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「子どもの権利元年」となった2023年。次の大きな課題は教育基本法や学校教育法の改正

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

子どもの権利が浸透してこなかった30年間

2023年4月、こども基本法が施行されるなど、2023年は「子どもの権利元年」とも呼べる年となった。

日本は子どもの権利条約を1994年に批准したが、国内法は整備せず、子どもの権利は浸透してこなかった。

結果的に国民はもちろん、教育の専門職である教員でさえ、子どもの権利についてよく知っている人は少なく、当然実践もされていない。

いまだに、子どもの権利を教えると、「わがままになる」といった誤解や無理解が広がっている(実際は自分の権利だけでなく、他者の権利を侵害してはならないことを学ぶため、他者の権利も尊重するようになる)。

学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート調査結果(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)
学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート調査結果(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)

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しかし、少子化にもかかわらず、子どもの自殺者数(2022年は514人)、不登校の生徒数(約30万人)は過去最多を更新し、児童虐待の相談対応件数も過去最多(約22万件)となっている。

この背景には、子どもの権利が尊重されず、画一的、閉鎖的な空間で、子どもの個性が発揮できない、息苦しさを覚える社会風土、学校文化がある。

その代表例が、過度に競争的な教育環境(受験競争や幼少期からの評定=順位付けなど)であり、子どもが権利の主体になっていない学校システムである。

子どもが権利の主体になっていない学校システムとは、各個人の興味関心よりも、社会や学校からの要請を主軸にした学習計画(自分で選択する余地が少ない時間割や、学校に選抜される受験勉強など)、子どもの意見が聞かれず、厳しいルールを強いられる管理教育などのことをいう。

関連記事:内申書や高校入試は必要か?子どもの最善の利益から考える(室橋祐貴)

またこれまでは、子どもが支援保護対象としてのみ見られ、過度に子ども扱いされてきたことから、若者も子ども扱いされており、権利の主体としての若者政策はほとんど整備されていない。

その一つが、意見反映を目的とした「子ども議会」「若者議会」の少なさであり、もう一つが、子ども・若者が主体的に活動する団体への支援の少なさである。

そもそも国レベルでは、「子ども議会」「若者議会」(公的な「若者協議会」を含む)が設置されていないが、地方自治体に設置されている「子ども議会」「若者議会」も、そのほとんどが体験型、学習型で、行政の施策や予算に意見を反映させる意見表明権の保障を目的とはしていない。

そのため、形式的に意見を述べるだけで、実際の政策に反映されることはほとんどない。

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また、子どもや若者を支援する団体に対しては多額の助成金が出されているが、子どもや若者が主体となって活動している若者団体への支援はほとんどない。

そのため、若者団体が成長せず(持続せず)、社会に大きなインパクトをもたらすことができていない。

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子どもの権利が重視され始めた2023年

・生徒指導提要改訂

ただ、2022年12月に改訂された生徒指導提要も含め、徐々に子どもの権利が重視されつつある。

改訂版の生徒指導提要では、「児童の権利に関する条約」の理解は、教職員、児童生徒、保護者、地域にとって必須だとした上で、いわゆる4つの一般原則(差別の禁止、児童の最善の利益、生命・生存・発達に対する権利、意見を表明する権利)を明確に記載した。

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・こども基本法

そして、2023年4月に施行されたこども基本法。

ここでは、子どもの権利が尊重されることはもちろん、こども(=子ども+若者)に直接影響のある政策を策定する際は、子どもや若者の意見を聞くことが政府、地方自治体に義務付けられた。

こども基本法 第十一条 国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。(こども施策に係る支援の総合的かつ一体的な提供のための体制の整備等)

・教育振興基本計画(23年度〜27年度)

次が、2023年6月に決定した、教育政策に関する政府の基本方針を示す教育振興基本計画。

ここでも、子どもの権利を尊重することが記載され、子どもの最善の利益を実現するために取り組むことが記載された。

目標2 豊かな心の育成
子供たちの豊かな情操や道徳心を培い、正義感、責任感、自他の生命の尊重、他者への思いやり、自己肯定感、人間関係を築く力、社会性などを、学校教育活動全体を通じて育み、子供の最善の利益の実現と主観的ウェルビーイングの向上を図るとともに人格形成の根幹及び民主的な国家・社会の持続的発展の基盤を育む。

【基本施策】
○子供の権利利益の擁護
・児童の権利に関する条約及びこども基本法を踏まえ、子供の権利等の理解促進や人権教育の推進、子供が安心して学べる環境の整備などに取り組むなど、子供の権利利益の擁護を図り、その最善の利益を実現できるよう取り組む。

また主権者教育に関連して、子どもの意見を尊重することが記載され、校則などのルールを見直す際に、子どもが関わることが重要だと記載された。

目標6 主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成
公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度、規範意識、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度などを養う。

【基本施策】
○子供の意見表明
・子供たちに関わるルール等の制定や見直しの過程に子供自身が関与することは身近な課題を自分たちで解決する経験となるなど、教育的な意義があることから、学校や教育委員会等の先導的な取組事例について周知するとともに、子供の主体性を育む取組を進める。

・こども大綱

最後が、2023年12月に決定したこども大綱。

こども施策の基本的な方針を定めたこども大綱は、こども基本法に基づき作られるため、子どもの権利を尊重することをもちろん記載しているが、校則見直しの際に子どもの意見を聞くことや不適切指導の防止など、子どもの権利の一般原則に沿った具体的な内容まで書かれている。

また、「若者が主体となって活動する団体等の活動を促進する環境整備」や「こども・若者が、・・・社会への影響力を発揮すること」など、権利の主体としての考え方に基づく施策が盛り込まれている。

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ただ、子どもの権利擁護のための「第三者機関」が盛り込まれなかったのは、今後の大きな課題である。

子どもの権利擁護のための「第三者機関」はなぜ地方自治体だけでは不十分なのか?(こども大綱)(室橋祐貴)

教育関連法規に子どもの権利を

このように、次々と、子どもの権利がこども基本法や政府の方針に入り始めた2023年。

次の大きな課題が、教育基本法や学校教育法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)といった教育関連法規に子どもの権利を記載していくことである。

というのも、政府はこれまで、子どもの権利条約批准後において、特別な法改正は必要ないというスタンスを取ってきており、それが日本での子どもの権利保障を妨げてきたからである。

さらに、政府や裁判所が人権よりも学校の包括的権能を優先させる立場を取ってきたために、ブラック校則のような人権侵害が許容されてきた。

子どもの権利条約が発効する1994年5月22日の直前、1994年5月20日に文部事務次官の名前で出された「児童の権利に関する条約」についての通知では、子どもの権利は、貧困や飢餓などに苦しむ、主に途上国の問題であることを強調した上で、日本国憲法と同様の立場であるため、「本条約の発効により、教育関係について特に法令等の改正の必要はない」と記した。

このたび、「児童の権利に関する条約」(以下「本条約」という。)が平成6年5月16日条約第2号をもって公布され、平成6年5月22日に効力を生ずることとなりました。本条約の概要及び全文等は別添のとおりです。
 本条約は、世界の多くの児童(本条約の適用上は、児童は18歳未満のすべての者と定義されている。)が、今日なお貧困、飢餓などの困難な状況に置かれていることにかんがみ、世界的な視野から児童の人権の尊重、保護の促進を目指したものであります。
 本条約は、基本的人権の尊重を基本理念に掲げる日本国憲法、教育基本法(昭和22年3月31日法律第25号)並びに我が国が締約国となっている「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和54年8月4日条約第6号)」及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年8月4日条約第7号)」等と軌を一にするものであります。したがって、本条約の発効により、教育関係について特に法令等の改正の必要はないところでありますが、もとより、児童の人権に十分配慮し、一人一人を大切にした教育が行われなければならないことは極めて重要なことであり、本条約の発効を契機として、更に一層、教育の充実が図られていくことが肝要であります。
文初高第149号 平成6年5月20日 文部事務次官 坂元 弘直
「児童の権利に関する条約」について(通知)
(太字は筆者)

しかし、子どもの権利は先進国でも重視されるべき考えであり、実際に欧州等では徹底されている。また子どもは特に支援保護対象であり、弱者であるため、権利侵害がされやすいために、子どもに特化した条約を作っているのであり、他の条約と同じであれば、わざわざ子どもの権利条約を作る必要がない。

同様に、子どもの権利条約の批准案を議論する場において、校長の校務掌握権(現行法では学校教育法37条4項)によって、学校はある種の特殊な部分社会であって、そこでは憲法や条約、法律で認められた人権や権利でさえ法律の規定に基づくことなく制限できるという考え方を取ってきた。

 「校則の法的根拠でございますが、…人格の完成をめざす教育を施す、そういう組織体としての学校で一定のルールを校長が定めて子供たちを規律するということは、これは累次の最高裁の判決、それから地方裁の判決でも認められているところでございます。…昔はいわゆる特別権力関係、一般権力関係などという言葉で学者が説明したりなんかしておりましたが、判例ではそういう言葉を使ってはおりませんけれども、そういう特別な関係にある学校と子供との間は、法律上の具体的な根拠がなくても、一定のルールを定めて、それを合理的な範囲内である限りは子供に強制することが可能である、そういう判決、判例に基づいて、私ども、校則は『校務をつかさどり、所属職員を監督する。』ということが規定されておる学校教育法28条の校長の職務として決め得るものだというふうに考えております。」(坂本弘直文部省初中局長)
引用元:1992年2月27日第123国会衆院文教委員会議録第2号20頁。(太字は筆者)

こうした人権・権利を軽視した考え方により、約30年にわたり、子どもの権利が尊重されてこなかった結果、多くの子どもが苦しむことになり、今回こども基本法が作られた。

ただこども基本法は理念法で、こども家庭庁に勧告権があるとはいえ、教育分野の所管は文部科学省にある。確実に学校内で、子どもの権利を保障していくためには、個別法にその旨を書き込んでいかなければならない。

しかし現状は、学習指導要領も含めて、教育関連法規に子どもの権利が記載されておらず、十分に守られていない。

生徒指導提要はガイドブックで、法的根拠のあるものではないため、強制力はない。

実際、生徒指導提要改訂で学校は変わったか、日本若者協議会が生徒と教員を対象にアンケートを実施した結果、「変わっていない」という回答がほとんどであった。

関連記事:生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向けアンケート結果より(室橋祐貴)

NHKが2023年12月に実施した調査でも、校則の理由を明示している学校や、生徒が見直しに参加している学校は1割から3割にとどまっている(こちらの調査は教育委員会を対象に行っているため、実質的にはもっと少ない可能性が高い)。

これを変えるためには、学習指導要領も含めた、教育基本法や学校教育法、地教行法といった教育関連法規に子どもの権利を記載し、学校内でも子どもの権利が保障されることを明確化し、尊重していかなければならない。

日本若者協議会では、そうした問題意識から、2023年8月に「学校内民主主義の制度化を考える検討会議」を設置し、高校生・大学生・有識者・弁護士・教員・元校長らと、法案に向けた論点整理や試案の作成に向けて、議論を重ねてきた。

7回の会議を経て、提言案がまとまりつつあり、近々、政府などに対して提言を提出する予定になっている。

具体的な提言内容については、提出後に改めて取り上げたいが、規律を重んじることを重視してきた教育基本法や学校教育法、学習指導要領などを見直し、子どもの権利を尊重するように方向転換できるかによって、子どもの幸福度や、育ち方は大きく変わるだろう。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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