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ほころびを見せたジャニーズのシナリオ──滝沢秀明氏の退社が予想させる“ふたつの未来”

松谷創一郎ジャーナリスト
筆者撮影。

滝沢氏のメッセージはなし

 11月1日、ジャニーズ事務所の滝沢秀明副社長の退社が発表された。4年前にジャニー喜多川氏の後継者として裏方に回った滝沢氏は、おもにジャニーズJr.の育成や新グループのデビューを手掛けてきた。社長を務めていたジャニーズアイランドも、滝沢氏のために創られた子会社だった。

 現在、滝沢氏がジャニーズ退社に至った根本的な理由・原因はわからない。確執説、一区切り説、健康不安説等、さまざまな推測を呼ぶが現段階では不明というほかない。

 ただ、ポイントとなるのは、滝沢氏本人から直接的なメッセージが(いまのところ)発せられていない点にこそあるだろう。スポーツ紙には円満退社をアピールする記事も見られるが(日刊スポーツ2022年11月1日)、昨日昼の段階でこの一報を抜いた『サイゾーウーマン』は、滝沢氏とジュリー藤島社長との確執を指摘している(『サイゾーウーマン』2022年10月31日)。

 思い起こされるのは、6年前のSMAPのマネージャー・飯島三智氏の退社だ。それは結果的に、SMAPの解散とメンバー3人退所の引き金となった。それがあるため、他の幹部との確執を疑うのは自然なことだ。

 そうした疑惑を払拭するためにも、滝沢氏からなんらかのメッセージがあればよかった──が、なかったのである。

“ジャニーズの遅れ”を取り戻す

 タッキー&翼として活動していた滝沢氏が、芸能活動を引退してジャニーズ事務所の副社長に就任したのは、2018年9月のことだった。

 当時、ジャニーズ事務所の旗色は良くなかった。2016年末にSMAPが解散し、2017年9月には稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾の3人が退所して「新しい地図」として活動を始めた。彼らの活動の開始がABEMAだったことは、Amazonなどで雑誌の書影すらシルエットにさせていたジャニーズのインターネット対応の遅れを際立たせた。

 滝沢氏は、そうした“ジャニーズの遅れ”を一生懸命取り戻そうとしてきたように見える。YouTubeでジャニーズJr.の公式チャンネルが始まったのは副社長就任の半年前だったが、就任翌月の2018年10月には自身がプロデュースするSixTONESを「ジャニーズをデジタルに放つ新世代。」のコピーで展開する。ミュージックビデオもYouTubeで公開した。

 もともと滝沢氏は動画配信に積極的だった。2010年の段階で、ジャニーズJr.のコンテンツを楽しめる有料の動画配信サービス「滝CHANnel」をプロデュースしている。ジャニーズでは珍しく、ネット対応に早い段階から積極的だったことがうかがえる。

ストスノを見事にブレイク

 滝沢氏は、2019年1月に子会社・ジャニーズアイランドの社長に就任した。そこで、当時200人ほど在籍していたジャニーズJr.の育成やプロデュースを任されることとなった。そこから2020年1月にSixTONESとSnow Manが、そしてつい先週にはTravis Japanがデビューしたばかりだ。

 だが、「ジャニーズをデジタルに放つ」と言っても、それは決して完全とは言えない。現在の音楽聴取の中心であるストリーミングサービスに、ジャニーズはいまだにさほど対応できていない。活動休止中の嵐は全曲配信しているが、他はKAT-TUNとKis-My-Ft2が一部の曲を解禁しているのみだ。SixTONESとSnow Manも、いまだにストリーミングで聞くことはできない。

 ただTravis Japanは、そうした従来のジャニーズの方法論とはまったく異なる。MVの公開はもはやジャニーズでも当然だが、Travis Japanはデビューと同時にストリーミング配信を開始した。しかも曲は全編英語で、アメリカのレーベルからのスタートだ。K-POPと異なるかたちで世界進出に打って出たのである。ジャニーズが変わる姿勢を鮮明に打ち出したグループだ。

 また、ジャニーズJr.の改革にも着手した。満22歳までにデビューしておらず、合意に至らなければ契約を終了する制度だ。これは芸能人のセカンドキャリアを確保する策でもあるが、増え続けるJr.の削減でもあったのだろう。

改革路線からの後退

 古いジャニーズから、新しいジャニーズへ──滝沢氏はそうした改革路線を推し進めてきた象徴的存在だった。が、そんな滝沢氏が突然退社してしまった。

 それによってまず予想されるのは、ジャニーズ事務所の時計の針が戻ることだ。

 日本ではストリーミングの普及が他の先進国と比べると異常なほど低いが、それはつまり新しいメディア環境への適応が極端に遅れていることを意味している。エンタテインメントのデジタル・トランスフォーメーション(DX)に完全に失敗した。

筆者作成。
筆者作成。

 韓国コンテンツの勢いを横目に、グローバルな競争力を失い続けてきた。それは音楽をはじめとした日本のコンテンツが、ドメスティックなマーケットばかりを見てきたからだ。そしてそれを結果的に主導してきたのが、いまだにネット対応に遅れている業界最大手のジャニーズだ。

 その旧弊な会社を変え続けてきた滝沢氏の退社は、変革の流れを止めるのではないかと見られるのは不自然ではない。他業種で例えれば、EV自動車に舵を切ったはずなのに、ふたたびガソリン車に軸を置くかのようなことだ。それはジャニーズ事務所にとってだけでなく、日本のコンテンツ業界全体にとって大きなリスクとなる。

SMAPと似た事態

 可能性としてもうひとつ生じうると予想されるのは、5年前と似た事態だ。そう、SMAPのことだ。

 飯島三智氏の退社によってSMAPは解散・分裂した。稲垣・草彅・香取の3人は、リスクがありながらもジャニーズを離れて飯島氏と合流した。彼女を信頼していたからだ。そうした過去を踏まえれば、滝沢氏が手掛けた3組──SixTONES、Snow Man、Travis Japanに似たような事態が生じることはだれでも想像するだろう。

 SMAPも嵐も活動していない現在のジャニーズにとって、大ヒットを続けるSixTONESとSnow Manは屋台骨とも言える存在だ。滝沢氏の手腕で、上手く世代交代ができたという印象すらある。

 今回の一件によって、3つのグループのメンバー幾人かが滝沢氏を慕って離脱するようなことになれば、大きな騒動になるだろう。ファンやマスコミの多くが注視しているのは、SixTONESやSnow Manのなんらかの変化につながる可能性があるからだ。

ほころんだ代替わりシナリオ

 ジャニーズ事務所の旧弊な体質は、SMAP解散騒動のときに周知された。故・ジャニー喜多川社長はクリエイティブの責任者だったが、経営を取り仕切っていたのは故・メリー喜多川副社長だった。SMAPの一件もメリー氏によって生じたことは、広く知られている。

 その後、ふたりの創業者姉弟は退場して代替わりをした。それは、滝沢氏が副社長に就任することで順調に進んでいたと見られていた。

 だが、そのシナリオにほころびが見えたのが今回だ。ジャニーズ事務所は、後任として元V6の井ノ原快彦氏をジャニーズアイランドの社長に迎えたが、その能力は未知数だ。

 現状、今回の一件がどのような方向に進むかはわからないが、滝沢氏がなんらかの事業を興す可能性は高い。そのとき、なにかが起こるかもしれない──。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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