“芸能界の掟”を打ち破る中居正広と新しい地図──終焉に向かう「共演NG」の政治力学

2019年8月25日、東京2020パラリンピック1年前セレモニーでの新しい地図。(写真:つのだよしお/アフロ)

“芸能界の掟”を打ち破る

 2月21日、元SMAPの中居正広さんがジャニーズ事務所からの退所を発表した。記者会見は、中居さん自身の軽妙なMCによって終始なごやかな雰囲気で進み、加えてSMAPの解散などについても答えるなど、非常に興味深い内容となった。

 現在、中居さんの地上波テレビのレギュラー番組は5本。日本テレビとTBSが2本ずつ、テレビ朝日が1本だ。4月からは自身の会社・のんびりな会で仕事を続け、これらの番組も継続する予定だという。

 これまでの芸能界では、事務所を辞めたタレントは一定期間活動が制限される“掟”がしばしば見られた。だが、中居さんはひとまずは現在の仕事を続けることが可能なようだ。

 この背景には、この半年ほどに生じた芸能界の大きな変化がある。

新しい地図に突きつけられた「共演NG」

 元SMAPの稲垣吾郎・草なぎ剛・香取慎吾の3氏(新しい地図)は、2017年9月にジャニーズ事務所から退所した。しかし、それから半年以降に民放地上波テレビのレギュラー番組がつぎつぎと打ち切られていった。フジテレビ『おじゃMAP!!』(2018年3月終了)やテレビ朝日『「ぷっ」すま』(2018年3月終了)、TBS『ゴロウ・デラックス』(2019年3月終了)などがそうだ。こうした不自然な状況によって、芸能界の歪なルールの存在を多くのひとが知ることとなった。

 しかし昨年7月、公正取引委員会はジャニーズ事務所に対し、独占禁止法違反の疑いで「注意」をした。具体的には、新しい地図の3人を民放テレビ局の番組に出演させないなどの「違反につながるおそれがある行為がみられた」と見なした(参考:「ジャニーズに対する公取委の注意、その背景とこれまでの文脈とは」2019年7月18日)

 変化が訪れたのは、これ以降だ。徐々に3人の地上波テレビへの出演が増え始め、情報番組でも彼らを扱うことが目立つようになってきた。

 こうしたなかで注目すべきは、2017年11月の新しい地図の活動開始以降、いっさいなかった吉本興業所属のタレントとの共演が続々と見られるようになったことだ。

 加藤浩次さんと近藤春菜さんがレギュラーの『スッキリ』に昨年8月以降に複数回出演し、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日スペシャル』ではダウンタウンやココリコなどと共演した。2018年4月から始まったAbemaTVのレギュラー番組『7.2 新しい別の窓』(『ななにー』)にも、昨年9月以降に品川祐さんと福島善成さん、そして今田耕司さんが出演する変化が見られた。

 とくに『ななにー』の変化は大きい。この番組には当初から、浅井企画やサンミュージック、人力舎、マセキ芸能社などの芸人が多く出演してきた。しかし、業界最大手の吉本興業の所属タレントはいっさい姿を見せなかった。明らかに不自然だった。

 このことについて、元旦に3人との対談企画で出演した今田耕司さんはこう話している。

今田:俺が聞くのもなんやけど、カラクリなんかあったの? 吉本絡めない、みたいなことあったの?

香取:あったんじゃないですか。

今田:(笑)。そうなの。俺も「最初のやつ(第一回放送)も出るで」って言うてんけど、なんかふわっとなくなったんや。

出典:AbemaTV『7.2 新しい別の窓』2020年1月1日

 新しい地図の3人との共演をめぐって、なんらかの政治的な力学が働いていたことをうかがわせるエピソードだ。

「共演NG」の政治力学

 これまで芸能人が事務所からの独立や移籍した際、直後にもっとも大きなリスクとなってきたのは「共演NG」だ。テレビでも映画でも、共演者がいなければコンテンツは成立しない。そこで旧所属事務所が「あいつを出すなら、うちは出さない」と示し、その優位性で圧力をかけるというものだ。

 それは、去っていったタレントに対する制裁であるのと同時に、現所属タレントの独立・移籍の抑止力となり、さらに芸能界をはじめ放送・映画・音楽業界における従来の秩序を守るもの(引き抜き等の防止)であった。これが“芸能界の掟”だ。

 以上を踏まえると、吉本興業が新しい地図との共演をさせてこなかった事情も推察できる。どうやらそこには「共演NG」が発動しており、それが8月以降に解除されたのである。

 こうした変化の背景に、昨年7月の公正取引委員会によるジャニーズ事務所に対する「注意」があると考えるのは、非常に穏当だろう。だがその一方で、新しい地図が独立してからほぼ2年が経過したタイミングだったことも事実だ。従来、芸能プロダクションは独立・移籍の際に活動を一定期間制限することを契約に盛り込んでいることが多かった。この「一定期間」とは、半年・1年・2年のいずれかのスパンだ。よって、吉本興業の「共演NG」解除も2年が経過したことを大義にしたとも考えられる。

 また、『7.2 新しい別の窓』には、複数の大手プロダクションのタレントが出演しない不自然な状況がいまだに続いている(※)。それらは、テレビが浸透する60年代以降の日本の芸能界の中心となってきた老舗プロダクションばかりだ。つまり、まだ「共演NG」が続いている可能性はある。その一方で、サンミュージックやアミューズ、キューブ、オスカー、スターダストなど、当初から新しい地図との共演を認めていた大手プロダクションも多い。

 芸能プロダクションの足並みはけっして揃っておらず、よってすべてを仕切る“ビッグ・ボス”はおそらく存在しない。“芸能界の掟”は、公正取引委員会が注視する以前から瓦解しつつあったと見ることもできるだろう。

 中居正広さんが、4月以降どれほど自由に仕事をし続けられるかは、まだまだわからない。新しい地図の3人も、独立から半年経った後にレギュラー番組がつぎつぎと終わっていった。よって、10月以降に変化が生じるかどうか注視する必要がある。

 また、中居さんは日本の芸能界でもっとも人気のある番組MCだ。よって、共演者になんらかの変化が生じるかどうかも確認し続ける必要があるだろう。『7.2 新しい別の窓』にいまだにタレントを出演させない複数の大手プロダクションは、4月以降の中居さんにどのような対応をするかが注目される。

SMAP解散が変化させた芸能界

 2016年末のSMAPの解散、2017年9月の新しい地図3人の独立、そして2020年4月の中居さんの独立──この3年半、SMAPメンバーとジャニーズ事務所の動向は芸能界に大きな変化をもたらしている。

 その過程では、加藤浩次さんやカンニング竹山さんが業界に変化をうながすべく芸能人の立場から声をあげた。

 公正取引委員会は、ジャニーズ事務所だけでなく吉本興業の契約形態も問題視し、昨年8月には独占禁止法上で問題となるケースを具体的に示した(朝日新聞2019年8月27日付「芸能事務所の問題行為、公取委が例示 TV出演妨害など」)。

 それを受けて最大手の事業者団体・日本音楽事業者協会(音事協)は、昨年12月に移籍制限を見直すなど態度を変化させつつある(日本音楽事業者協会「専属芸術家統一契約書改訂のお知らせ」2019年12月3日[PDF])。

 今回の中居さんの独立は、こうした芸能界の変化の先にある。そして、その動向しだいではさらに業界を大きく変える契機となる可能性がある。

 加藤浩次さんも、中居さんの選択について「円満に退社して仕事を続ける道筋を作った」と評した(日本テレビ『スッキリ』2020年2月24日)。おそらく「闇営業」問題の際に、吉本興業と相対した自分自身と重なるところがあったのだろう(そんな加藤さんは、3月1日の『7.2 新しい別の窓』に出演する予定だ)。

 今後、閉鎖的な商慣習を続けてきた芸能界はどのように開いていき、新たな制度設計の合意に達するのか。そして、芸能プロダクションの強い影響下にあった日本のテレビや映画、音楽など日本のポップカルチャーもどのように進展の道を切り開くのか。今後もまだ注視し続ける必要がある。

※:『7.2 新しい別の窓』のアーカイヴから確認。音事協理事のプロダクションが目立つ。