのせいにし、「Go To トラベル(Travel)」には何の瑕疵もないと言及しました。

2回目となる1月8日からの緊急事態宣言では、他の業種にはほとんど何も要請せず、飲食店に時短営業を要請するのみ。しかも、その時短営業の効果にも疑問符がつき、飲食業界からは納得いかないという声が挙がっていました。

大手飲食店予約サービス「TableCheck(テーブルチェック)」の分析によれば、時短営業のために客が一定時間に集中してしまい、密度が通常の約1.5倍になっているといいます。

国や自治体の理不尽な政策に対して、飲食業界で大きな動きがありました。

大手飲食店が都を提訴

東証2部の上場企業グローバルダイニングは時短営業の要請を拒否し、3月22日に行政による過剰な権利制約が続いているとして都を提訴。

請求額がわずか104円であり、実質的な補償を求めたものではないことからも、都と飲食店の溝は深いといわざるをえません。

署名運動も開始

4月6日には、一般社団法人 食文化ルネサンスが内閣総理大臣に宛てて署名運動を開始しました。

その内容とは主に、科学的な根拠にもとづいた対応やガイドラインの策定および査察や認証を行ってほしいというもの。損害を被る側の飲食店からすれば、非常に真っ当な内容です。

記事でもコメントを紹介した「HAJIME」米田肇氏や「シンシア」石井真介氏など、飲食業界で大きな影響力を有する方が多く賛同していることからも、この要望は飲食店の総意とみてよいのではないでしょうか。

またも説明がされていない

飲食業界で色々な事象が発生していながらも、いまだに国や自治体から納得のいく説明がなされていません。そして3回目となる今回の緊急事態宣言では、時短営業に加えて酒類の提供も禁止となりました。

20時までの営業と19時までの酒類提供という非常に窮屈な状況にありながら、テイクアウトやデリバリーの実施、時短営業内のメニューやオペレーションの最適化など、あらゆる打開策を考えて必死に努力してきた飲食店は、気持ちが折れてしまうことでしょう。

酒類提供の禁止は、アルコールを飲むと大声になりがちとなるだけではなく、どこまで大声になりがちとなるか、どれくらいの大声になったら感染率がどれくらい上昇するかなど、科学的な根拠にもとづいて丁寧に説明する必要があります。

海外では飲食店だけをターゲットにしていない

海外でも飲食店に対する締め付けは厳しいです。

新型コロナウイルスの感染拡大が著しいヨーロッパでは、多くの国で飲食店が休業していたり、店内飲食が禁止されたりしています。アジアに目を向ければ、インドでは飲食店が閉鎖、フィリピンでは店内飲食が禁止。

このように海外でも飲食店に対して厳しい政策がとられていますが、その対象は飲食店だけではありません。公共交通機関やイベント、美術館や遊戯施設に対しても制限をかけているのです。それだからこそ、納得感のある政策になっているのではないでしょうか。

それに比べれば、日本で行われている政策は半端としかいいようがありません。

1月8日からの緊急事態宣言では、緊急といいながらも飲食店だけをターゲットにし、他の業種はほとんど自由にさせ、リモートワークの働きかけも何の意味もありませんでした。

飲食店の時短営業だけで収束するような事態であれば、全く緊急ではなかったのではないでしょうか。

本当に人流を抑制したいのか

国や自治体からは、人流、つまり、人の流れを抑制したいということがよく聞かれます。

そうであれば、飲食店に訪れる人々よりも、まずは1日約291万人も東京に流入している人々を真っ先に抑制するべきでしょう。

東京都と密接に関係し、「まん延防止等重点措置」が適用されている神奈川県、千葉県、埼玉県の一部区域でも酒類提供の自粛が要請されています。しかし、緊急事態宣言が発出されておらず、あくまでも自粛であれば、酒類を求めて東京都から隣県へ人が流れることも考えられるでしょう。

さらには、東京2020オリンピックで来日する関係者は何万人ともされていますが、飲食店への人流は許可できないのに、海外からの人流は許可できるというのは不可思議であるとしかいいようがありません。

本当に人流を抑制したいのであれば、飲食店よりも先に対策を練るべきことがあるのではないでしょうか。

感染食対策によって営業を許可

飲食店の方に話を聞くと、誰しもが、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためであれば、制限されるのはやむを得ないといいます。ただ気になるのは、その対象や、対策の順序、そして納得感ということです。

飲食業界は、国や自治体がただ単に要請しやすいからという理由で飲食店にだけ制限をかけているという印象をもっています。

先の署名運動にもあったように、酒類提供を中止する前に、感染症対策のガイドラインをしっかりと策定した方が効果的ではないでしょうか。

東京都は「徹底点検 TOKYOサポート」と銘打って、飲食店を回って指導することを明言しています。

徹底点検と謳うくらいであれば、信頼できる点検であり、飲食店をしっかりと峻別できるはずです。それならば、しっかり対応している飲食店には通常営業を認め、対応が不足している飲食店には時短営業や酒類提供の中止を求めればよいのではないでしょうか。

食事と酒はセット

酒類が提供できないのであれば、売上が見込めないと休業する飲食店も少なくありません。事業規模や売上に応じた協力金になりますが、もともと売上が少ないところでは、酒類の売上がなくなれば、協力金が少し増えたところで経営が厳しくなります。

ワインなどをはじめとしたアルコールのペアリングやフリーフローのプランを用意している飲食店では、急いでメニューを構築し直さなければなりません。ペアリングやフリーフローを予約した客に対して確認作業も必要になるので、負荷もかかります。

売上やオペレーションの観点だけではなく、飲食店からお酒がなくなってしまうのは非常に残念なこと。フランス料理では料理にワインを合わせることをマリアージュといったり、日本ではお酒を楽しむための料理を酒肴と呼んだり、料理とお酒は切り離せないものだからです。お酒を提供できないことにより、食文化や食の楽しさを伝えられないと嘆く飲食店も少なくありません。

協力金の支払い遅延

飲食店には様々な業態があります。10坪足らずで数席だけの小さな店から、300席もあるような大箱までと幅広いです。月商でいえば、1億円という驚きの超ドル箱店舗から、100万円にも満たない職住一体かつ家族経営で成り立っている店もあります。

小さい規模の飲食店に対して、協力金が多すぎるとして、「協力金バブル」と妬みが向くこともありますが、飲食店には全く瑕疵がありません。国や自治体の施策が不公平であるだけなので、非常に理不尽です。

しかし、このように揶揄される協力金でさえも、まだ多くの飲食店で支払われていないのが現実。1月8日からの時短営業の協力金は、3月末時点で東京ではまだ29%しか支払われていません。

飲食店の経営においてもキャッシュフローは非常に重要であるだけに、補償金が数ヶ月先になってしまうのは深刻な問題です。これでは支払いが滞ってしまいます。

飲食店が安心して協力できるようにするためにも、支払いは迅速に行われなければなりません。後からでも不正を検挙できるので、1日も早く支払うことが重要です。

国や自治体の要請に応じて、素直に時短営業や感染症対策を行っている飲食店が損をしてしまうことだけは絶対にあってはなりません。

溝は埋まらない

米国の起業家でジャーナリストのトマス・プエヨ氏が2020年3月末にネット上に公開した論文で「ハンマー&ダンス」という概念を提唱しました。ハンマーはロックダウンや緊急事態宣言など感染者を徹底的に減らす施策であり、ダンスは経済活動を再開すること。つまり、コロナ禍の中においては、強弱や緩急をつけて施策を打っていくことが重要であるというのです。

2021年当初から、飲食店だけではなく他の業種に対してもハンマーをしっかりと打ち付けていれば、ここまで感染が拡大しなかったのではないでしょうか。

「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたり、日本の食品や食材がクールジャパンの重要な柱のひとつとして挙げられたり、東京がミシュランガイドで世界最多の星を獲得していたりと、日本の食文化は世界に誇るべきものです。国や自治体はこれまで日本の食を利用してきただけに、コロナ禍での扱いは掌返しといった印象が拭えません。

3度目の緊急事態宣言では、飲食店だけではなく、幅広い業種にハンマーが打ち下ろされたので、これまでよりもずっと効果が見込めそうです。しかし、酒類提供の禁止という理不尽な政策まで打ち下ろされたことによって、国や自治体と飲食店の溝はまだ埋まりそうにありません。