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フランスは空を、ドイツは陸を牽引:パルリ仏国防相インタビュー紹介:欧と米は分離してゆくのか 後編2

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
パルリ仏国防相。7月にブリュッセルのNATO首脳会議にて。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「欧と米は分離してゆくのか」シリーズは、やっとこの記事で最後である。

今回は、フランスの国防大臣フローランス・パルリ氏のインタビュー紹介を中心にEU軍事の現況を伝える。

このインタビューは、今年2018年6月にフランスの新聞『ル・フィガロ』に掲載された。英語とフランス語を見ている範囲で言うなら、欧州のあちこちのメディアに引用されており、大変貴重なものだと感じた。

日本の読者にとって重要と思われる質問と回答を抜粋して掲載する。記事のタイトルは「欧州の防衛は、共通の戦略的文化を必要としている」だった(culture:文化・行動思考様式)。

このインタビューの意味を詳しく理解するためには、以前の記事を参照して頂きたい(特に中編。前編と後編1は、むしろアメリカ・NATOとの関係について)。

前編:「欧」と「米」は分離してゆくのか :欧州独自の軍事路線「欧州介入イニシアチブ」にトランプの反応は

中編:「欧」と「米」は分離してゆくのか :欧州の問題。将来EU軍で自立したいのかとPESCOを巡る議論

後編1:「ヨーロッパ人は米軍に守られるのに慣れてしまった」在欧米軍の戦略:欧と米は分離してゆくのか 後編1

パルリ仏国防相インタビュー

Q 防衛するヨーロッパは、長い間の問題でした。今日では再び始動していますか。

確かに2年前でも、我々は何もないただ中にいたような感じでした。以来、大きな加速が起きました。なぜなら、特に脅威の認識がヨーロッパ諸国にとって非常に具体化したためで、ほとんどの国がテロリストの脅威から守られていなかったからです。

みんなが、キャパシティ(能力)、オペレーション(作戦・運用)、戦略的対応の必要性を表明しました。キャパシティの分野においては、欧州の防衛は、PESCO(常設防衛協力枠組み:Permanent structured cooperation on defence)とともに、大きく前進しています。これは昨年12月にEUの25加盟国と欧州防衛基金によって開始され、130億ユーロの予算がついています。

オペレーションの分野では、たとえエストニアや英国が支援しているサヘル(サハラ砂漠南縁部)でのオペレーション「Barkhane」や、マリのフランス・ドイツ旅団の展開のように非常に具体的な協力があると言っても、まだ萌芽期の段階です。

そして、我々が必要とする共通の戦略的文化(行動思考様式)があります。もし2013年マリの「セルヴァル」のような作戦を再度行うならば、それを複数で導きたいと望むでしょう(訳注:セルヴァル作戦は、フランス主体+他の協力国という形だったので、「複数の国で共同で」という意味だと思われる)。

でも、EUの枠組みにおける期限や決定は、緊急性に対してあまりにも長くかかるのです。緊急性は、ヨーロッパ人が安全保障がかかっていると考える国において、危機的な状況から生じる可能性があるのです。

Q これらの困難を克服するにはどうすればいいですか。

職員間で共通の戦略的文化(行動思考様式)を創れば、軍事能力と行動する政治的意志を持つ国々が協調して、対話、計画、訓練の慣習を発達させることが可能になるでしょう。

ヨーロッパの国々が一緒に参加できることを望む、とても幅広いオペレーションのバラエティがあります。

昨年の秋、西インド諸島にハリケーンIrmaが到来して、我々が英国人とオランダ人と共に、苦難を受けた人々を救助に来た際、それを見たのです。これは、D-Day(大規模作戦開始日)に行動したいと望む国がそうできるよう、上流部門で仕事の慣習を創り出したことを意味します。

Q このイニシアチブに参加する予定なのは、どの国ですか。

昨年9月、ソルボンヌ大学で演説したフランス共和国マクロン大統領は、市民とヨーロッパを和解させて、そのことを具体的にするためのビジョンを描きました。安全保障の問題は、このヨーロッパのビジョンの中心にあります。

参照記事:マクロン大統領がヨーロッパのためのイニシアティブを発表(在日フランス大使館サイト)

「欧州介入イニシアチブ」は、加盟国が参加するか否かを選択できるようにしなければなりません。

9月以来、我々はこのコンセプトを説明するために同じ立場の人々に会い、今週の月曜日(6月25日)にルクセンブルクで、ドイツ、ベルギー、デンマーク、オランダ、エストニア、フランス、ポルトガル、スペイン、英国が基本合意書に署名をするよう努力を傾けました。

イタリアはこのイニシアチブに参加する可能性を検討していますが、最終決定はしていません。

このステップのおかげで、様々に異なった軍隊の職員が関わる共同作業を、非常に迅速に開始することができるようになるでしょう。

パリで9月中旬に、第1回会合が開かれ、演習の予測、計画、組織化に関する作業計画がつくられます。これらの職員は、非常に具体的なシナリオの広い範囲で作業することになるでしょう。

例えば、必要に応じてより良く行動するために、どの在外国民とか、どの国の在外国民を脱出させる準備をするか、などの具体案です。

Q 「欧州介入イニシアチブ」は、欧州の(EUの)制度的枠組みの一部ではありません。欧州防衛の他の仕組みと、どのように連結していくのでしょうか。

「欧州介入イニシアチブ」は、EUの加盟国と共同で行っているPESCO(常設防衛協力枠組み)と強力なつながりがなくてはなりません。PESCOはEUの25加盟国が、将来もちうる能力という性質の限局的なプロジェクトを中心にして、様々な形式で参加しているものです。

PESCOでは17のプロジェクトが立ち上げられています。その中には「Essor」という、軍事通信とデジタルデータ伝送を完全に相互運用可能にすることを目標としていて、フランスが参加しているプロジェクトもあります(訳注:Essorにはフランス、イタリア、スペイン、スウェーデン、フィンランド、ポーランドの6カ国が参加)。

また、軍事モビリティ(移動性)という、象徴的なプロジェクトもあります。これは、国から国への迅速な移動を可能にするために、インフラ、特に道路を開発することを目的としています。この大計画には24加盟国が参加して、65億ユーロを投じており、EUとNATOの橋渡しとなるでしょう。

もうすぐに予定されている2番目のプロジェクトの波は、特に(1984年よりフランスと西ドイツが開発を始めた)攻撃ヘリコプター「ティーガー」の近代化と、4カ国(ドイツ、スペイン、フランス、イタリア)が運営する欧州のドローン・プロジェクトが主題になるでしょう。

Q ドイツは難色を示していました。どのように「欧州介入イニシアチブ」に参加することを納得しましたか。

この「イニシアチブ」は、幅広いオペレーションの領域を予定しています。候補者ではない国々にとって、とても高度に集中的なオペレーションしかないのではないのです。そのために、候補者ではない国々が「欧州介入イニシアチブ」に参加することになったのです。

さらに、ドイツは「欧州介入イニシアチブ」がPESCOから離れていることを望みませんでした。そのために、ドイツが参加することを決めた2つのメカニズムの間に、我々は強力なつながりを維持するでしょう。

Q 英国がEUを離脱するにもかかわらず、欧州(EU)防衛のために英国を引き止めておくという目的もありませんでしたか。

これは明らかに、EU加盟国ではない国を提携させるイニシアチブです。英国は大変な意欲を示していました。なぜなら、二国間の関係を超えて、欧州(EU)との協力を維持していくことを切望しているからです。さらに、他の国々もイニシアチブに関心を表明しています。

Q 先週のフランスとドイツの首脳会談で、具体的な進捗は何ですか。

我々は、2017年7月13日にフランスとドイツの首脳会議で定めたロードマップを引き継ぎました。この1年間に実現した多くの進捗を再検討しました。

能力分野では、SCAFプロジェクト=「未来の戦闘航空システム・プロジェクト」を開始しました(訳注:英語ではFCAS:Future Combat Air Systemとも言う)。これは、戦闘機の周辺に、操縦されるプラットフォームとドローンを統合して、空中警戒管制システムを創るシステムです。リアルタイムで、両者の間でデータを通信して転送しながら結合することができる、力の統合体です。

(訳注:空中警戒管制システムとは、AWACSと呼ばれ、大型レーダーを搭載した航空管制や指揮を行う機、またはシステムのこと。ここでは述べていないが、SCAFプロジェクトには、フランス空軍のミラージュ2000やラファール、独・英・伊・西空軍のユーロファイター・タイフーンなどを完成させて交替させる計画も含まれている)。

このプロジェクトは、この操縦を保証するために、フランスをリーダーとして開始されました。先週我々が開始した別のプログラム「未来の戦車戦闘システム」に同じルールが適用されました。こちらはドイツが操縦するでしょう。

軍事企業はいま、我々が最高の技術と最高の設備を、最良のコストで確保することを確かなものにするために編成されなくてはならないし、我々に提案しなくてはなりません。最初の調査は、2019年中頃の予定です。 同じ精神で、我々は未来の砲兵システムに取り組んでいくでしょう。

フランスとドイツの協力のもとに牽引されるこれらのプロジェクトはすべて、他の国々にも開放されている資格のものです。スペインは既に、Scafプロジェクトのオブザーバーの地位を持っています。我々は他の国々を歓迎する準備をしていますが、先立って、これらのプロジェクトが良いレールの上にあることが確かであることを望んでいます。

Q あなたは軍人の生活を改善するための新たな措置を発表しようとしていますが・・・。

確かに、我々は、国防省の男性と女性の生活を十分に考慮するように努力しています。 昨年10月、我々はある家族用計画に着手しました。これは、我々が「人間の高さ」を求めた軍事計画法において再検討され、強められたものです(訳注:「人間の高さ」とは、不便を強いられることの多い軍関係者に、一般人と同じような人間らしい生活のレベルを、というような意味)。

(中略)。3番目の措置は、最近離婚した兵士に関するものです。 受け入れ手当を設けることで、週末に子供により簡単に会うことができるようになるでしょう。例えば1泊分のホテル料金を手当で出すことにします。

Q あなたはちょうど1年前に国防大臣に就任しました。どのように仕事を評価していますか。

それは張り詰めた、非常に活発な一年でした。張り詰めていたのは、大規模な宇宙に投資したからです。フランス本土と本土外のオペレーションと同時に、私が結ぶことができた外交的なコンタクトを通して完全に国際的に、力(軍隊とも訳せる)における集中を行ったからです。

張り詰めていたのは、戦略的レビューと、すぐに公布される軍事綱領作成法を、成功裏に導くよう我々が行動したためでもあります。

(中略)

また、国防省の統括者に対しては、人々は強い責任能力(義務とも訳せる)の感覚を抱くので、張り詰めていました。私たちの兵士は、時には困難な状況のオペレーションに投入されます。私は魂を担当していると感じています。

(インタビュー翻訳終わり)

PESCOとイニシアチブとNATOの関係は?

このインタビューで、いくつか明らかになった点があった。

フィガロ紙のインタビュアーは、はっきりと「欧州介入イニシアチブは、欧州の(EUの)制度的枠組みの一部ではありません」と明言して質問している。これに対して大臣は否定しなかった。つまり、「イニシアチブ」はやはりPESCOと異なり、EUの制度的枠組みではないのだ。たとえPESCOと強力につながっているとしても。

前の記事に書いたように、フランスはイニシアチブをPESCOと切り離して独立した存在にすることを希望、ドイツはPESCOとつなげることを希望、結局フランスが妥協した。

・・・ということは? どう見てもイニシアチブはEUからは独立していると思えたのだが(英国も入っていることだし)、「PESCOとつながる」と理屈だけはわかったものの、具体的にどういうことなのか、わからなかった。そのために、「イニシアチブは、EUの枠組みのものではない」と断言するのには、今まで躊躇があったのだ。

ただ、このインタビューで、イニシアチブがEUから独立していることは確認できたことにするとして、いくつかの例もわかったとはいえ、どういうことなのかは相変わらずよくわからない。結局、すっきりしないままだ。

欧州の軍事プロジェクトは今までもつながりが複雑怪奇だったので、今後一つひとつのプロジェクトがどのように位置付けられ、どのように推移するかを具体的に見ていって、理解するしかないのかもしれない。

今後は「EU防衛同盟」の創設に向けて、多少はすっきりと統合されていくのか、それともますます複雑になっていくのか。

それから、あの軍事モビリティ計画。「軍事のシェンゲン」と批判されたあの計画が「EUとNATOを橋渡しするもの」という大臣の考えが目を引いた。

参考記事:5000億ユーロの「コアネットワーク回廊計画」が軍事にー(2)EUが軍事・防衛の行動計画で大幅に進展

ここ1年くらいEU軍事の進捗に関して、ヨーロッパ人関係者は二言目には「NATOを補完するものです」と言っている。それなのに、PESCO(やイニシアチブ)がどのようにNATOを補完するのかもよくわからない。前述したように、わからないのは、PESCOとイニシアチブがどのように具体的につながっていくかだけではないのだ。

そんななか、大臣がこの軍事モビリティ計画をこそ「EUとNATOの橋渡しとなるでしょう」と例に出したのは、ちょっと驚いた。

この大臣の発言は、実は大問題なのではないだろうか。二言目には「NATOを補完するもの」と言う情勢にあって、「いや、これはNATOというより欧州(EU)のプロジェクトですから」と躍起になってEU運輸大臣(委員)が主張したものこそ、この「軍事モビリティ計画」だったのだから(詳しくは上記リンクをご覧ください)。

「ダッソーメディア」が所有者のル・フィガロ紙だからこそ、このような形での国防大臣とのインタビューが実現した。でも、左派メディアじゃないからこそ、批判精神に基づいた突っ込みが甘いのかもしれない。

フランスが空担当、ドイツが陸担当?

大臣の発言のなかで一番興味深かったのは、フランスが空を、ドイツが陸(戦車)を牽引していくという点だった。

ドイツは陸を率いるものとして、これまでも着々と準備はしていた。

2017年に、ルーマニアとチェコが、それぞれ1個旅団分の兵力をドイツ軍に統合させるとした。オランダ軍は、すでに1個旅団がドイツ連邦軍の即応師団に、もう1個旅団が第1機甲師団に統合されているという。

参照記事:(Newsweek)ドイツが独自の「EU軍」を作り始めた チェコやルーマニアなどの小国と

上記記事によると、「ドイツと統合部隊を結成した諸小国は、その効果や恩恵をしきりに宣伝している。ルーマニアやチェコは、自国の軍隊をドイツ軍と同水準まで底上げすることができる。オランダは、潰れかけていた戦車部隊の立て直しにつながった」ということだ。

「フランスが空」が意味するもの

フランスが空を担当というのも、実に興味深い。

フランス戦闘機は、世界をリードして制覇しているアメリカ製に対抗して、独立独歩の精神を見せてきた。技術的な意味というよりも、政治的な意味である。

例えば、独・英・伊・西4カ国開発のユーロファイター・タイフーンがアメリカのミサイルを搭載できるのに対し、フランスのラファールはフランス製ミサイルのみ搭載できる。

今までの欧州の状況は、筆者が以前書いた以下の記事を参照して頂きたい。2013年12月に執筆したもので古いが、欧州の状況や、フランスの性格は、今に至るまでこうだったという参考になると思う。

フランスの病い:ラファール症候群とは何か

ただしラファールはその後、2015年エジプト・インド・カタールから注文を受けた。マレーシアも興味を示しているという。

初めての販売が決まったときのフランスメディアの様子は、「やっと、やっと、苦節××年、やっと・・・」と、男泣きに泣いて喜ぶという感じであった(「男泣き」というのは、軍隊においても男女平等が進んでいる欧州にそぐわない表現でしょうけれど)。

筆者は、「本当にしょうもない」「やせ我慢」とあきれることもあるのだが、そういうフランスの根性はかっている。大したものだと思う。

空において、そのように根性一筋で頑張ってきたフランスが、欧州の空の牽引役を果たす。もし今後「欧州の戦闘機」として一元化していくのだとしたら、今までのようにアメリカに政治的にライバル心を燃やしたものになるのか、否か。

具体的には、例えばミサイルはアメリカ製搭載を許すのかは気になるところだ。米と欧は分離するのかをはかる上で、フランスの出方は注意深く見ていきたいと思う。

EUの未来を決める「5つのシナリオ」の行方

2017年3月、ユンケル(ユンカー)委員会は『欧州の将来に関する白書』を発表した。この中で、「5つのシナリオ」を示した。加盟国がEUの将来像を議論していくためのたたき台である。

詳細は、筆者の今年初めの記事「2018年、EU(欧州連合)27カ国はヨーロッパの近未来を決める年となる」を参照。

当初は、2017年最後の集まりで、5つのシナリオを参考にしながら、どの道を歩むか決めるはずだったが、ブレグジット交渉が長引いて、今年の6月という予定になった。

しかし、今年6月の欧州理事会では、そのようなことを話し合った気配がない。昨年末に立ち上げを祝ったPESCO以来、移民問題による極右の台頭とかEUの危機とか言っているのと反比例するように、軍事・防衛方面での協力が飛躍的に進んだ。ただし、すべてにおいて「加盟国は自由に参加するかしないかを決める」というやり方だった。

わざわざ欧州理事会で話し合って決めるまでもなく、EUの行く道は、ほぼ「3) Those Who Want More Do More(希望する加盟国はさらに進める)」になったと言ってもいいだろう。

筆者は「1) Carrying On(これまでどおり進める)」かなと思っていたのだけど、見通しを誤った。当初から 3) ではないかという声が強かったのだ。

ユンケル委員長は軍事に興味がない

今年も前半と夏休みを終え、いよいよ9月で後半に入る。前半を振り返ると、移民問題と極右の台頭も問題だが、前述したように軍事方面の進捗の激しさに目がいった。

筆者は軍事の専門家ではないが、「あまりにも重要な変化なのだから、私は未熟だからと自分一人で知識を抱え込んでいるよりは、情報発信したほうがいい」と思いながら書いてきたら、前半は軍事だらけの内容になってしまった。

来たる9月12日、ユンケル委員長による2018年の一般教書演説が行われる。筆者は、生中継が行われる在フランス欧州委員会代表部の集まり&討論会に招待されたので行く予定だが、必ず今年も「欧州防衛同盟」の話は出てくるにちがいない。

ところが、ソルボンヌ大学で教鞭をとる軍事専門家ジャン=イヴ・エンヌ氏によると「ユンケル委員長は、軍事に興味がない」ということだ。

筆者はこの発言を信用している。

以前パリに、欧州委員会のナンバー2、フランス・ティーマーマンス筆頭副委員長(オランダ人)が講演に来たことがある。その時に筆者は、「こういう感じのヨーロッパ人はたまに会うが、根が良きキリスト教徒の伝統を引き継いでいるようなタイプの方に見える」と思った。

こういうタイプの一群ーー良きキリスト教徒の伝統をもちながら、右派ではなく左派(これが超重要ポイント)、そして大変頭がいいーーは、欧州連合建設の一翼を担ってきたと思う。ジャック・ドロール氏もこのタイプに入るだろう。

こういう人を自らの右腕に選んでいるのなら、ユンケル委員長は確かに軍事に関心がないかもしれない・・・と感じるのだ。

ユンケル委員長は、今年の前半に加速したEU防衛同盟、あるいはEU軍創設への動きを、内心はどう思っているのだろうか。早くても、引退後の老後にならなければわかりそうにないし、永遠にわからないかもしれない。

もし予定どおりユンケル氏が次期委員長に立候補しないのなら、欧と米の明らかな分離を感じさせる出来事、あるいは逆に、アメリカがEUの動きを上手に利用して新たに取り込んだと感じさせる出来事ーーこれらは、彼の任期中にはまず起こらないだろう。

◎以前に書いた別のシリーズ

EUが軍事・防衛の行動計画で大幅に進展(1)ーー軍事モビリティ計画とPESCOのロードマップ

5000億ユーロの「コアネットワーク回廊計画」が軍事にー(2)EUが軍事・防衛の行動計画で大幅に進展

トランプ大統領とNATOー欧州連合の自立のせめぎ合い (3)EUが軍事・防衛の行動計画で大幅に進展

EU(欧州連合)「防衛同盟」への道:防衛パッケージ計画の背景(4)EUが軍事の行動計画で大幅に進展

◎PESCOの初出。2017年末。

参照記事:EU(欧州連合)&ヨーロッパ観察者が見る2017年のニュース・トップ3ー2018年への道(1位を参照)

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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