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『不適切にも』SNS投稿とコタツ記事という“世間”を揶揄 テレビの不都合は掘り下げなかった

武井保之ライター, 編集者
TBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』公式サイトより

TBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第8話は寛容がテーマだった。一度の過ちが許されない、ふわっとした“世間”に判断基準を置く令和のテレビ業界の理不尽さを、不倫をした男性アナウンサーを取り巻くSNS投稿とネットのコタツ記事を揶揄しながら映し出した。

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そんななか、出演毎につめ跡を残してきた山本耕史は、EBSテレビのリスクマネジメント部長としてのコンプラへの尋常ではない厳しさと、17年前の不倫をひたすら責められいつまでも謝罪を強いられる夫の悲哀という2面性を名演。

しかし、そんな芝居もそれまでの寛容性がない社会へのメッセージも、ラスト4分の強烈すぎる二重の仕込みにすべて上書きされた。

寛容でない一度の過ちが許されない社会への正論

この回のメッセージも痛烈だった。女性アスリートとの不倫から第一線の現場から排除された男性アナウンサーは、自宅謹慎を経て、コンプライアンス講習を受け、裏方の仕事を積み重ね、3年かけてようやく禊が済んで復帰への目処が立ったと思いきや、リスクマネジメント部の部長に就いたばかりの栗田(山本耕史)から白紙に戻された。

不倫は法に触れる行為ではなく、本人の妻は許しているにもかかわらず、男性アナの閑職からの復帰を拒む栗田に、市郎(阿部サダヲ)は「家庭の問題であり、あんたらに裁く権利はない」と正論をぶつけるが、栗田の返答は「まだ早い。世間が許さない」。

それでも市郎は「たった一度の過ちで3年も閑職に追い込むことはパワハラに該当する」と食い下がる。折れた栗田が男性アナを朝の情報番組の街頭ロケに復帰させるが、SNSのわずか2件の批判的な書き込みが、WEBライターのコタツ記事になる。

「この“薄っぺらい記事”をコピペしたSNSの投稿が拡散され、その書き込みをネタにする“コタツ記事その2”になって炎上していく」と渚(仲里依紗)の言葉として、コタツ記事にありがちな(?)誤字も含めて炎上のサイクルを揶揄する。

「一度の過ちをやり直せる社会」への道筋は掘り下げなかった

そして栗田は「テレビが向き合う相手は視聴者ではなく、テレビを見ないで文句を言う最初から悪意しかない人たち。だから不毛なんです」とテレビ業界の本音であろう“バッシングの実態”への解釈を示す。

日頃の不倫報道や当人の誰に向けているのかわからない謝罪、またその炎上に無関心な人たちは少なくないと感じるが、そんな人たちの気持ちも代弁しているのだろう。

ただ、テレビがそこまで世間を気にするのは、スポンサー至上の社会だから。

そこは、不倫アナが出演する番組はスポンサー商品の不買運動が起こる、スポンサーからクレームが来る、と起こり得る事象の表面をサラリと撫でるだけにとどめていた。しかし、テレビに寛容性がない原因がそこにあるならば、一度の過ちがやり直せる社会にするためにはどうすればいいのか。そここそもっと突っ込んで掘り下げる気概を見せて欲しかった気もする。

強烈なラスト4分の仕込みで上書きした真意

一方、その栗田自身も過去に不倫をし、その事実を17年に渡って妻の友人たちに責められ続け、毎年謝罪を強いられる姿が映し出された。

そんなヒリついた回だったが、後半ではツッパリをやめて令和のヘアスタイルとメイクになり、昭和に戻った純子(河合優実)の“SAYERS”のカラフルなトレーナー姿のミスマッチな可愛らしさに癒やされる。

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そして、ラスト4分ではまさかのキョンキョン本人と彦摩呂が登場。強烈なインパクトで、それまでのすべてを上書きして消し去った。この仕込みこそ、本ドラマ第8話に関するSNS投稿とコタツ記事をうながす仕掛けだろう。

ドラマが前半で揶揄していた不倫というネガティブの炎上とは正反対のポジティブなバズりを狙ってはいるが、ネットの話題作りをプロモーション手法にするドラマ宣伝も、仕組みとしては炎上と近い。

そんな矛盾をはらむことを自覚しているからこその、強烈すぎるラスト4分の仕込みだったのかもしれない。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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