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学校教員は「子どもの権利」をどこまで理解しているのか?教員向けアンケート調査結果から

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

今国会で「こども基本法案」が提出され、文部科学省・生徒指導提要(改訂試案)では「児童の権利」が明記されるなど、子どもの権利に関する社会的認識が大きく変わりつつある。

関連記事:「ブラック校則」見直しへ、大幅に改善した文科省「生徒指導提要」(改定試案)。課題は現場への浸透か(室橋祐貴)

一方、これまで教員養成課程で「子どもの権利」に関して十分に教育をしてこなかったこともあり、専門的に子どもと関わる教員であっても、「子どもの権利」に関して十分に理解できている状況とは言えない。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2022年3月に実施したインターネット調査「学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート調査」によると、子どもの権利について「内容までよく知っている」教員は、約5人に1人(21.6%)、

「全く知らない」、「名前だけ知っている」教員は、あわせて3割にのぼる(30.0%)ことが明らかになった。

学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート調査結果(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)

調査対象 小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、特別支援学校、外国人学校の教員

回収期間 2022年3月11日~3月14日

有効回答数 468人

調査地域 47都道府県

調査方法 インターネット調査ツール「QiQUMO」提携先会員の教員による任意回答

実施主体 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

実施協力 株式会社クロス・マーケティング

子どもの権利を「名前だけ知っている」「まったく知らない」教員が3割

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

教員は子どもの権利をどこまで理解しているのか?

子どもの権利について「内容までよく知っている」教員は、約5人に1人(21.6%)。

「全く知らない」、「名前だけ知っている」教員は、あわせて3割にのぼった(30.0%)。

勤務年数別で見ると、勤務年数が短い教員の方が、子どもの権利を「内容までよく知っている」と回答する割合が低かった。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
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また項目別の理解度では、4つの一般原則にある「意見を聴かれる権利」は約4割弱が選択しない(理解していない)結果となった。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
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約半数が子どもの権利について学ぶ取り組みなどについて「特に何もしていない」

また、「直近の1年間で、子どもたちに子どもの権利を伝えるために、あなたの学級ではどのような取り組みをしていますか?」という質問に対しては、約半数(47%)が「特に取り組みはしていない」と答えた。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
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「子どもの権利に関する授業を実施するにあたって、どのような難しさを感じていますか?」という質問には、「適切な教材がない」(35.7%)、「教員が多忙で子どもの権利について授業を実施する準備ができない」(32.1%)、「子どもに関心を持ってもらうのが難しい」(32.1%)が多く挙げられた。

まずは大人側が子どもの権利を理解する必要性

これまで日本若者協議会が校則見直しに関するアンケートを実施する中でも、人権教育に力を入れている学校ほど、生徒の声も尊重しているという事例は多く見られた。

「児童生徒が声を上げて学校を変えることができた」理由として、

◯三重県・国公立高校 生徒

すぐ変わったのは、その学校自体が人権学習に力を入れていて、生徒だけでなく、教員全員が人権問題についてしっかり勉強し、理解があったからだと思います。

関連記事:「学校のことに関して意見を表明する場がない」校則見直しに生徒が関わる機会を求める児童生徒の声(室橋祐貴)

逆に、これまでの日本の学校では、児童生徒が声を上げても、意見が尊重されない事例が多く、「学習性無力感」に陥っている。

結果的に、大人になっても声を上げることがなく、若者に限らず、全世代で社会参画が低迷している。

まずは、日常的に子どもと関わっている、教職員などの専門職が子どもの権利に関する理解を深め、各現場で子どもの権利を尊重していくことが重要だ。

今後は、教職課程において、「子どもの権利条約」を学ぶだけでなく、日本若者協議会「校則見直しガイドライン」で書いたように、「生徒手帳等に、憲法と子どもの権利条約を明記する」など、学校現場で学ぶ機会を作る必要もある。

日本若者協議会「校則見直しガイドライン」

(5)生徒手帳等に、憲法と子どもの権利条約を明記する

日本国憲法第11条に定める基本的人権、子どもの権利条約に定める最善の利益の実現、意見表明権などについて、児童生徒、保護者、校長・教職員等の学校のステークホルダーの全てが学び、その重要性を共有します。生徒手帳等に主な条項を記載するだけでなく、新学年の始めや日常の授業など学校内で学ぶ機会も積極的に作ります。

また、児童生徒が校則や子どもの権利について、外部の専門家に相談できるように、各都道府県の弁護士会の連絡先を載せるなどの工夫も考えられます。

引用元:「ブラック校則」見直しへ、大幅に改善した文科省「生徒指導提要」(改定試案)。課題は現場への浸透か(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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