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飲食店に対する営業時間短縮の要請が間違っている3つの理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

「Go To トラベル(Travel)」が一時停止

新型コロナウイルスの全国的な感染拡大を受けて、政府は2020年12月14日に「Go To トラベル(Travel)」の一時停止を発表しました。

期間は12月28日から来年1月11までの間であり、12月24日24時まではキャンセル料を無料にするとし、事業者には旅行代金の35%を補償する方針だといいます。

こういった感染拡大の対策に合わせて、東京都は12月14日に、12月17日に終了となる予定であった飲食店への営業時間短縮要請を2021年1月11日まで延長することに決めました。

東京都の飲食店は年明けまで22時の営業時間短縮を要請されましたが、これは果たしてよい施策なのでしょうか。

私はいくつかの観点から、飲食店の営業時間短縮の要請は、それほどよい施策ではなかったように思います。

営業時間の短縮は密になる

大手飲食店予約サービス「TableCheck(テーブルチェック)」が分析したところによると、営業時間短縮の要請期間中は、飲食店内のディナー時間帯(18:00~22:00)の密度が、通常の約1.5倍に高まっていることが分かりました。

営業時間を短縮することによって、新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうとすることが、そもそもの目的です。しかし、皮肉なことに、営業時間が短くなってしまったせいで、その時間帯に客が集中してしまい、密になっているというのです。

約1.5倍の人口密度になるということは、テーブルに2人座っていた状態が3人座る状態になるということ。もしくは、4人テーブルを6人で使うようになることと等しいです。

このようにイメージすれば、人口密度が約1.5倍になるような施策がよいとはあまり思えないのではないでしょうか。

営業時間を短縮することによって、お酒を飲む機会を減らし、飛沫防止の対策を行うという意図もあります。しかし、本来は24時までの営業であったところが、22時までの営業になったからといって、お酒を飲む客がお酒を飲まなくなるわけでもありません。

そう考えると、営業時間を短縮することは、ただ単に飲食店の機会損失をつくりだすだけで、感染拡大の対策にはあまり役立っていないように思います。

段階的に対策を行うべき

営業時間の短縮を要請している対象は、酒類の提供を行う飲食店とカラオケ店になっています。

酒類の提供を行う飲食店とありますが、対象となる飲食店が曖昧です。たとえば食事がメインではなく、24時から6時までの間に酒類を提供する飲食店であれば、深夜酒類提供飲食店営業届出を提出している飲食店なので簡単に区別できます。しかし、ただ単に酒類を提供しているだけとあれば、どういった飲食店が対象であるのか、把握できないからです。

以前から述べていますが、このような半端な区切りではなく、もっとわかりやすい形で区別し、加えて段階的な要請が必要ではないでしょうか。

なぜならば、大まかな表現で対象を決めたり、受け手が誤解を生じるような形で報道したりしているせいで、関係のない飲食店にも被害が及んでいるからです。

飲食店といっても日本全国に約45.4万店もあります。

これだけある飲食店を、ただ酒を提供している飲食店として一緒にするのではなく、<スタッフの接待を期待する飲食店>、<お酒を楽しむ飲食店>、<料理を味わう飲食店>に分け、この順番で時短要請などの施策を行うべきです。

それぞれの分類は次の通り。

<スタッフの接待を期待する飲食店>とは、風営法の1号営業に該当する飲食店。店舗のスタッフが客の横に座って応対するような業態であり、料理やお酒よりも、スタッフによる応対に価値を置いています。

<お酒を楽しむ飲食店>とは、深夜酒類提供飲食店営業の届け出を提出しているような、お酒が中心となっている飲食店。風俗営業と深夜酒類提供は同時に行うことができないので、こちらはあくまでもお酒を嗜むための飲食店を指します。お酒がメインなので、20時や21時から営業を始めるところも少なくありません。

<料理を味わう飲食店>とは上記以外の飲食店であり、店舗スタッフによる接待やお酒を主としない、料理を堪能するための飲食店。一般的に認識されている飲食店であるといって構わないでしょう。

このように把握しやすい形で分類し、そこから濃厚接触や飛沫の危険度が高いところから対策を行うべきであると考えています。

東京都の財源にも余裕がない

東京都は当初、営業時間短縮の協力金について、12月17日までの要請の時は1事業者あたり40万円としていましたが、1月11日までの要請となって1事業者あたり100万円を支給することをアナウンスしました。

協力金は日数が増えた分に加えて、1日あたりの金額が2万円から4万円と倍増しており、飲食店を支援しようとしている意図が伝わってきます。

ただ、いくら財源が豊かな東京都であるといっても、11月27日に新型コロナウイルスの感染拡大対応に使用を限定した「コロナ債」の発行条件を決めるなどし、もう資金に余裕があるわけではありません。

飲食店もできれば普通に営業し、客に食べたり飲んだりしてもらって売上を計上できた方が、モチベーションも保てるというもの。

<スタッフの接待を期待する飲食店>、<お酒を楽しむ飲食店>、<料理を味わう飲食店>の順番で営業時間の短縮を要請していき、可能な限り飲食店が営業できる方がよいのは自明でしょう。

全く訪問目的が異なる3種類の飲食店が同じタイミングで営業時間短縮を要請されることは非常に不自然であり、論理性を欠くように感じてしまいます。

ひとつひとつ丁寧に対応することが必要

飲食店の書き入れ時である12月に新型コロナウイルスの感染が再び拡大してきたことはとても残念であるとしかいいようがありません。

そして、これまで述べてきたように、どの飲食店も一緒にして対策を行ってきたことは問題があったように思います。

日本が世界に誇る飲食店のためにも、今一度状況を整理し、ひとつひとつ丁寧に対応していただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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