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『不適切にも』『つくたべ』よりストーリーに引き込まれた3月ドラマ 知性と恐怖に訴える物語『三体』

武井保之ライター, 編集者
Netflixシリーズ『三体』(画像提供:Netflix Japan)

話題作が豊富だった冬ドラマが終わった。振り返ってみると、令和と昭和それぞれの社会の対比を笑いに落とし込み、SNSやネットニュースを大いに盛り上げたTBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』は、近年稀に見る話題作となった。

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ほかにもすばらしいドラマがいくつもあった。現代女性のさまざまな生き方に寄り添ったNHK夜ドラ『作りたい女と食べたい女』シーズン2は、視聴者の心を優しく温める名作だった。

そんななか、3月のドラマで触れておきたい注目作が『三体』。3月21日より配信スタートしたイギリス制作のNetflixオリジナルドラマだが、その壮大かつ難解なストーリーが、すでに世界中で大きな話題の渦を巻き起こしている。

物理学と宇宙論が根底にある科学者たちの物語

本作は、中国の作家・劉慈欣による世界的ベストセラーである同名小説の実写化ドラマ。制作は世界的ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のクリエイターが手がけている。

物語は1960年代の中国と現代のイギリスが舞台。現代の世界各地の物理実験施設でこれまでの理論が覆される異常が検知されると同時に、各国の優秀な科学者が次々と自殺する異変が発生する。

さらに、ある科学者の視界だけに“数列が出現”する怪現象や、星空が瞬く“宇宙のウインク”といった驚天動地といった事態も起こる。その世界的な事象は、1960年代の中国で、エリート科学者が宇宙に向けて秘密裏に電波を発信していたことから絡み合っているのが明らかになっていく。

タイトルの「三体」とは、広大な宇宙空間でお互いの引力が作用し合う3つの天体のこと。本作のなかでは、3つの太陽に連動して回る3重連星がストーリーのカギになる。

第1話から最終話まで緊迫の展開の連続に目が離せない

本作は壮大なスケールのSFだが、物理学者を主人公にした現実の科学をベースにするストーリーになる。エンターテインメント大作でありながらリアルな社会性も有する、真実味のある硬派な作品の側面がある。

そこでは、物理学と宇宙論に基づく現実世界を舞台にしながら、それを超越する存在による目に見えない力が地球に及ぶ様が、科学者たちの言葉を根拠にする圧倒的なリアリティと恐怖をともなって迫ってくる。

科学的要素と哲学的なテーマが混在するドラマの世界観には、知的好奇心を掻き立てる力がある。そこには、厚みのあるストーリーの力強さに加えて、ときに生々しくどぎつい映像演出をともなう映像クリエイティブの力が合わさった説得力もある。

第1話からそのストーリーと世界観にぐっと引き込まれて目が離せなくなる。そしてその引力は、最終話まで途切れることがなく続く。ラストのエピソード8にたどり着いたときには、緊迫する展開の連続への疲労感とラストへのワクワク感にあふれていることだろう。

稀に見るエンターテインメント大作であり、世界的ヒットになるであろう秀逸なストーリーのドラマであることは間違いない。続編が期待される。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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