なぜ若者団体に限定した経済的支援が重要なのか?日本若者協議会が政府や東京都に提言
2023年4月、こども基本法が施行され、政策決定過程で、子どもの声を聞くことが政府、地方自治体に義務付けられるようになった。
その内容は、以前記事で書いたように、まだまだ不十分な点が多いものの、取り組もうとする姿勢は見られる。
参考記事:なぜ日本の「子どもの声を聞く事業」はモニター募集という“意味のない”事業になってしまうのか?(室橋祐貴)
一方、欧州の若者政策の大きな柱である、「若者団体への経済的支援」はあまり議論がされていない。
そのため、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、その実現を求めて要望活動を行っている。
国政では、公明党や、自見はなこ内閣府大臣政務官に要望書を提出。
また諸外国では、各自治体でも同様の事業を行っており(※)、東京都でも実施してもらおうと、都議会公明党にも6月5日、要望書を提出した。
※デンマークでは、一般教育法によって、自主的な一般教育を行う団体(スポーツクラブ、政治・宗教に関する青少年団体、スカウト協会など)に対する支援が地方自治体に義務付けられている。
特に25歳以下の若者に関する活動に対しては、財政的支援や施設の無料提供を行う義務がある(25歳以下の若者が活動する場合は65%を自治体が補助しなければならない)。
そうした声を受けて、6月1日に岸田総理に公明党が申入れを行った「経済財政運営と改革の基本方針2023等に向けた提言」には、経済的基盤が脆弱な「若者団体」への財政支援が盛り込まれた。
ちなみに、関連して子ども若者の意見表明権確保に向けた施策も盛り込まれている。
「若者団体への経済的支援」がなぜ重要なのか?
欧州の若者政策では、政策決定過程で若者の声を反映するだけでなく、若者団体への経済的支援が大きな柱となっている。
例えば、スウェーデン若者・市民社会庁では、年間約45億円を若者団体に助成している。
詳しい内容はこちら:学校選挙、子ども・若者団体に年間約45億円の助成金を出すスウェーデン若者・市民社会庁の取り組み(室橋祐貴)
欧州でこうした事業を行っている背景を理解するのに必要なキーワードが「影響力」と「包摂」、そして「民主主義」である。
スウェーデンで若者団体、市民団体への助成金事業を行っているスウェーデン若者・市民社会庁のミッションは「民主主義を特に若い人たち向けに発信し、支援すること」。
若い人たちが自分の意見を全てのレベルで言えるように支援し、若者が社会に対して影響を与えられると理解できるようになることが重要だと考えている。
若者団体の定義としては、民主主義にとって政党は重要であるとの考えから、各ユース党(各政党に存在する若者の組織)にも助成金を出しているのが特徴的である。
「学校選挙をすることで、学校で選挙や政治、民主主義について取り上げ、議論することに繋がります。私たちは、できるだけ政党やユース党が学校に行って、生徒たちと話すことを望んでいます。
政党は民主主義の土台で、若い人たちが政治家に会う機会が減ると、政党の会員も減ってしまいます。それは、民主主義にとって良くないことです。できるだけ本物の選挙に近い形にすることが大事だと思っています。」(スウェーデン若者・市民社会庁の局長Lena Nybergさん)
若者の影響力を高めるためには、「声の上げ方」や「合意形成の仕方」を学ぶこと、政策決定過程など社会の意思決定に参画できる機会を設けること、社会の中で活動できる環境を整備することが重要である(社会的な活動は、必ずしも政治社会系の活動だけでなく、スポーツ・文化系の活動も含まれる)。
つまり、民主主義教育、政策決定過程や各社会(学校や大学など)で若者の声を聞く仕組み作り、若者の主体的な活動への支援(ユースワークやユースセンター)が必要となる。
これらは相互に深く関係しており、民主主義教育をきちんと行わなければ、政策決定過程や各コミュニティで声を上げようとしないし、主体的に活動する場がなければ、声を聞く場を作っても、声を挙げられる人は限られる。
特に若者は移行期であり、若者である期間は短い点(大人が50年程度は続くのに対し、若者は10年程度)、資産形成期間が短い(存在しない)若者ほど経済的に脆弱な点から、支援がなければ、持続的に活動を続けることは困難となっている。
実際、日本若者協議会は2015年に設立されたが、今でも続いている、拡大しているのは例外的で、同時期に、18歳選挙権ブームで立ち上がった若者団体のほとんどが2-3年で活動休止となっている。
今では900名ほどの個人会員(団体会員は74)がいる日本最大の若者団体にまで成長したが、これはやはりそれなりの年数続けているからこそであり、政治家や官僚とのネットワークなど、やはり活動を続けているからこそ得られる資産は多い。
日本若者協議会がモデルにしているスウェーデンの全国若者団体協議会(LSU)は1948年設置であり、助成金がなければ、ここまで続いていないだろう。
それも活動範囲が多岐にわたっており、専属のフルタイムスタッフがいるからこそできるようになっている。
先日視察に訪れたフィンランドの若者協議会Allianssiでは、模擬投票から生徒支援(生徒組合)、民主主義教育、ロビイング、交流など、様々な事業を行っている。
Allianssiの場合は、年間予算250万ユーロ(3億7000万円)のうち、65%(2.4億円)が教育文化省、15%が他の省庁やEUから提供され、20%が他のところから集めている。
これにより、約25人の専属スタッフを雇うことができ、安定した運営を行うことができている。
人口550万人程度のフィンランドで、ユースワークのために年間94億円ほど政府から助成金が出されている。
いかに若者を重視しているかがわかるだろう。
なぜ日本には「若者団体への経済的支援」が存在しないのか?
一方、日本には、こうした「若者団体への経済的支援」が存在しない。
もちろん非営利団体への助成金は存在するが、年齢要件がないために、長年続いている実績の多い大人の団体と、活動歴の短い若者団体が同じ枠を競うことになり、当然若者団体が選ばれる可能性は低い。
なぜ日本にはこれまでこうした施策がなかったのか。
それは、子ども・若者を「問題を抱える存在」として認識し、支援・保護の対象としてしか見てこなかったからである。
実際、これまで日本の子ども・若者施策の中心にあった「子ども・若者育成支援推進法」(2010年施行)では、ニートやひきこもり等の困難を抱える子ども若者への支援を主に想定しており、一般的な子ども若者に焦点が当たっていない。
法律の名前自体に「育成支援」が入っていることからもわかるように、対象はあくまで、支援保護対象者としての「子ども・若者」であり、社会の問題としての「子ども・若者」像である。
しかし、子どもの権利の考え方では、子どもを単に未熟者として扱うのではなく、一人の人間として意見や権利が尊重される存在、「権利の主体」として扱うことが重要とされている。
それが子どもの主体性を伸ばし、自分らしく生きられることに繋がるからである。
関連記事:「支援・保護」対象から「権利主体」へ、こども家庭庁・こども基本法施行後の「子ども像」(室橋祐貴)
このように、これまでは子どもの権利の考え方が浸透していなかった日本でも、こども基本法が施行され、子どもの権利が尊重されるようになった。
であれば、子ども・若者の主体的な活動を支援するために、「若者団体への経済的支援」は必須である。
これが実現すれば、若者が社会の変革の担い手として参画することができるようになり、日本社会は大きく変わるかもしれない。
6月中旬頃に閣議決定される「骨太の方針2023(経済財政運営と改革の基本方針2023)」に、若者団体への経済的支援が入るか否かで、日本の若者政策の成否が分かれることは間違いない。
一般社団法人日本若者協議会
若者団体への経済的支援を求める要望書
2023年4月に「こども基本法」が施行され、今後こどもや若者に関する政策を決める際には、こどもや若者の意見を聴くことが、国と地方自治体に義務付けられる。
より実効性の伴った形で、こどもや若者の声を政策に反映させていくためには、政府や地方自治体が“たまに”声を集めるだけでなく、学校内外での民主主義教育、こども・若者自らが日常的に、主体的に声を上げていくことが重要である。
特にこども・若者が権利の主体として、活動できるようにするためには、若者団体の存在、そして経済的基盤が脆弱なこども・若者には、支援が欠かせない。
しかし現状、日本では若者団体への経済的支援が極めて乏しく、持続可能な活動をできている団体は少ない。
諸外国では、若者団体の活動を支えるため、若者団体に限定した経済的支援を行っており、結果的に、より大規模な活動を持続可能にできている。
こうした現状を踏まえ、日本若者協議会では以下、要望する。
1.若者団体に限定した経済的支援の創設
現状、若者団体に限定した、政府の経済的支援は存在しない。例えば、2015年に創設された、子どもの貧困対策等を進める「子供の未来応援基金」(こども家庭庁)の支援対象は、子どもの支援団体となっている。また、独立行政法人国立青少年教育振興機構の「子どもゆめ基金」も、同じく支援団体を対象としており、実績の少ない、当事者で構成されるこども・若者団体が選ばれることは少ない。
これでは、こども・若者は、保護の対象のままであり、権利の主体になることは難しい。
一方、子どもの権利を重視している欧州では、若者団体に限定して、経済的支援を行っている。スウェーデン若者・市民社会庁では、子ども・若者主体の取り組みを促し、若者の影響力を強化するために、子ども・若者団体に限定した助成金を拠出している。助成対象の子ども・若者団体の条件としては、会員の団体への所属が任意であること、会員の6割を6歳から25歳で占めること、最低でも6歳から25歳の会員が1,000人いることなどがある。助成金全体の予算規模が5〜6億スウェーデン・クローナ(SEK)(65億円〜78億円)で、そのうち子ども・若者団体に絞った額は3億5000万SEK(約45億円)となっている。
この助成金があることによって、1948年に設置されたスウェーデンの全国団体若者協議会(LSU)や、政党のユース党、大学の学生組合、各若者団体などが専属のフルタイムスタッフを雇うことができ、民主的な、安定した運営をすることができている。一つ例を挙げれば、LSUには、20名ほどの専属スタッフがいるが、日本最大規模の若者団体である日本若者協議会には有給の専属スタッフは一人もいない。
同様に、フィンランドは年間約94億円の予算を若者団体の支援に使っており、年齢要件を入れることで、安定的な組織運用と若返りが両立する仕組みになっている。
こうした若者団体に限定した助成金は、国だけでなく、自治体にも存在する。例えばドイツ・ポツダム市にあるブランデンブルク州青少年連合では、専属スタッフが8人存在し、州の青少年団体約30団体を束ねる。そして、州などが年間約190万ユーロ(約2.8億円)もの予算を支出し、そのうち約7000万円は青少年連合が使い、残り約2.1億円は会員団体に渡す。
一方、日本の場合はこうした助成金が存在しないために、多くの団体が長続きせず、組織規模も拡大しないため、十分な社会的インパクトをもたらすことができていない。
そのため、当事者で構成される若者団体に限定した形の助成金を創設することを求める。
若者団体の定義=25歳以下のメンバーが6割以上いる団体(ノウハウを継承し、安定した、質の高い組織運営を行うためには、一定数経験豊富なメンバーも必要とするため、構成メンバーの過半数以上を若者が占める団体を若者団体と定義している)、かつ非営利で公益を目的とした団体(法人格の有無を問わない)
2.団体の自立性の確保
欧州では、若者団体に限定した助成金が多く存在することは上記の通りだが、こども・若者の主体性を尊重するために、お金を出しても口は出していない。
年齢や民主的な運営など、民主主義を発展させるための要件を入れているだけである。
また、助成先も若者同士が決めており、若者団体の傘団体である若者協議会が割り当てている(スウェーデンではLSUが105のこども・若者団体に割り当て)。しかし日本には、公的に若者協議会が存在しないため、当面は代表的な若者団体や個人で構成される「事業審査委員会」を設置し、そこで助成先を選定する形が望ましい。
3.人件費への活用を可能に
日本の助成金は、人件費に使えないことも珍しくない。用途の明確な経費(会場代や備品など)が主な支払対象となっている。しかしネットの活用が当たり前になった現代においては、オフィスもなく、紙も使わない活動は珍しくない。その時に費用がかかるのは人件費である。そのため、より意味のある助成金にするため、人件費への活用を可能にすべきである。
以上