ジャニーズに対する公取委の注意、その背景とこれまでの文脈とは──今後の注目はテレビ局の対応

(写真:ロイター/アフロ)

 7月17日夜、公正取引委員会がジャニーズ事務所に注意したことをNHKがスクープした。

「元SMAP3人の出演に圧力か ジャニーズ事務所に注意 公取委」2019年7月17日

 このNHKの報道では、ジャニーズ事務所が民放テレビ局などに対し、元SMAP(現・新しい地図)の3人を「出演させないよう圧力をかけていた疑いがある」としている。

 本記事では、このニュースの背景を解説していく。

2018年の独禁法見直し

 まず、この問題の前提として押さえる必要があるのは、ふたつの事実関係だ。

 ひとつは、元SMAPメンバーの稲垣吾郎さん・草なぎ剛さん・香取慎吾さんの3人について、相次いで地上波キー局のレギュラー番組が終了した事実だ。3人は、2017年9月にジャニーズ事務所との契約を解消して、SMAPの元チーフマネージャーだった飯島三智氏が設立したCULENに移籍した。その後、長寿番組も含む彼らの地上波番組はNHKを除いてすべて終了した。列挙すると、以下である。

  • 香取慎吾:テレビ朝日『SmaSTATION!!』(2017年9月終了)
  • 草なぎ剛:テレビ朝日『「ぷっ」すま』(2018年3月終了)
  • 香取慎吾:フジテレビ『おじゃMAP!!』(2018年3月終了)
  • 稲垣吾郎:TBS『ゴロウ・デラックス』(2019年3月終了)
  • 草なぎ剛(ナレーション):NHK総合『ブラタモリ』(継続)

 こうした不自然な状況は、2018年3月の段階で確認できていた。

 もうひとつは、2018年2月に公正取引委員会が芸能人などフリーランスにも独占禁止法を適用すると発表した事実だ。これは、個人事業者なので労働基準法の適用外になっていた芸能人(フリーランス)を、独禁法で守ろうとするものである(公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会 報告書」2018年2月15日/PDF)。ここで注目すべきは、一般のフリーランスだけでなく、スポーツ選手と芸能人について強調されていたことだ。

 実際この独禁法の見直しによって、昨年度大きな変化があったのはスポーツ界だ。陸上、バドミントン(実業団連盟)、ラグビー(トップリーグ)、バレーボール(Vリーグ)などでは、引き抜き防止を目的に選手の移籍制限を明示しているところが多かった。公取委はその各団体に注意をし、移籍制限はほぼなくなった。

 今回のジャニーズに対する注意は、昨年度中にスポーツ界の問題が概ね片付いたことと無関係ではないだろう。報告書において問題がある業界として注目されていたのだから、次の対象が芸能界となるのは必然とも言える流れだ。

「違反につながるおそれがある行為」

 さて、今回のジャニーズ事務所への公取委の対処だが、各報道によると「注意」にとどまっている。それを踏まえてジャニーズ事務所も、以下のような声明を発表した。

弊社がテレビ局に圧力などをかけた事実はなく、公正取引委員会からも独占禁止法違反行為があったとして行政処分や警告を受けたものでもありません。とはいえ、このような当局からの調査を受けたことは重く受け止め、今後は誤解を受けないように留意したいと思います。

出典:ジャニーズ事務所「2019年7月17日報道に関するご報告」2019年7月17日

 この声明でジャニーズ事務所は、テレビ局に圧力などをかけた事実はないとしている。実際に違反行為が認められる証拠は確認できていないようだ。よって、「行政処分」(排除措置命令等)や「警告」を受けてはいない。しかし、「注意」されたのはまごうことなき事実だ。

 公正取引委員会の行政指導では、いくつかのグレードがある。もっとも重いのは「行政処分」だが、その次が「警告」、そして「注意」となる。「行政処分」がレッドカードだとすると、「警告」はイエローカード、「注意」はその前段階のものだと言える。実際、このことについて公取委は公式ホームページで明示している。

 さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが,違反につながるおそれがある行為がみられたときには,未然防止を図る観点から「注意」を行っています。

出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」2019年7月18日確認

 ジャニーズ事務所が、「行政処分や警告を受けたものでもありません」とするのはたしかにそのとおりだ。だが、それは「注意」を受けた事実を弱めようとする表現でしかない。公取委は、「違反につながるおそれがある行為」を確認したからこそ、ジャニーズ事務所に「注意」したのは間違いない。

春から動いていた公取委

 また、現在世の中でささやかれているのは、このタイミングについてだ。周知のとおり、ジャニーズ事務所の創業者であり社長であるジャニー喜多川氏が逝去したのは、先週7月9日のこと。そのニュースが連日伝えられてきたなかで、今回の報道がなされた。

 この状況に対してさまざまな観測がなされているが、しかし、実は公取委は今年の春の段階から調査を進めていたことはたしかだ。『週刊文春』でも、すでにそのことは伝えられている(「錦戸亮“脱退”で関ジャニ崩壊危機【全文公開】」『文春オンライン』2019年3月7日)。また、筆者も5月下旬の段階で公取委が芸能界の調査を進めている情報を得ていた。加えて、本日(7月18日)発売の『週刊文春』7月25日号でも、新聞記者の発言として「近く独占禁止法違反容疑で、ジャニーズ事務所に対し、正式な警告があると見られています」と書かれている。つまり、十分予期できていたことだ。

 今回の公取委のジャニーズ事務所への注意は、こうした一連の調査を踏まえた現段階でのひとつの結果である。

 ここからは推測だが、おそらくこのタイミングになったのはある種の必然がある。もちろんそれは、ジャニー喜多川氏の病状が関係していた。ジャニー氏が倒れたという情報が流れたのは6月18日のこと。予期せぬこの事態によって、公取委の注意や報道に少し遅延が生じたと考えられる。よって、ジャニー氏逝去についての報道が落ち着いたここ数日に報道されたこと自体は、さほど不自然ではない。

民放各局はどのような説明をするか

 最後に、今後についてふたつ触れておく。

 まず、今回の一件では、ジャニーズ事務所と公正取引委員会以外にも、もうひとりのプレイヤーがいる。それが民放テレビ局だ。

 NHKの一報後、夜のニュースではテレビ朝日以外も報道をしたことが確認できた(テレ朝『報ステ』は時間的に間に合わなかったと思われる)。そこで気になったのは、各局がまるでひとごとのように報じたことだ。たとえばフジテレビは以下のように報じている。

関係者によると、公取委は、SMAPの元メンバー、稲垣吾郎さんと草なぎ剛さん、香取慎吾さんが独立したあと、ジャニーズ事務所が3人を出演させないよう、テレビ局などに圧力をかけていた疑いがあるとみて調べていた。

出典:「元SMAP3人のテレビ出演めぐり注意 公取委がジャニーズ事務所に」

 今回、ジャニーズ事務所の「違反につながるおそれがある行為」によって、元SMAPの3人を地上波から締め出したのはフジテレビ・テレビ朝日・TBSの3社である。日本テレビはSMAPのレギュラー番組を持っていなかったが、嵐の冠番組を手がけるなど、ジャニーズ事務所とは懇意のテレビ局である。

 今後この民放各局が、どのような説明をし、そして再発防止のためにどのような策を採るかは大きな注目に値する。とくにフジテレビは、元SMAPの3人が新事務所に移籍した段階で、同社の芸能デスク・加治佐謙一氏が2018年4月以降に3人が地上波から閉め出されることを予見していた。

加治佐:(オファーする側は)ジャニーズ事務所のほうに気を遣ってるので、たぶん仕事は増えないと思います。来年になるとわかりませんけれども。

安藤優子:とりあえず、じゃあ来年の3月いっぱいぐらいまでは現状維持?

加治佐:というかたちになると思います。ただオファーに関しても、あるかどうかっていうのはちょっとわからないですね。ジャニーズ事務所の方に気を遣って、ないかもしれないですね。

出典:フジテレビ『直撃LIVE グッディ!』2017年9月11日

 なぜ加治佐氏はこのような話をできたのか、フジテレビは説明する必要があるだろう。

『直撃LIVE グッディ!』2017年9月11日より。このようなパネルを使いながら加治佐氏は解説をした。
『直撃LIVE グッディ!』2017年9月11日より。このようなパネルを使いながら加治佐氏は解説をした。

 このときひとつ説明を加えておくと、テレビ局と言っても当然のことながら大きな組織であって、一枚岩ではない。バラエティ番組を制作する部署と、報道を担当する部署は、立場も役割ももちろん異なる。よって、各社の制作と報道によって綱引きが生じる可能性が高い。ジャニーズ事務所に忖度をし続けた対応を採るか、はたまた断固たる対応を採るのか、そこを見定める必要があるだろう(NHKがこの件の報道で2年前の段階からリードしているのは、局内において報道のほうが圧倒的に力が強いからだ)。

 もうひとつ今後の展開として考えられるのは、この問題がジャニーズ事務所に限らず芸能界全体に波及することだ。現在、事務所を移籍したことによって(あるいは事務所とのトラブルによって)民放地上波から閉め出されている芸能人が実際に存在する。わかりやすいところで言えば、のん(能年玲奈)さんがそうだ。また、これまでにも大手事務所を辞めたあとに地上波等から閉め出された芸能人は幾人も確認できる。

 

 映画・音楽・テレビ・舞台(演劇)──日本のポップカルチャーは、芸能界の大きな影響を受けて進展してきた。よって、今回も単に芸能界だけの騒動ではとどまらず、各業界に強く波及するのは間違いない。加えて、社会の象徴性を帯びた芸能界の変化によって、フリーランスを取り巻く一般への波及も十分に想定される。