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ジャニーズ性加害問題、テレビ朝日の逃げ腰原因は「忖度」ではなく「隠蔽」か? #専門家のまとめ

松谷創一郎ジャーナリスト
『テレビ朝日 旧ジャニーズ問題検証』より。

 11月12日、テレビ朝日は『旧ジャニーズ問題検証』と題する番組を放送した。他の5局はすでに検証番組を放送しており、最後のタイミングだった。

 放送時間は全局でもっとも長い60分だったが、検証も再発防止策も極めて具体性が乏しく、その内容はもっとも薄かった。たとえば、以下の点については具体的に触れられていない。

  • 『ミュージックステーション』の圧力/忖度問題
  • 『「ぷっ」すま』のジャニーズ介入による終了問題
  • 『サンデーLIVE!!』5月21日、東山発言について
  • 2026年開業の東京ドリームパークでのジャニーズ癒着問題
  • 敷地内における性加害等
  • 2014年、ハワイ接待の問題

 筆者は、以前から『ミュージックステーション』の制作姿勢について問題視しており(「ジャニーズ忖度がなくなる日」2023年2月28日)、今年の性加害問題についても早い段階からテレビ朝日の報道姿勢に疑義をなげかけてきた(NHK『クローズアップ現代』2023年5月17日)。しかし、いまだにテレ朝は逃げ腰の姿勢をやめない。

 テレビ朝日に対するここまでの疑惑についてまとめた。

▼テレビ朝日・検証番組:社屋内の性加害については被害者聞き取りなし、早河洋会長をヒアリング対象にしたかどうかは回答せず

▼『Mステ』山本たかおCP「ジャニーズとはとても親密な関係」「圧力はないが(他のダンスグループは)必要ない」

▼ジャニー喜多川氏が、『Mステ』の他グループ出演について皇達也元Pに対して圧力をほのめかす

▼全局の報道時間の比較では、テレ朝が性加害問題を扱う尺はかなり短い。また被害者のひとりが旧社屋内でのジャニー氏の性加害を目撃

筆者作成(下記記事より)。
筆者作成(下記記事より)。

 筆者はこれまでテレビ朝日の番組関係者への取材もしてきた。そこから見えてきたことは、こうした報道を強く指示・監視しているのが早河洋会長であることである。

 情報番組でコメンテーターの内容には事前にチェックが入り、テレ朝局内から生放送されている『ABEMA Prime』にも強い影響力を与えている、とも耳にした。

 しかし、テレ朝がここまで忖度姿勢を崩さない理由は、いまも明確には不明だ。有力視されているのは、2026年に有明でオープンする東京ドリームパークで旧ジャニーズとすでに手を組んでいるという噂だが、3年後に旧ジャニーズが現有勢力である保証はもはやない。

 以上を踏まえれば、もはやこの姿勢は旧ジャニーズに対する忖度(ゴマすり)ではない可能性が高い。むしろ、なにか「明らかにしたくないこと」がある、と考える方が合理的だろう。つまり忖度ではなく、隠蔽の可能性である。

 筆者は、性加害が問題視され始めた直後の3月30日に発表した記事のなかで、以下のように書いた。

現在、国会では総務省の行政文書が明らかとなり、放送局への圧力が取り沙汰されているが、民放が官邸や政府よりもずっと怖れているのは間違いなくジャニーズ事務所だ。

(「ジャニーズ事務所のメディアコントロール手法 『沈黙の螺旋』は破られるのか」2023年3月30日/『朝日新聞GLOBE+』)

 そんなことは、ずっと前からわかっていた。エンタテインメント関連の仕事をする多くのひとも知っていたことだ。性加害報道のここまでのチンタラした展開も、当初からある程度予想はできていた。だからこそ、私は幾度か強引な突破をしてきた。

 テレビ朝日のように集団浅慮(I・L・ジャニス)の泥沼にハマり、その結果、欺瞞にまみれたごまかし姿勢で幕引きをはかることは許されない。メディア企業の欺瞞に対しても、「見て見ぬふり」をしてはならない。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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