ジャニーズ事務所を取り巻く3つの変化──時代から取り残されるか、時代とともに歩み続けるか

ジャニーズ事務所(写真:アフロ)

“芸能ニュース”が看過すること

 日本中を驚かせた嵐の活動休止の発表から2ヶ月が経とうとしている。現在はファンも一般の視聴者も、活動休止までの嵐の仕事を静かに見守っているように見える。

 この話題は、ニュース番組や新聞の一面でも大きく取り上げられた。だが、報道の多くは従来の“芸能ニュース”の枠を出るものではなかった。結果、SMAP解散のときのように議論が生じることもなかった。

 そうした“芸能ニュース”でしばしば看過されるのは、日本のポップカルチャーにおける芸能界の強い存在感だ。音楽、テレビ、映画、演劇等々──多くのひとが日常的に接するエンタテインメントと芸能界は密接な関係を持っている。むしろ、プレイヤー(歌手、俳優)を育成・マネジメントする芸能プロダクションがその中心にあると言ってもいいほどだ。なかでもジャニーズ事務所は、この20年ほどもっとも大きな存在感を見せてきた。よって、嵐の一件を単なる“芸能ニュース”として扱うばかりでは、日本の音楽やテレビ、ドラマ、映画などの将来も見えてこない。

 そんなジャニーズには、この嵐の一件以前から大きな変化が生じている。

 2016年末のSMAP解散に端を発し、翌17年の元SMAPメンバー3人(現・新しい地図)の退所、そして2018年は関ジャニ∞・渋谷すばる退所、TOKIO・山口達也の契約解除、Hey! Say! JUMP・岡本圭人留学、今井翼退所、ジャニーズJr.・Love-tuneの7人退所と、ジャニーズから離れる存在が相次いだ。今月に入っても『週刊文春』が関ジャニ∞の錦戸亮の脱退を報じ、今後の推移が注目されている。かぎりなく解散に近い嵐の活動休止も、この2年間に立て続けに起きたこれらの文脈と切り離して考えることは難しい。

 これらの動きは、単にひとつの芸能プロダクションのゴタゴタではなく、日本の音楽やドラマ、映画とも大きく関係する、ポップカルチャー全体における大きな地殻変動の予兆と捉えるほうが適切だ。

体制改革を進めるジャニーズ事務所

 それでは、これから先、いったいなにが起こるのか。このとき、そこで確実に指摘できる背景として、ジャニーズ事務所に関係する3つの状況の変化がある。

 ひとつが、ジャニーズ事務所自体の変化だ。より具体的に言えば、近い将来に確実に訪れる創業者姉弟の引退である。現在、社長のジャニー喜多川氏は87歳、副社長のメリー喜多川氏は92歳だ。メリー氏は娘の藤島ジュリー景子氏に実権を移譲し、滝沢秀明はジャニー氏の後継として芸能界を引退して裏方に回ることになった。一見、順調に代替わりは進みつつある。

 だが一代で大きくなったオーナー企業でありがちなように、良くも悪くも創業者の強大なカリスマ性によってジャニーズ事務所は勢力を拡大させてきた。その組織構造は、典型的なタテ社会の日本的集団だ。社会人類学者の中根千枝が50年以上前に分析したように、こうした組織ではトップの退場によって組織が大きく揺らぐ可能性が高い(『タテ社会の人間関係』1967年/講談社現代新書)。それは芸能プロダクションにかぎらず、日本の中小企業でしばしば見られる光景だ。

 実際、ジャニーズでもすでに組織の“揺らぎ”は見られている。言うまでもなく、元SMAPの新しい地図3人の退所と、そのマネージャーだった飯島三智氏による新事務所・CULLEN設立がそうだ。旧来的なタテ社会の日本的集団は、分裂しやすい特徴も持つ。

インターネットへの出遅れ

 次に挙げるのは、メディアの変化だ。これについても、やはり新しい地図の活動からその要点が見えてくる。

 これまでの芸能界で生じてきたことと同様に、3人の地上波テレビのレギュラー番組は相次いで終了し、現在は地方局にひとつしか残っていない。それを生じさせているのは、ジャニーズ事務所の芸能界における大きな“存在感”だと見られている。事務所を離れた芸能人がこうした境遇に陥ることは、のん(能年玲奈)の例を出すまでもなくこれまでにもしばしば生じたことだ。

 だが以前と異なるのは、彼らがけっして活動場所を失っていないことだ。AbemaTVやYouTube、SNSなどインターネットを活用することでメディア露出は維持されている。それはエンタテインメントの中心が地上波テレビであった時代が、すでに終わったことを意味している。

 一方、ジャニーズ事務所はインターネットに大きく出遅れた。ECサイトのCDや雑誌のジャケットでは、ジャニーズタレントだけがシルエットになって公開されることを長らく続け、現在でも民法配信サービス・TVerでは、ジャニーズタレントが出演するバラエティ番組やゴールデンタイム以外のドラマは配信されない。

 一昨年から、以前よりは積極的にネットへの進出を試み始めている。ただし、それは既存の人気グループではなく、ジャニーズWESTやジャニーズJr.などあくまでもキャリアの浅いメンバーが中心だ。嵐や関ジャニ∞など、既存の人気グループがYouTubeでMVを公開することはやはりない。おそらくこれは、レコード会社のことをジャニーズ事務所が気にかけているからだ。MVはCDに付属させて販売するものであり、YouTubeで無料公開すればレコード会社の売上が減ると捉えているのだろう。

 つまり、地上波テレビやCDなど従来のメディアによるビジネスモデルを保持し続けた結果、ジャニーズ事務所はインターネットへの対応に出遅れ、いまだに不十分なままだ。

公取委が注視する芸能界

 最後のひとつは、ジャニーズ事務所に向けられる社会のまなざしの変化だ。これも、SMAP解散騒動に端を発したものだ。「公開処刑」とも呼ばれた2016年の『SMAP×SMAP』における会見やその後の解散という結末は、SMAPファンを中心に批判的視線を強めることとなった。エンタメ界隈ではよく知られていたジャニーズ事務所の強権的な姿勢が、一気に一般にも知られることになった。加えて、レプロとの契約を解除したのん(能年玲奈)の問題も生じ、芸能界全体が社会問題視されていった。

 こうしたなか動いたのが、公正取引委員会だ。2017年夏から「人材と競争政策に関する検討会」を始めた公取委は、2018年2月に報告書をまとめた(公取委「『人材と競争政策に関する検討会』報告書(概要)」2018年2月15日/PDF)。これは、業務委託契約のフリーランス全般のために独占禁止法の解釈を見直すものだったが、そこでは芸能界とスポーツ界がことさらに注視され、なかでも移籍制限についての言及が目立っている。これを受けて、芸能界の業界団体である日本音楽事業者協会(音事協)は、従来の「統一契約書」をあくまでもガイドラインとするなど独自の意見を呈した(音事協「『人材と競争政策に関する検討会』報告書に対する意見」2018年3月16日/PDF)。

 それから1年が経過したが、芸能界に独禁法が適用された事例はいまのところ確認できない。だが、スポーツ界ではラグビーやバレーボール、バドミントン、最近では陸上において移籍制限を見直す動きがすでに生じた。芸能界でも、この1年間は独立ラッシュだった。小泉今日子、真木よう子、満島ひかり、ローラなどがそうだ。ケースは異なるがいずれも人気芸能人ばかりだ。独禁法の解釈見直しは、彼女たちがそうした決断をしやすい状況を整えることにつながっていると考えていいだろう。

 また、『週刊文春』3月14日号をはじめ複数のメディアが、公取委が芸能界の調査を進めているとの報道をしている。真偽のほどは不明だが、スポーツ界で生じた動きを見ると芸能界への波及は十分に考えられうる。

 ジャニーズタレントの相次ぐ離脱も、こうした公取委の動きとけっして無関係ではないだろう。なかでも、ジャニーズ事務所からデビューせず退所した7人組・Love-tuneが今後どのような動きを見せるかが注目される。

岐路に立たされているジャニーズ

 ジャニーズ事務所の体制変化、インターネットメディアの浸透、公正取引委員会など社会からの問題視──嵐の活動休止を敷衍すると、ジャニーズ事務所からタレントの離脱が相次ぐ背景にこうした日本社会の状況の変化が見えてくる。

 嵐はひとまず「活動休止」というかたちで収まった。ただし会見の内容からすると、おそらくそれは暫定的な措置でしかない。大野智が数年で嵐やジャニーズに戻ってくるかどうかは、おそらく本人も他のメンバーも、事務所もわからないだろう。数年後、ジャニーズ事務所がどのような状況になっているかが読めないからだ。

 だが、ひとつだけ確実に見えることがある。

 ジャニーズ事務所が変化しつつあるこの状況に抗えば、将来的にこれまで以上の複雑な問題が生じるはずだ。代替わりは不可避であり、インターネットがなくなる未来はやってこない。そして、旧来的な芸能界の商慣習を当局が無視することもない。

 そんななか時代から取り残されるか、それとも時代とともに歩み続けるか──現在のジャニーズ事務所は大きな岐路に立たされている。そしてその動向によって、日本のポップカルチャーにも大きな変化が生じるはずだ。