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インドとロシアの関係とは。ウクライナ戦争でどう変わったか。中国との関係は。

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
インドのジャイシャンカル外務大臣。訪日して2024年3月8日に岸田首相を訪問。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

インドの外務大臣、ジャイシャンカル氏が、3月29日にウクライナを訪問した。

そしてウクライナのクレバ外務大臣と会談した。

インドの外相は会談後、「キーウとの関係を強化する我々の意図を確認した」「我々の当面の目標は、貿易を以前の水準に戻すことだ」とSNSに投稿した。

そしてクレバ外相は両国の関係をより高いレベルに引き上げていくと宣言した。

この会談に先立つこと1週間ほど前、ゼレンスキー大統領はモディ首相と電話会談し、スイスが開催を申し出た平和サミットに参加するようインドに奨励したという。そして「ウクライナは、特に農産物の輸出、航空協力、医薬品や工業製品の貿易において、インドとの貿易・経済関係を強化することに関心がある」と、Xへの投稿で述べた。

インドは今まで、ロシア寄りの姿勢と見られてきた。ロシアへのウクライナ攻撃を非難しないし、資源をロシアから安い値段で買うなどの恩恵を受けている(そして石油精製製品は、西側に流れていると言われる)。

あまり知られていないインドとロシアの関係は、実際のところ、どうなっているのだろうか。ウクライナ戦争で、どのような変化が起きたのだろうか。

シンクタンクであるチャタム・ハウスの南アジア上級研究員であるチェタン・バージビー氏が、フランスの地理政治論壇「コンフリ」に答えた記事から抜粋して、要点を以下にまとめて紹介しよう。

インドがいかに、ロシア・中国・西側・他の南の国々との間で、バランスを重視しているかが伝わってくる。

中国とロシアの接近を警戒

インドは、ロシアとの関係を考えるにあたって、中国との関係を考えなくてはならない。

特に2020年、ヒマラヤのシッキム(カシミール)地方で中国との国境紛争が起こり、印中関係は悪化している。

そのためにインドは、ロシアが中国との関係を深めることを警戒している。ロシアが孤立すれば、中国への依存度が高まり、属国化していく可能性が増してしまう。インドと中国の敵対関係において、ロシアが中国に有利なように傾く可能性を心配しているのだ。

だからモスクワとの関係を維持することは、自らを守ることになる。

国境紛争で兵士に死者が出て、インドでは反中感情が生じた。写真はヒンズー教民族主義組織の活動家たち。2020年6月。
国境紛争で兵士に死者が出て、インドでは反中感情が生じた。写真はヒンズー教民族主義組織の活動家たち。2020年6月。写真:ロイター/アフロ

西側との関係を深める

ウクライナ戦争は、インドが西側との関係を深めている最中に起こった。

例えばインドが参加しているのは、

・クアッド(日米豪印戦略対話。設立は2007年)

・EU・インド貿易技術評議会(設立は2022年4月、第一回会合は2021年9月)

・鉱物資源安全保障パートナーシップ(レアアースなどの重要な鉱物資源を中国に依存しないサプライチェーンの構築を目指す。米国の主導。2022年6月共同宣言。インドの参加は23年6月。現在G7含めて14カ国+EUが参加)

などがある。

これらの要素は、ますますインドをロシアから遠ざける可能性が高い。

実際に、モディ首相は2022年9月(上海協力機構での首脳会議)以来、プーチン大統領と会っていないが、西側のさまざまな指導者とは複数回、会談を行っている。

2023年3月3日ニューデリーのタージ・パレス・ホテルで行われたQUAD会合。ブリンケン米国務長官、林外相、ウォン豪外相、インドのジャイシャンカル印外相。
2023年3月3日ニューデリーのタージ・パレス・ホテルで行われたQUAD会合。ブリンケン米国務長官、林外相、ウォン豪外相、インドのジャイシャンカル印外相。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ウクライナ戦争がもたらす変化

冷戦の時代インドとロシアは、ほとんどの期間、同じ側に立っていた。

インドは、ロシアに軍需品や原油輸入を依存してきたし、原子力や宇宙といった他の戦略的に重要な分野での協力なども行ってきた。

しかし、ウクライナ戦争のために、変化が現れている。

インドで配備されている軍事プラットフォームは、60%をロシア製が占めている。しかし、ニューデリーは、この依存度を削減しようとしてきた。防衛装備品の輸入先を多様化し、現地生産を重視する。この傾向はウクライナ戦争以前からあったが、戦争によって加速した。

理由は主に2つある。一つは、ロシア兵器のシステムについて、戦場での性能に対する懸念が生じたこと。もう一つは、供給者としてのロシアの信頼性である。ウクライナの紛争が長期化し、インドへの納入が遅延する懸念を引き起こしている。

輸入先を多様化しようとする取り組みの主な受益者は、フランスや米国などの(西側の)国々となっている。

そのような中、インドは割引価格でロシア産原油の購入をしている。ロシア産の割合は、戦前の総原油輸入量の2%からほぼ20%へと大幅に増加した。この点では依存度は増していることになる。

同時に、上海協力機構にも参加しているし、BRICSの一員でもあり、イデオロギー的に多極化した世界秩序を好む。そして、ニューデリーは、西洋的ではないが、明らかに反西洋的ではない世界観をもっているのだ。

2022年9月ウズベキスタンのサマルカンドで行われた上海協力機構加盟国の首脳会議。印・カザフ・キルギス・中・ウズベキスタン・露・タジキスタン・パキスタンの首脳。
2022年9月ウズベキスタンのサマルカンドで行われた上海協力機構加盟国の首脳会議。印・カザフ・キルギス・中・ウズベキスタン・露・タジキスタン・パキスタンの首脳。提供:Sultan Dosaliev/Kyrgyz Presidential Press Service/ロイター/アフロ

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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