グローバル時代のジャニーズ事務所──組織体制の変化、公取委の監視、メディアの多様化とコンテンツ競争

HMVエソラ池袋店に展示されている嵐のパネル(2020年12月25日/筆者撮影)

 3月12日、V6が11月1日に解散し、メンバーの森田剛もジャニーズ事務所を退所することが発表された。

 周知のとおり、ここ最近ジャニーズ事務所のグループやメンバーにさまざまな動きが見られる。その多くは2016年以降の5年間に集中している。退所者が相次ぎ、グループの解散・活動休止もこれで4つ目となる。

 この5年ほどのジャニーズに生じた出来事を一覧にすると以下のようになる。

図表1(筆者作成)
図表1(筆者作成)

 SMAPの解散と、それにともなうメンバー3人(現・新しい地図)の退所以降、さまざまなことが起きた。いま思えば、SMAP解散はすべてのプロローグだったようにも見えるほどだ。

 この5年間ジャニーズ事務所になにが起きたのか、そしていまなにが起きているのか。あらためて検証していこう。

創業者の退場と組織体制の改革

 ジャニーズ事務所におけるこの5年のポイントは、3つに集約される。

 ひとつが、2019年7月のジャニー喜多川社長の死去だ。1962年に同社を創業したジャニー社長は、亡くなるまでプロデューサーとして一線で活動し、経営面は姉のメリー喜多川副社長に委ねていたと言われる。

 そのジャニー氏が87歳で亡くなり、その2ヶ月後には当時92歳のメリー氏が副社長から会長に退いた。同時に、メリー氏の娘である藤島ジュリー氏が社長に、ジャニーズJr.のプロデュースに取り組んできた滝沢秀明氏が副社長に就任した。

 一代で大きくなった企業では、創業者の退場が組織自体に大きな変化をもたらす。ジャニーズもその例に漏れることはない。旧来型のタテ社会構造が強いジャニーズ事務所においては、ジャニー氏が退場した影響はことさら大きかったと見られる。実際、嵐の松本潤も海外メディアのインタビューで運営体制が大きく変わったと述べている(※1)。

 ジャニー氏死去後に退所者が増えているのも無関係ではないだろう。他の要因もあるが、こうした旧来型のタテ社会は感情的なつながりで構成される。実際、ジャニー氏は所属タレントの多くにとても慕われていた。よって、そのつながりが切れてしまえば、その組織に残る必要もなくなる。

 このように、タテ社会の組織がトップの退場とともに分裂・崩壊しやすいことは、社会人類学者の中根千枝が50年以上前に『タテ社会の人間関係』(1967年)で分析したとおりだ。いま起きている事態は、社会科学的には十分に予期できたことである。

図表2(筆者作成)
図表2(筆者作成)

松本潤とTakaの共演

 次に挙げられるのが、ジャニー氏死去の8日後に報じられた公正取引委員会からの「注意」だ。ジャニーズ事務所が民放テレビ局などに対し、新しい地図の3人(元SMAP)を「出演させないよう圧力をかけていた疑いがある」とされた。旧所属プロダクションから移籍・独立したタレントが干されることは、日本の芸能界ではなかば常態化していた。

 80年代以降、テレビ、音楽、映画と、日本のエンタテインメント界では、芸能プロダクションの力が年々強くなっていった。当局の監視が弱く、ジャーナリズムも機能しにくかった状況において、メディアコントロールに注力した。なかでも特定タレントとの「共演NG」が、大きな政治力学として機能した。当局が、やっとこうした状況にメスを入れたのである。

 この一件は、一罰百戒のごとく強い影響を見せた。新しい地図の番組『7.2 新しい別の窓』(ABEMA)では、この公取委による「注意」以降に吉本興業やワタナベエンターテインメントなど大手プロダクションのタレントも出演するようになった。

 さまざまな芸能プロダクションからの移籍・独立が目立ち始めるのも、この公取委の「注意」以降だ。ジャニーズからは錦戸亮、中居正広、手越祐也、山下智久、錦織一清、植草克秀が続々と退所し、それに長瀬智也と森田剛が続く予定だ。

 また、ジャニーズの存在によって影が薄かった男性アイドルグループも目立つようになってきた。なかでも韓国の音楽チャンネル・M-netが吉本興業と組んでオーディション番組『Produce 101 Japan』から生み出したJO1は、順調に人気を拡大している。4月からは同番組のシーズン2も始まり、また新たに男性グループが誕生する予定だ。吉本興業がジャニーズのコンペティターを送り出してきたことは、非常に大きな意味を持つ。

 ジャニーズ事務所側にも変化が見られる。Netflixで1年間に渡って配信されてきた嵐のドキュメンタリー『ARASHI’s Diary -Voyage-』(全24話)には、昨年末公開の21話にONE OK ROCKのTakaが登場する。NEWSのメンバーとしてデビューしたもののすぐに脱退したTaka(森内貴寛)は、これまでジャニーズとの共演はなく、地上波テレビでも扱われることが極端に少なかった。それがいきなり嵐のコンテンツに現れた。まるでジャニーズ事務所が「共演NGではない」とアピールしているかのように見える。

 また、今年1月に発表されたジャニーズJr.の年齢制限の背景にも、公取委への意識が向けられている可能性がある。これは2023年から原則としてJr.の活動を満22歳までとするものだ。ジャニーズ事務所はその理由を「多様な未来を確保・尊重するため」としているが(注2)、同時に放出してもタレントの活動に制限をしない姿勢を強調したものでもある(加えて、事業のスリム化を目的としたリストラ策でもあるだろう)。

ネットメディアへの適応

 最後に挙げられるのは、メディアの多様化とそれにともなうコンテンツのグローバル化だ。

 10年代は、スマートフォンとともにYouTubeやNetflixなどの動画配信、AppleMusicやSpotifyなどの音楽配信が広く浸透していった時代だった。われわれがエンターテインメントに接するメディアは多様化し、コンテンツもグローバルに流通するようになった。

 だがジャニーズ事務所は、80年代以降に国内のレガシーメディア(テレビやCD、雑誌)においての覇権を強め、海外活動もほとんどすることがないまま10年代に突入した。一方でネットメディアに対応することは少なく、肖像権を理由にウェブ上では雑誌のタレント写真がシルエットになる奇妙な状況も続けてきた。

 それに変化が見られ始めたのが2018年3月以降だ。YouTubeにジャニーズJr.チャンネルが開設され、同時期から雑誌の書影からシルエットも消えた。同年10月にはSixTONESがYouTubeのキャンペーンに参加し、ミュージックビデオも公開。翌2019年10月には嵐がYouTubeにチャンネルを開設し、音楽配信も一部スタートした。

 その後、ジャニーズがMVをYouTubeで公開することは珍しくなくなり(その多くは「YouTube ver.」ではあるが)、最近ではKAT-TUNの新曲がダウンロードとストリーミングで配信された。また、民放の配信サービス・TVerでもジャニーズタレントの出演番組が観られるようになった。

 一斉ではなく段階的にネット解禁するあたりに慎重さはうかがえるが、CDや地上波テレビなどレガシーメディアへの過剰適応から脱却しようとしているのはたしかだ。インターネットがなくならない以上、いつかは通らなければならない道を日本で最大のプレイヤーが歩み始めている。

伸び悩むMV再生回数

 だが、インターネットメディアへの進出はひとつのリスクをはらんでいる。それは、グローバルな競争を避けられないことだ。

 音楽・動画配信サービスがもたらしたのは、通信を介して国内・海外のコンテンツをリアルタイムかつ安価に楽しめることだ。そこでは映像・音楽ともに海外コンテンツと比較されることは避けられない。

 この5年ほど、われわれは何気なくコンテンツ受容の急激な変化に適応している。Netflixでドラマ『愛の不時着』を観て、Disney+で『アナと雪の女王2』を楽しみ、YouTubeでBTSの'Dynamite'を繰り返し再生し、SpotifyでBLACKPINKの曲を聴く──そうした環境は5年前には考えられなかった状況だ。ネットメディアへの進出とは、こうした海外コンテンツとの激しい競争を余儀なくされる。

 だがジャニーズ事務所は、レガシーメディアへの覇権を強めることで独占的な市場を構築していた。地上波テレビの露出を増やし、熱狂的なファンを囲い込み、単価の高いCDの販売を続け、そのガラパゴス環境を謳歌してきた。

 しかし、ネットメディアがその状況にどんどん風穴を開けつつある。そこでジャニーズ事務所がグローバルな競争を勝ち抜けるコンテンツを生み出せるかどうかは未知数だ。なぜならYouTubeや音楽配信サービスでは、再生回数が多くないとヒットとはならないからだ。グローバルに拡がったマーケットでは、ファナティックなファンがCDを100万枚買うことよりも、全世界の音楽ファンがネットで1億回再生することのほうが意味を持つ。一部のファンの「濃さ」よりも、ライトなファンの「広さ」のほうに“ヒット”の価値があるということだ。

 たとえば2月に公開されたKis-My-Ft2の新曲「Luv Bias」のMVは、現在までYouTubeで約732万回再生にとどまる(3月16日現在・以下同)。だが、現在ヒットしている優里の「ドライフラワー」は約6781万回再生、Adoの「うっせぇわ」は約9700万回再生だ。K-POPでは2000~3000万回再生を超えたあたりでやっと“ヒット”として認識され、BTSやBLACKPINK、TWICEなどでは億を超えるのは当然の状況だ。それらに比べると、「Luv Bias」は明らかに“ヒット”とは言えない。

 以下はジャニーズグループのMVのYouTubeにおける再生回数だ。

図表3:筆者作成
図表3:筆者作成

 デビュー前からネット対応していたSnow ManとSixTONES、そして活動休止した嵐を除くと、目立った結果を残せているとは言い難い。グループによって差が出ている要因は、ファン層のネットとの親和性なども考えられるが、端的に言って音楽(MV)の質にある。そのコンテンツが魅力的だと思えば、全世界のひとびとが楽しむ。

 ジャニーズ事務所は、この状況にもちろん気づいているはずだ。そこで果敢にグローバル展開が可能なコンテンツを送り出そうとしている。

 たとえば昨年9月に発表されたSnow Manの2ndシングル「KISSIN’ MY LIPS」では、K-POPのアーティストに作曲・編曲を発注し、洗練されたダンス・ミュージックを展開した。また、先月発表されたSexy Zoneの全編英語曲「RIGHT NEXT TO YOU」は、現在グローバルに流行しているディスコサウンドを取り入れており、その完成度は目を見張るものがある。

この先にある激しい競争

 創業者の退場と組織体制の変化、公取委の監視、そしてメディアとコンテンツのグローバル化──2年前に筆者が予期した事態は、その後順調に進行した(「ジャニーズ事務所を取り巻く3つの変化」2019年3月22日)。ジャニーズは時代から取り残されることではなく、時代とともに歩むことを選んだ。立ち止まっていては衰亡するだけなので、それは間違いなく正しい選択だ。

 しかし、この先に待っているのは厳しい競争だ。ネットメディアは地上波のようにコントロールはできず、JO1や元ジャニーズの7ORDER、そしてK-POPとの比較は免れない。ジャニーズだけでなく、コンテンツ業界は大きな変化の時期にある。

 こうした現在のジャニーズ事務所の動向は、非常に興味深いものがある。ドメスティックな環境に過剰適応していた企業が、SMAPという代償をきっかけに、その5年後には必死に新しいメディアに適応しようとし、海外展開も模索している。急展開と言ってもいいほどの変化だ。

 そうしたジャニーズ事務所の活動の成否は、日本のコンテンツ業界全体にもなにかしら影響を与えることが予想される。