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日銀の様相が急速に変化

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀が国債買い入れの減額に向け検討を本格化させていることが、9日公表した4月25、26日の金融政策決定会合の主な意見で明らかになったと、10日に時事通信が伝えた。

 たしかに4月25、26日の金融政策決定会合の主な意見をみると、明らかに様相が変わっていたことがうかがえる。

 何と比べてといえば、26日の金融政策決定会合の結果とそのあとの植田総裁の会見内容に比べてである。

 4月の決定会合は円安が進むなかで開かれていた。このため、このタイミングで日銀が無回答ということもむしろ考えづらいと私は考えていた。

 しかし、その結果は無回答であった。

 3月会合の公表文の注釈で「足もとの長期国債の月間買入れ額は、6兆円程度となっている。」とあった。この6兆円程度の数値を外し「市場の動向や国債需給などを踏まえて実施」することを強調しても良いかと思っていた。

 より柔軟な姿勢をみせることで、市場に国債買入減額修正などへの警戒感を匂わせるだけでも、円安にブレーキを掛けることも可能とみていたためである。

 4月の会合は展望レポートの発表もあり、公表文のフォーマットそのものを変えていた。このため、注釈そのものはなかった。それでは「6兆円」の存在はどうなったのだろうか。

 会合後の植田総裁会見をみていたところ、「6兆円」はそのままといった発言があったのである。これを日銀サイトにアップされている会見内容で確認してみると下記のような発言が確認できた。

 「国債買入れについて今日の決定会合でどういう議論があったかというご質問だったと思いますが、これは今日の会合では6兆円で続けるということに関して特に反対は出なかったということでございます。」

 ところが上記の時事通信の記事のなかに下記のような表現があったのである。

 同会合では、声明文から「6兆円」という購入額の表記を削除し、実際の買い入れをある程度柔軟に行えるよう布石も打った(10日付時事通信)。

 これをみて驚いた。たしかにフォーマットの変更により、注釈は消えていた。しかし、総裁会見では「今日の会合では6兆円で続けるということに関して特に反対は出なかった」と発言していたのではなかったか。

 実はこれだけでなく、9日に公表された4月25、26日の金融政策決定会合の主な意見の内容が、4月26日の総裁会見とトーンがまったく異なっていた。

 円安への警戒、国債買入減額の可能性を強く示唆するかのような内容となっていたのである。

 4月26日の総裁会見は総裁個人の意見を示す場ではない。決定会合で委員達がどのような議論を展開していたのかを総じて示す場であったはず。

 ところが主な意見を見る限り、個別の委員たちの意見は、むしろ今後の修正の可能性を示唆するかのようなものとなっていたのである。

 現実にどのような意見であったのかは10年後に公表される議事録を確認するまではわからない。たぶん議事要旨でもはっきりは確認できないのではなかろうか。

 何があったのかは何となく想像は付くが、結果としてこのような状況に追い込まれる可能性を日銀は意識していなかったのであろうか。

 4月の会合と総裁会見をみて、市場は日銀の金融政策が再び膠着化したと認識。これにより、円売りを仕掛けやすくなり、26日の総裁会見後の急激な円安を招くこととなってしまった。

 これを避けるためには、金融政策そのものを柔軟に行う姿勢をむしろ強調すべきではなかったろうか。

 後の祭りとなってしまったが、26日に「6兆円」の看板は外しており、今後の国債買入減額の可能性を匂わせ、さらに年内利上げがある可能性も示唆するなどすれば、急激な円安を抑えられた可能性もある。少なくとも日銀が円安に対して火に油を注ぐ格好となったのは避けられたはずである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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