内申書や高校入試は必要か?子どもの最善の利益から考える
「学校では、テストの成績や課題、ボランティア活動など、学校推薦や内申点ばかりを気にした学校生活になっている。結果的に、生徒同士で足の引っ張り合い、いじめ、生徒同士の優劣が生まれている。先生も学力が優秀な生徒を評価しがち」
「先生や規則に従うのは一見すると楽だけど、従うことに慣れ、自分の考えを持つことや、疑問に思う人が少ない。生徒が発言せず、先生になんでも従っている。先生は生徒の意見を反抗的だと評価する。生徒も先生の意見が一番だと思っている」
筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、学校で子どもの権利が保障されていないのではないかという問題意識から、2022年9月、「学校における子どもの権利保障を考える検討会議」を設置。
「こども基本法」施行後を見据え、当事者である児童生徒が中心となり、子どもの権利を尊重した学校とはどのような姿なのか、どのように教育を変えていくべきなのか議論を重ねてきた。
委員は、小学生3名、中学生7名、高校生10名、大学生・大学院生4名の計24名、オブザーバーとして、中学校教諭1名、高校教諭1名にも議論に参加してもらった。
2023年6月14日には、検討会議の議論を踏まえた提言『学校も「こどもまんなか社会へ」「学校における子どもの権利保障」に関する提言』を文部科学省の伊藤孝江大臣政務官に手交した。
文部科学省に「学校における子どもの権利保障」に関する提言を手交しました(日本若者協議会)
冒頭の発言は、検討会議の議論の中で出てきた中学生の発言である。
これ以上ないほど、日本の学校の問題点を適切に指摘しているのではないだろうか。
「主体的・対話的で深い学び」が学習指導要領に記載され、探究学習なども広がりつつある。
一方、内申書や入試があることによって、本当の意味で主体的な学びになっておらず、あくまで内申書や入試のための勉強、学校生活になっている。
実際、中村高康・東京大学教授らが行った調査(2020年3月、各都道府県の高校生男女計約3000人を対象に実施)によると、中学3年生の約8割が内申書(調査書)を意識して学校生活を送っている。
内申書を意識した行動としては、64.9%が「校則を守った」、50.2%が「部活動に積極的に取り組んだ」と答えている。
また、生徒会役員に立候補した生徒のうち、内申書を意識して立候補した生徒の割合は73.3%に上り、部活動の部長・副部長も76.4%が内申書を意識して立候補していた。
さらに、「先生に反発しないようにした」という生徒の割合も49.6%に達し、「先生から『内申書に書くぞ』といわれた」と答えた生徒が15.5%と、教員側も内申書を“利用”していることがわかっている。
このように生徒たちは、常に他者の目線(評価)を気にした学校生活を送らざるを得ない状況となっており、それが息苦しさにつながったり、自己肯定感の低さを生み出したりしている。
過度に競争的な教育環境の是正を
「評定」の悪影響も大きい。
客観的な指標のためのテストが行われるだけでなく、小さい頃から「評定」によって子どもが序列化され、自己肯定感の低下につながっている。
この悪影響から、諸外国では中学校まで、成績の数値化や順位付けをしないなど、子ども一人ひとりの個性や可能性を大事にしている。
なお、「評定」と「評価」は異なる。
「評定」が一律の基準によって数値化するのに対し、「評価」は個別の進捗や課題などを確認するもので、個人が成長していくためには欠かせない。
さらに、中高一貫校(高校時点での募集停止)の増加や公立学校の質低下によって、中学受験も珍しくなくなっている。結果的に、小学校の頃から、夜遅くまで塾に通うなど、競争的な教育環境によって、子どもに過度なプレッシャーや時間的余裕のなさを与えている。
子どもの自殺や、不登校(登校拒否)の児童生徒数が過去最多になっていることと無関係ではないだろう。
さらに、ほぼ全ての子どもが高校に進学する中で、学校単位の高校入試は必要なのだろうか。高校受験が存在するために、中学校段階で、評定や調査書が必要になり(そのためのテストや宿題も)、競争を生み出している。
「学力世界一」とも言われるフィンランドで、さらなる教育の平等や高スキル人材の育成のため、2021年8月から義務教育期間が高校まで延ばされたように、日本も高校までの義務教育化を検討する時期に差し掛かっているのではないだろうか。
少なくとも、今や学校単位の高校入試を行っている国は日本ぐらいである。
ほかにも、今回の提言に含めているように、選択の余地の少ない時間割、厳しいルール、全国学力テストや大学入試における共通テストなど、子どもの主体性を奪う仕掛けが数多く存在する。
このように、日本の学校では常に他者に評価され、主体性が発揮できず、競争に駆り立てられている。結果として非常に“優秀な”人材が育成され、国の成長に繋がっているならまだしも、日本経済も低迷の一途を辿っている。
どこか根本的に間違っているのは明らかである。
その時ヒントになるキーワードが、子どもの権利、子どもの最善の利益ではないだろうか。
「子どもの最善の利益」は、英語では「the best interests of the child」。
つまり、子どもの興味関心を第一に考慮するということである。
現状、日本の学校、教育制度がそうなっているかと言えば、程遠いと言わざるを得ない。
管理型の教育から、子どもの権利を重視した、信任型の教育へ。公教育の目的を再認識し、大きく作り替えなければ、子どもも国も、そして教員もますます不幸になっていく気がしてならない。
7月22日には、内申書・高校入試のあり方についてシンポジウムを開催する。
シンポジウムでは、「学校における子どもの権利保障を考える検討会議」委員の中学生、オブザーバーの中学校教諭に問題意識を共有してもらいながら、『通知表をやめた。―茅ヶ崎市立香川小学校の1000日』の著者である小田智博さん(共同通信)にゲストとして、議論に参加してもらう。