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テレビ局のジャニーズ報道はどう変化してきたか──消極的なテレビ朝日、積極的な日本テレビ・TBS

松谷創一郎ジャーナリスト
AIなどを使って筆者作成。

 ジャニーズ事務所の創業者である故・ジャニー喜多川氏の性加害問題が報じられ始めて4か月が経過した。

 その発端は、3月7日のイギリスの公共放送・BBCによるドキュメンタリー『J-POPの捕食者──秘められたスキャンダル』だった(BBC『J-POPの捕食者──秘められたスキャンダル』は現在YouTubeで無料で全編観賞可能)。しかし、当初それに追従したのは、過去にこの問題を告発した『週刊文春』を除けば、一部のウェブメディアのみだった。テレビと新聞は4月中旬まで沈黙を続けた。

 その後、報道はなされるようになったが、テレビ局や番組によって現在もばらつきは見られる。それはいったいどの程度の違いなのか。そして、なにを意味するのか。

 先週(7月2週目)までのテレビ報道を数値化したうえで分析・検証していく。

「メディア選別」をしたジャニーズ

 最初に、テレビ報道全体の推移を確認しておこう。

 報道のきっかけとなったのは、4月12日に元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会(FCCJ)で会見をしてからだ。それまで『週刊文春』が独自に被害者に取材をしていたが、他のメディアは独自の取材を進められていなかった。

 すでに『週刊文春』で取材を受けていたオカモト氏の記者会見は、集まったメディアが一次情報を得る契機にもなり、同時に海外メディアからの注目を集めるためのものだった。

 テレビの報道もここからスタートした──と言いたいところだが、実際にそれを報じたのはNHKのみだった。しかも翌日13日の夕方に2分のストレートニュースである。あまりにも不自然だが、それが最初だった。

筆者作成。
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 一方、カメラを出していた日本テレビが、地上波でこの会見を報じることはなかった。その理由について、報道局の下川美奈社会部長は、ジャニーズ事務所から反応がなかったからだと最近説明した。

誰かが性被害等を訴えた場合、真実性の担保のため、訴えの裏取りか、せめて相手側の反応込みで報じることを原理原則としているからだ。今回、ジャニー氏が故人で反証の機会が無いため、ジャニーズ事務所の反応はマストだった。ジャニーズ側に対応を求め続けたが応じられない中、数時間後、共同通信が事務所のコメントつきで再び報じた。取材を進めると、テレビに報じられたくない思いからか、ジャニーズ側は当初、共同通信と一部の新間のみにコメントを出す「メディア選別」をする方針だったことも見えてきた。

 我々がようやくコメントを得たのは会見から丸2日たった14日夜だった。

下川美奈「性被害報道の原則徹する」/「日本記者クラブ会報」2023年7月10日

 この「原理原則」は、新聞・テレビの報道では概ね共有されているものではある。ただし、結果的にそれによって「メディア選別」をされた場合に報じることができないとするのは消極的だ。なぜなら、その場合は「回答がなかった」と報じればいいし、あるいはBBCのように本社に突撃することも可能だろう。その消極性は、利害関係上の「報じたくないテレビ局」と、「報じられたくないジャニーズ事務所」の予定調和にすら感じられる。

積極的な日テレ『DayDay.』

 大きな変化が訪れるのは5月に入ってからだ。

 5月15日、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が、公式に謝罪動画と声明を発表する。それを受けてテレビもやっと重い腰を上げた(スポーツ新聞がこの件をはじめて報じたのもこのときからだ)。

 だがそれ以降のテレビ報道も、局によってばらつきが見られる。ここからは時間帯別にテレビ局・各番組の報道時間を確認していく。

 まず朝から午前中の番組の累計報道時間は以下のようになる。これは3か月間の累計なので、各番組の尺や内容の傾向によってもその多寡が生じることは留意されたい。

筆者作成。
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 まず、もっとも長く報じているのは日本テレビだった。なかでも、『スッキリ』の後を受けて始まった『DayDay.』の積極性が際立っている。6月13日の放送では、前日の再発防止特別チームの会見を受けて、コメンテーターの石田健氏が2分以上にわたってメディア報道の問題などについて踏み込んだ発言をした(なお、石田氏が編集長を務める『The HEADLINE』では、この性加害問題についてかなり詳細な記事を複数発表している。たとえば「ジャニー喜多川氏に向けられた具体的な性加害疑惑 = 約60年にわたる証言の歴史」2023年04月14日など)。

 対して、『DayDay.』の裏番組でもあるテレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』はその消極性が際立っている。テレビ朝日のこの姿勢は、午後や夜の番組でもさらに明らかとなる。

突出する『ミヤネ屋』

 次に昼から午後にかけての番組を観ていこう。すると、ひとつ突出している番組がある。それが、読売テレビ制作・日本テレビ系列で放送されている『情報ライブ ミヤネ屋』である。

 『ミヤネ屋』は昨年の旧統一教会報道でも、かなり熱心に報道を続け、同団体からの抗議にも屈することがない姿勢を明確に見せていた(「統一教会の抗議でテレビは萎縮したのか?」2022年9月5日)。そのスタンスは今回も変わっておらず、かなり硬派である。

筆者作成。
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 もちろん大阪の読売テレビなので、ジャニーズとの関係がそれほど深くないところもあるだろう。ただ、この渦中の6月17日に放送された音楽特番『カミオト-上方音祭』では、関西ジャニーズJr.のAぇ!groupがスペシャルサポーターとなり、他にも4組のジャニーズグループが出演した。利害関係があっても、『ミヤネ屋』はその姿勢を変えていないのである。

 対してやはり腰が引けているのは、テレビ朝日の2番組だ。昼の『ワイド!スクランブル』、夕方の『スーパーJチャンネル』ともに、バラエティや生活情報を中心とする番組では決してない。しかし、このジャニーズの性加害問題にはなぜか消極的だ。

先陣を切った『news23』

 次に、夜のニュース番組を観てみよう。

 ここではTBSの『news23』が突出している。4月13日のNHKの一報の後、地上波で独自の被害者取材を最初に報じたのはこの番組だ。5月11日、10分半にわたって橋田康氏などへのインタビューを報じ、最後に小川彩佳キャスターが「今後番組では、こうした訴えをしっかりと受け止め報道していきたいと考えています」と結んだ。

 TBSは、カウアン・オカモト氏の記者会見にカメラを出さないなど、当初は積極的な様子が見られなかった。だが、その後はBS-TBSの『報道1930』や『報道特集』など、報道を活発化させている。

筆者作成。
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 その断固たる姿勢は昨年の旧統一教会についての報道でも見られたが、おそらくその背景には、1989年の坂本堤弁護士一家殺害事件がある。TBSのワイドショースタッフが、オウム真理教に坂本弁護士の取材ビデオを見せ、その直後に一家が殺害された事件だ。

 この一件は、1995年に日本テレビのスクープで発覚し、当初TBSは否定したものの、後にそれが事実だったことが確認された。TBSの報道姿勢は、取り返しのつかない出来事に発展した過去の経験がある。

 一方、日本テレビはここではややトーンダウンする。『news zero』の月曜日のキャスターを嵐の櫻井翔氏が担当していることも無関係ではないだろう。ただ、それでも月曜日に2回この問題を報じ、うち6月5日の放送では櫻井氏自身が言葉を選びながらコメントをした。

 明確に調査を求めるその内容は、櫻井氏の立場やジャニーズ事務所の今後を考えれば、さまざまに読解が可能な内容でもあった(「『櫻井翔の真意』か『ジャニーズのシナリオ』か」2023年6月6日)。なんにせよ、報道を専業としないタレントをキャスターに据えるリスクが顕在化したのもたしかだ。

 そしてここでも繰り返しとなるが、やはりテレビ朝日の報道は少ない。NHKも消極的に見えるが、他番組よりも『報ステ』の放送時間が長いことを考えれば、明らかに少ない。

『クロ現』と『報道特集』

 最後に、週末やそれ以外の枠の情報・報道番組についてまとめておく。これらの番組は、週一であったり、番組時間がそれぞれ異なるので比較することには向かないが、テレビ局それぞれの姿勢は読み取れる。

筆者作成。
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 見てのとおりTBSの積極的な姿勢が目立つ。ただ、地上波でもっとも硬派な報道番組である『報道特集』の動きは遅かった。はじめて扱ったのは、6月17日だった。独自に60年前の件の証言者に取材し、雑誌メディアとジャニーズ事務所の利害関係に踏み込んだ内容だったが、「メディアの責任」とするわりには自分たちテレビ局には及び腰だった。むしろ、雑誌メディアにそれを代弁させていたような内容だった。

 一方、フジテレビは通常のニュースではあまり扱わないものの、日曜日の『ワイドナショー』では複数回取り上げている。この番組はバラエティ的な軽さを見せる内容だが、5月21日の放送ではMCの東野幸治氏が過去の報道やタレントの振る舞いなども含め、かなり率直な意見を呈した。それはこの番組のゲストである、田村淳氏やウエンツ瑛士氏も同様だった。

 通常のニュース枠ではさほど扱わないNHKは、5月17日に筆者が出演した『クローズアップ現代』で特集した。『news23』よりも6日遅れはしたものの、二本樹顕理氏とハヤシ氏(仮名)のふたりの被害者に取材をし、その証言をしっかりと報じた(「“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題」)。

 この特集は、3日前の藤島ジュリー社長の声明を受けて、当初の予定を前倒しして放送されたが、NHKらしい丁寧な取材が伝わってくる内容だった。その舞台裏について勝手にここで話すことは控えるが、報道に志を持つスタッフによって実現できたことだけはお伝えしたい。

 しかし、NHKがこの『クロ現』以降の2か月間、しっかりと取り組んだ報道番組がないことも確かだ。NHKは『紅白歌合戦』で2009年以降はジャニーズ枠が増えており、なによりBSでジャニーズJr.が出演する『ザ少年倶楽部』という番組を長らく放送している。

 とくに後者はNHKにおいて大きなポイントだ。元ジャニーズJr.の月山潤一郎氏は、過去にNHKのスタジオがジャニーズJr.のオーディション会場であり、『ザ少年倶楽部』がJr.の登竜門だったとも指摘している(『NewsPicks』2023年5月20日)。公共放送のNHKが、どこまで過去に遡って自分たちの身を検証できるかに注目したい。

積極的な日テレとTBS

 最後に地上波テレビの総報道時間を番組・テレビ局別にそれぞれ確認する。

 まず、報道時間が長い上位10番組を並べると以下のようになった。すると、日本テレビ(読売テレビ)『ミヤネ屋』がダントツであることがわかる。そして、TBSの夕方の帯番組『Nスタ』、同『news23』と続く。

 このグラフからは、日本テレビとTBSが突出し、フジテレビも番組によっては扱ってきたことがわかる。

筆者作成。
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 あまり目立たないが、『Nスタ』は藤島ジュリー社長の声明や再発防止特別チームの会見を受け、その内容を丁寧に精査し、報道局の辻真社会部長などが出演して解説をする内容も報じている。

 こうした温度差は、テレビ局単位で見るとより鮮明となる。

 テレビ東京はもともと報道に力を入れておらず、フジテレビも地上波の報道枠は少ない。ただ、フジテレビは『クロ現』で筆者が名指しで指摘した以降は、報道が増えている。以上を踏まえて考えれば、NHKとテレビ朝日が少ない傾向と言える。

 NHKはもともと多くのストレートニュースに時間を割く傾向が強く、個別に『クローズアップ現代』や『NHKスペシャル』などでカバーする流れが定番だ。結果として、それがこの報道時間に顕れている。

筆者作成。
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 そして、やはり不可解なのはテレビ朝日の消極的な姿勢だ。『モーニングショー』も『ワイド!スクランブル』も『報ステ』も、なぜかこの問題を報じることに消極的だ。筆者は早い段階から『クロ現』や『報道1930』などさまざまな記事・番組で指摘してきたが、この背景にあるのはやはりジャニーズ事務所との長くて深い関係だと考えられる。

テレ朝「レッスン場」での行為

 5月25日放送のBS-TBS『報道1930』に出演した際にも話したが、テレビ朝日の老舗音楽番組『ミュージックステーション』(『Mステ』)には、ジャニーズと競合する男性アイドルグループが出演しにくい状況が現在も続いている。過去にはDA PUMPやw-inds.、現在であればJO1、INI、BE:FIRST、Da-iCEなどが出演できていない。また、『Mステ』のプロデューサーに対してジャニー喜多川氏が圧力をほのめかしたことも報じられている(『デイリー新潮』2019年7月25日)。

 しかし、それ以上に疑われるのは2000年まで存在した、旧・テレビ朝日社屋にあったジャニーズ事務所の「レッスン場」だ。古くは1977年から確認されるこのレッスン場(「第1リハーサル室」)は、多くのタレントの証言を総合するとほぼジャニーズ事務所の専用となっていた。

 たとえば2017年に20th Century(V6)の3人は、「仕事じゃなくても毎週そこに集まった」と話している(2017年8月9日「V6 / カミセンvsトニセン!沖縄縦断VR対決(13th Albumより)」)。内容的にそれは1990年前後だと推定される。テレ朝内のこの「レッスン場」は、旧社屋を知るベテランタレントが懐かしい話としてよく披露するもので、ファンの多くも周知の事実だ。

 テレ朝はこうしたジャニーズとの関係もあって、ジャニーズJr.をメインとする、『8時だJ』(1998~1999年)や『裸の少年』(2001年~現在)などの番組を放送してきた。

 ここで生じる疑惑が、この「レッスン場」でジャニー喜多川氏の性的な行為が生じており、それをテレ朝が隠蔽しようとしている可能性だ

 被害を訴える元ジャニーズJr.の二本樹顕理氏は、中学1年生だった1996年にジャニーズ事務所に入り、その年の後半からジャニー喜多川氏から性加害を受けたと証言する。このときのオーディション会場もテレビ朝日の「レッスン場」だった。

 そして二本樹氏は、ジャニー喜多川氏がこの「レッスン場」でジャニーズJr.の未成年者にボディタッチをしていたとも証言している。露骨な行為はなかったようだが、小学生くらいの子どもを膝の上に乗せるなどもあり、そこにはテレビ朝日の社員はいなかったそうだ。これは筆者が二本樹氏とともに出演した、7月12日の 『弁護士ドットコムニュース』の番組内での証言だ(「ジャニーズ事務所は生まれ変われるか?性加害問題を振り返る」2023年7月12日)。

 以上を踏まえれば、テレビ朝日が性加害報道に消極的な理由は、ジャニーズ事務所とのこうした関係において生じたなんらかの「不都合な事実」にあるのかもしれない。そうした疑惑を持たれてもしょうがないくらいに、不自然な報道姿勢をいまも続けているからだ。

 そして、こうしたジャニーズ事務所に忖度する報道機関の姿勢こそが、ジャニー喜多川氏の暴虐を看過してきた根本的な要因だ。ジャニーズ事務所を退所すれば圧力や忖度で活動が抑制されるリスクがあり、ジャニーズ事務所に残れば性加害を受けるリスクがある。

 テレビ朝日はいまもそれに加担している。筆者が『クローズアップ現代』でメディアが「共犯関係」だと言い切ったのは、テレビ朝日に代表されるこうした姿勢こそを指している。

 しかし、テレビ朝日の篠塚浩社長は今月に入っても「見守りたい」と繰り返すばかりだ(テレビ朝日「社長定例会見」)。報道機関にもかかわらず、自主的に取材・調査する意欲を見せることはない。

 筆者は、そうしたテレビ朝日の姿勢を決して見守ることはせず、今後も追及していくつもりだ──。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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