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なぜ飲食店だけ? 本当に効果がある? 緊急事態宣言発令に伴う営業時間短縮への大きな疑問

東龍グルメジャーナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

緊急事態宣言が発令される見通し

2021年1月4日、菅義偉首相が首相官邸で記者会見しました。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、緊急事態宣言を行う方針であるといいます。

東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県について緊急事態宣言を発出し、発令は早くて今週中から、期間は約1ヶ月とする方向です。

そして、感染経路が不明の陽性者は、大部分が飲食に関係あるとして、飲食店の営業時間をさらに短縮することを示唆しました。

飲食店の営業時間がさらに短縮

東京都は既に、2020年12月18日から2021年1月11日まで、飲食店に対して22時までの営業時間短縮を要請しています。応じた場合には、1日4万円で25日間ということで、1事業者につき100万円の協力金を支給。

発令される緊急事態宣言によって、飲食店の営業時間終了は22時から20時へと早まり、酒類の提供も19時までとなります。協力金の増額も検討しているということです。

飲食店の営業時間短縮に関しては思うところがあり、以前にも記事を書きましたが、今回も飲食店の立場から述べておきたいことがあります。

飲食店はさらに経営が苦しくなる

営業時間短縮によって、飲食店はどのような影響を受けるのでしょうか。

22時までの営業であれば、19時や19時30分から食事を開始したとしても十分にフルコースを食べられます。お酒のペアリングも楽しめることでしょう。21時入店で、軽い2軒目の利用も可能な時間帯です。

しかし、20時までの営業となれば、コースを楽しむ余裕がなく、アラカルトで何品かオーダーできる程度。加えて、19時までの酒類提供となれば、お酒の売上が見込めないのはもちろん、お酒で料理が進むことも期待できないでしょう。

このような半端な時間で営業していると、効率が悪くて利益を上げるのが難しいので、営業時間短縮となれば休業すると述べているオーナーも既にいます。

ファインダイニングを中心とする飲食店は夜の営業が売上のメインであるだけに、これではとても経営していくことができません。増額されるという協力金にもよりますが、大箱であったり好立地に位置していたりする飲食店では、家賃を支払うことも難しいでしょう。

同じ飲食店であっても、席数、スタッフの人数や専門性によって全く維持費は異なります。スピードを重視するために金額が一律となるのは仕方ない面もありますが、新型コロナウイルスが落ち着いていた時期もあったので、その頃にでも議論して施策に盛り込めるようにするべきだったのではないでしょうか。

昨年の11月から再び感染が拡大し、会食や忘年会の自粛も要請されたことから、飲食店は3月や4月に続いて12月も書き入れ時を逃してしまいました。

新型コロナウイルスによる倒産件数は増えており、業種別で飲食店が最も多くなっています。

さらには、32%が廃業を検討しているといったデータもあるほど。

ただでさえ厳しい環境にある中で、営業時間がさらに短縮され、その後の2月の閑散期を迎えることになれば、飲食店の倒産はさらに増加するのではないでしょうか。

客が集中して、より密になる

飲食店が営業時間を短縮することによって、感染の拡大を効果的に防ぐことはできるのでしょうか。

大手飲食店予約サービス「TableCheck(テーブルチェック)」が分析したところによると、営業時間短縮の要請期間中は、飲食店内のディナー時間帯(18:00~22:00)の密度が、通常の約1.5倍に高まっていることが分かりました。

営業時間が短くなってしまったので、客が集中してしまい、密になっているというのです。

約1.5倍の人口密度になるということは、テーブルに2人座っていた状態が3人座る状態になるということ。もしくは、4人テーブルを6人で使うようになることと等しいです。

22時ではなく20時までの営業時間となれば、さらに客が集中することになりかねません。

飲食店では感染リスクがあるのかもしれませんが、これを防ぐ方法として、ただ営業時間を短くすることに意味あるのか、疑問符がつきます。

なぜ飲食店だけが対象なのか

前回の緊急事態宣言の際には、営業時間短縮の対象となる施設は飲食店だけではなく、スポーツクラブや映画館など、多岐にわたりました。しかし、今回の対象は飲食店のみです。

なぜ飲食店だけが対象なのか、やはり腑に落ちません。

食事の時にマスクを外し、会話をすることから、飲食店に感染リスクがあるというのは理解できます。しかし、それ以外の業種であれば安全であるとは思えません。感染が拡大した当初、スポーツクラブや劇場も感染リスクが高いとされ、クラスターも発生していましたが、現在は感染リスクがないということでしょうか。

私は感染症の専門家ではありません。しかし、飲食店以外の業種でも感染リスクがあるのならば、そういった業種も同じ時期に自粛した方が、飲食店だけが自粛するよりも、感染を早く抑え込めることは明白ではないでしょうか。

飲食店だけが営業を制限されていたのでは、感染拡大の抑制に時間がかかる上に、飲食店だけが痛みを伴ってしまうので、明らかに不公平です。

飲食店の業態によって適切な対応を行うべき

飲食店は日本全国に約45.4万店もあり、色々な業態が存在しているだけに、全てに同じような施策を適用するのはどうなのか、いつも疑問を感じています。

最低でも、風営法の1号営業に該当する<スタッフの接待を期待する飲食店>、深夜酒類提供飲食店営業の届け出を提出している<お酒を楽しむ飲食店>、これらに該当しない<料理を味わう飲食店>に分けて議論し、対策するべきではないでしょうか。

特に、接待を伴う飲食店は、当初から感染リスクが高いと指摘されてきました。まずはここに対してしっかりと手を打っておくべきだったように思います。

これまで国や自治体が傍観してきた怠慢によって、全ての飲食店が損害を被っているのです。飲食店にさらなる営業時間短縮の要請を行うにあたり、同じ過ちを繰り返さないよう、飲食店への対応を振り返り、今後につなげていかなければなりません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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