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イタリア料理トップシェフと二つ星シェフが能登半島地震チャリティーディナー 一流に共通する哲学とは?

東龍グルメジャーナリスト
(C) 東龍

能登半島地震チャリティーディナー

2024年元日に能登半島地震が起きました。避難者数は1万人を切り、徐々に復興は進んでいます。ただ、2024年3月22日に天皇・皇后両陛下が被災者を見舞うため、石川県を日帰りで訪問されるなど、完全復興にはまだ遠い状況です。

このような状況下にあって、被災地を勇気づけるチャリティーディナーが行われました。それは、2024年4月18日と19日に行われた「レスピラシオン(respiración) × アルマーニ / リストランテ(ARMANI / RISTORANTE)」(ペアリング付き 45,000円、税・サ込)です。

復興支援として、同イベントの売上10%が非営利団体「NOTOFUE(ノトフュー)」に寄付されます。「NOTOFUE」は「100年後の能登の食文化を創造する」を目的として誕生した団体で、「レスピラシオン」も加盟しています。

「レスピラシオン(respiración)」とは

「レスピラシオン」はスペイン語で「呼吸」を意味する、石川県金沢市にあるモダンスペイン料理店。

オーナーシェフは梅達郎氏。金沢で育ち、27歳でバルセロナに渡り、ミシュランガイドの星付きレストラン「Saüc(サウック)」で研鑽を積みます。帰国して2017年7月4日に幼馴染でもある八木恵介氏、北川悠介氏とともに「レスピラシオン」を開業。「ミシュランガイド北陸 2021 特別版」で二つ星を獲得しました。

“金沢スパニッシュ”をテーマにして、石川県の魅力を表現。ただ単なる地産地消ではない、海の豊かさや大地の恵み、生産者の想いをしっかりと伝える一皿を紡いでいます。

「アルマーニ / リストランテ」について

「アルマーニ / リストランテ」はアルマーニのエレガンスや細部への究極のこだわりを「食」で表現するイタリアンレストラン。エグゼクティブシェフであるカルミネ・アマランテ氏によって、イタリアの伝統料理に日本の旬材を融合し、モダンに昇華させた見事なコースが提供されています。

世界を対象としたイタリア版のミシュランガイドと称される「ガンベロ・ロッソ(Gambero Rosso)」で、レストランは「トップ・イタリアンレストラン・アワード」に、カルミネ氏は「シェフ・オブ・ザ・イヤー」に輝きました。日本を対象とした「イタリアンウィーク100」では「ベストレストラン賞」に選ばれるなど、名実ともに日本トップのイタリア料理店であるといえます。

コース内容

「レスピラシオン」の梅氏と八木氏、「アルマーニ / リストランテ」のカルミネ氏が紡いだコースは次の通りです。

タパス(レスピラシオン、アルマーニ / リストランテ)
パーネ(レスピラシオン、アルマーニ / リストランテ)
岩牡蠣(レスピラシオン)
山菜(レスピラシオン、アルマーニ / リストランテ)
カンネッローネ(アルマーニ / リストランテ)
パエリア(レスピラシオン)
クエ アクアパッツァ(アルマーニ / リストランテ)
鹿(レスピラシオン)
クレソン(レスピラシオン)
ハニー(アルマーニ / リストランテ)
カフェ プティフール(レスピラシオン、アルマーニ / リストランテ)

全部で11種類と多皿の構成。カンネッローネ、パエリア、アクアパッツァが並ぶなど、イタリア料理とスペイン料理のコラボレーションに期待感が高まります。

料理にぴったりなお酒もペアリングされました。

カ・デル・ボスコ フランチャコルタ ヴィンテージ・コレクション エクストラ・ブリュット 2018
ガロフォリ ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエジ リゼルヴァ セッラ・フィオレーゼ 2019
コルテレンツィオ アルトアディジェ シャルドネ ラフォア 2021
数馬酒造 純米大吟醸 竹葉
テヌータ・ルーチェ トスカーナ ロッソ ルチェンテ 2021

1品から2品で1杯という流れです。スパークリングや白と赤はイタリアワイン、石川県の日本酒も合わせられています。

タパス

タパス (C) 東龍
タパス (C) 東龍

手前が「レスピラシオン」の2品、奥が「アルマーニ / リストランテ」の2品となっています。

左手前は海老の殻を加えたタルトで、甘海老のマリネ、甘海老の海老味噌ジュレのシートがのせられています。海老の妙味が詰まったワンバイトです。左奥はサクサクっとしたクロケットで、中に濃厚なベシャメルソース、上にトリュフのジュレ。右奥は薄くスライスしたジャガイモで、燻製したハマチを巻き、上にキャビアをのせました。ハマチの滋味が強調された一品です。右手前がトマトのタルト。トマトを練り込んだ生地に、イチゴと石川県のブッラータチーズ、発酵させた石川県にあるNOTO 高農園のトマトといった構成で、トマトの旨味が引き出されています。

紹介した順番で食していくと、味わいもだんだんと強くなっていき、よりおいしく感じられました。

パーネ

パーネ (C) 東龍
パーネ (C) 東龍

両店のパンを食べ比べできます。「レスピラシオン」からは石川県産を含む16の雑穀と六条大麦のカンパーニュ。心地よいほのかな酸味が広がります。「アルマーニ / リストランテ」からは天然酵母のフォカッチャが提供され、ローズマリーの香りが豊か。上には、バジルとトマトがのせられ、グリッシーニも添えられています。

岩牡蠣

岩牡蠣 (C) 東龍
岩牡蠣 (C) 東龍

金沢の岩牡蠣を60度で6分間低温調理し、魚の出汁とミルクでやさしく包み込みました。岩牡蠣は素晴らしい上味で、クリーミーな口当たりを有します。あんがとう農園のカモミールとフェンネルが香り、最後にかけられたオリーブオイルも風味が豊かです。

山菜

山菜 (C) 東龍
山菜 (C) 東龍

両店が共創した一品。コンソメは「アルマーニ / リストランテ」が担当し、他は「レスピラシオン」がつくりました。中央にあるのは、金沢で蓮根を専門に生産する「蓮だより」の蓮根をすり下ろし、焙煎し粉末にした六条小麦を練り込んだもので、蓮根餅をイメージ。なめこの笠が食味と食感のアクセントです。レモンバームのソースと仕上げにかけられたのは、白山市白峰に自生する杉の葉のオイル。土の香りがする牛蒡の泡とよいコントラストです。

カンネッローネ

カンネッローネ (C) 東龍
カンネッローネ (C) 東龍

イタリア語で「大きな葦」を意味する円筒形のパスタ「カンネッローネ(カネロニ)」をモダンな一皿に仕上げました。中にはボロネーゼが詰められており、上にはベシャメルソースとフォンドボーソース。濃厚なボロネーゼとフォンドボーソースの相性は抜群です。

パエリア

パエリア (C) 東龍
パエリア (C) 東龍

蛍烏賊の魚醤を塗って焼いた石川県の筍をのせたパエリア。パエリアには細かく刻んだ蛍烏賊も加えられています。上には、鮮やかな香りの木の芽。アリオリが添えられているので、“味変”も楽しめます。

クエ アクアパッツァ

クエ アクアパッツァ (C) 東龍
クエ アクアパッツァ (C) 東龍

食味に優れたクエを繊細に火入れし、みずみずしい至味に仕上げました。クエの出汁、赤パプリカ、ドライトマトでつくられたソースは、上品な香り。右のガルニチュールは、茄子とドライトマトのクネルです。

鹿

鹿 (C) 東龍
鹿 (C) 東龍

メインディッシュは鹿で、2品構成。鹿の腿肉を目の覚めるロゼ色に仕上げました。ほんのりと野性味の感じられる妙妙たる味わい。鹿の骨や端肉でつくった旨味たっぷりのソースです。もう一皿は、鹿のハツをトレビスで包んだ料理。トレビスの苦味と酸味が、ハツの食味を引き立てます。

クレソン

クレソン (C) 東龍
クレソン (C) 東龍

口直しのグラニテです。石川県で自生する味わい豊かなクレソンを凍らせて滑らかになるまで砕きました。下にはクレソンのオイル、黒糖のクランブル、松の実のムース、リンゴのコンポート。複雑に重なった奥行きのある俊味が構成されています。

ハニー

ハニー (C) 東龍
ハニー (C) 東龍

メインの皿盛りデザートです。オーバル型の生地で、蜂蜜のムースと蜂蜜のフロマージュブランを挟み、上には蜂蜜のジェラートをのせました。仕上げに、カルミネ氏が「甘すぎず、バランスが素晴らしい」というスペイン産の蜂蜜をかけ、より風味を豊かに。マーブル模様は蜜蜂をイメージしており、見た目も可愛らしいです。

カフェ プティフール

カフェ プティフール (C) 東龍
カフェ プティフール (C) 東龍

プティフールを左から順番に紹介します。

甘海老のフィナンシェは海老の食味がしっかりと表現された焼菓子です。パイナップルの果汁と黒文字で煮たウドは、中に黒文字とトンカ豆のクリーム、上には黒文字のフレッシュな葉と飴がけした黒文字のジュレ。サクサクっとしたイチゴタルトは、中にイチゴジャムが入れられています。ラズベリーのパート・ド・フリュイはきりっとした酸味があります。

甘海老フィナンシェは味わいがしっかりとしているので、最後に食べるのがよいです。

アルコールペアリング

左から順番に、本文で紹介 (C) 東龍
左から順番に、本文で紹介 (C) 東龍

「アルマーニ / リストランテ」は、さすが一流のリストランテだけあって、素晴らしいお酒が用意されています。

「カ・デル・ボスコ フランチャコルタ ヴィンテージ・コレクション エクストラ・ブリュット 2018」は、イタリアの高級スパークリングワインのフランチャコルタ。48ヶ月間熟成させ、骨格がしっかりとしています。泡立ちがきめ細やかで、トロピカルフルーツや柑橘系のフレッシュな香り。

「コルテレンツィオ アルトアディジェ シャルドネ ラフォア 2021」はイタリア・アルトアディジェ州のシャルドネ100%の白ワインです。非常にふくよかでありながらも調和がとれていて、山菜やパスタに寄り添います。

「数馬酒造 純米大吟醸 竹葉」は石川県にある数馬酒造の一本。磨き上げた米の洗練された味わいと透明感があり、ボリュームもあります。クエの佳味を引き出してくれました。

コラボレーションの背景

生産者を訪れる梅氏(左)とカルミネ氏(右) (C) アルマーニ
生産者を訪れる梅氏(左)とカルミネ氏(右) (C) アルマーニ

素晴らしいコラボレーションでしたが、どのようにして開催に至ったのでしょうか。

梅氏とカルミネ氏は、昨年の夏くらいからInstagramを通して交流していました。いつかコラボレーションができたらと話していたところ、能登半島地震が起こり、チャリティーイベントを共に開催するに至ったという次第です。

今回のコラボレーションに際して、2024年2月に、梅氏、八木氏、カルミネ氏で能登の生産者を訪問。被災状況が厳しい中でも前向きに向き合い、真摯に食材を育てる生産者の姿に触れてきました。

能登半島から大橋でつながる能登島にあるNOTO高農園では、当時も断水が続き、野菜一つ洗うことも困難な中「シェフたちに来てもらえると力になる」といわれ、長年かけて育ててきた赤土の農園を案内されます。中能登町で年間約300種のハーブやエディブルフラワーを育てるあんがとう農園のもとで、美しく味の濃いハーブの味わいに料理への構想を膨らませました。

食材を大切にする

左から順番に、八木氏、カルミネ氏、梅氏 (C) アルマーニ
左から順番に、八木氏、カルミネ氏、梅氏 (C) アルマーニ

「レスピラシオン」と「アルマーニ / リストランテ」に共通する哲学は、“厳選した食材ありき”であること。素材を大切にしているだけあって、メニュー名は主役の食材のみが表記されていました。チャリティーだからと食材を妥協するのではなく、質が高く豊かな食材が揃う能登だからこそ、今回のコラボレーションが実現したのです。

「レスピラシオン」チームはイベント開催の前日となる4月17日に東京に到着し、ガラディナーの開始直前まで綿密に「アルマーニ / リストランテ」チームと料理をブラッシュアップしました。

シェフの想い

「アルマーニ / リストランテ」内観 (C) 東龍
「アルマーニ / リストランテ」内観 (C) 東龍

冒頭で紹介したように、売上の一部が能登復興のために寄付されます。

イタリアと日本という自然災害が多い国で育ち、「大変な時こそ人と人との繋がりが大切」であることを実感する実力派シェフ3人の想いが重なった二夜。

カルミネ氏は「大変な中でも前向きで、大切に食材を育てる生産者がいることをゲストにお伝えしたい」といい、梅氏は「チャリティーということを意識しすぎずに、自由に感じてもらえれば嬉しいです」と話していました。こういった想いはきっと、能登の生産者や訪れたゲストにしっかりと伝わったように思います。

「アルマーニ / リストランテ」では、復興支援のため、今後も「OMAKASEコース」で能登の食材を使用していくので、是非とも能登の食の豊かさを体験してみてください。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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