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生産性を求めるドイツの国会運営と形式主義の日本の国会

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
ドイツ連邦議会(写真・室橋祐貴)

日本の国会といえば、スーツを着た高齢男性がズラッと並び、中には寝ている議員もいる。そんな風景を思い浮かべるかもしれない。

一方、他の先進国の国会はどのようになっているのか。今回、ドイツ視察に合わせてドイツの連邦議会を見学し、あまりに国会の風景が違うことに驚いた。

そこには社会として重視している価値観の違いが大きく反映されており、日本が人口が2割以上少ないドイツにGDPで抜かれたことも納得できてしまった。

具体的にはどのように違うのか。日本の国会の現状と比較しながら、説明していきたい。

原則全国会議員が出席する日本の本会議

日本の本会議の様子
日本の本会議の様子写真:つのだよしお/アフロ

まず日本の本会議といえば、上の画像のように、全員(衆議院であれば465人)が決まった席に座り、ほとんどの議員は発言せず、ただ話を聞き続ける。

発言する議員は、一人が30分ほど演説・質問を行い、それに対して首相などがおよそ同じ時間を使って回答する。

それを2-3時間ずっと繰り返す。

さらに日本の国会は、「事前審査制」を取っているために、国会での発言が法案の修正などに繋がりづらく、形式的になりやすい。

事前審査とは:内閣が提出する法案は与党内の部会で事前に審査され、総務会で決議される。法案に対して党議拘束も取られるため、政府内で閣議決定され、国会に提出された時点で、基本的に修正は起こらず可決される。

結果的に(与党)議員にとっては、単に長時間座って聞いているだけの場となり、寝てしまう議員が出ることも珍しくはない。

もちろん議員本人の責任もあるが、構造的な問題と言って良い。

大山礼子『政治を再建するいくつかの方法』より
大山礼子『政治を再建するいくつかの方法』より

実際、日本財団が実施している18歳意識調査(2023年1月実施、第54回「国会と政治家」)の結果を見ても、現状の国会が、有意義な政策の場になっていると思わない人の割合は半数を超えている(52%)。

その理由としては、「欠席している議員や、居眠りや内職等議論に参加していない議員がいるから」、「不祥事の追及など、政策に関係のない議論が多いと感じるから」という点が上位に挙げられている。

出典:日本財団18歳意識調査 第54回「国会と政治家」
出典:日本財団18歳意識調査 第54回「国会と政治家」

どんどん人が入れ替わるドイツの本会議

それに対して、ドイツの国会は、まず席が決まっていない。

現在、ドイツの連邦議会は736議席あるが、本会議場に座っている人は50人程度しかいない(本当は写真で見せるとわかりやすいのだが、私的利用以外は掲載不可のためテキストで説明したい)。

それも、議論するテーマが変わる度に、どんどん人が入れ替わる。

連邦議会を案内してくれた職員さんに、日本の国会のように「名札(木札)」があるか聞くと、ドイツでは、そのテーマに関係ある人しか出席しないため、決まった席は設けていないのだという(政党のエリアは決まっている)。

日本の国会だと、当選回数の多い議員ほど後ろの席に座っている印象があるが、ドイツでは、発言する人が先頭に座るため、党幹部が前に並ぶ。

そして各議員の発言時間は、数分程度。1時間傍聴した時は、長くて5分だった。

電子掲示板に所属の政党名と発言者名、発言時間があらかじめ表示されており、次から次へと発言者が変わっていく。

一人無所属の議員が所定の時間(1分30秒)を過ぎて発言していたが、議長はマイクの音を落とし、退出を促すという、スマートな対応を取っていた。

そして首相や大臣も関係ある人しか出席していないため、数人しかいない(筆者が見た時は安全保障がテーマだったため、首相は出席せず、外務大臣が出席していた)。

本会議と委員会は同時に開催

では他の議員は何をしているのか。

ドイツでは、国会が開いている期間(パーラメントウィークといい、任期中隔週ごとに国会が開いている時期が決まっている)は、本会議場や委員会室、議員会館など、決まったエリアにいないといけない決まりになっているため、連邦議会付近には滞在している。

ただ、日本と大きく違うのは、本会議と委員会が同時に開かれているため、同時並行で様々なテーマの議論が行われている。

そのため、全員が単に座っていることはなく、それぞれ関係あるテーマの場に出席し、議論に参加する。

日本の予算委員会の様子
日本の予算委員会の様子写真:つのだよしお/アフロ

結果的に、各議員の生産性が高くなり、長時間労働を防ぐこともできる。

連邦議会の職員さんに、日本のように寝ている議員はいるか聞くと、「自分に関係ないと思ったら、他の場に行くため寝る人はいない」という。

国会活動と地元活動の期間が分かれている

また日本では、国会が開いている期間(年間8ヶ月ほど)は平日ずっと会議などがあるため、平日は永田町で過ごし、週末は地元に帰って政治活動と、休む暇が全くない。

一方ドイツでは、隔週で国会が開かれているため、国会が開いている週(パーラメントウィーク)は連邦議会があるベルリンでずっと過ごすが、その間の週は地元に帰り、地元活動を行う。

そのため、ずっと慌ただしく動く必要がないため、パーラメントウィークは非常に忙しいが、地元に帰る週は残業もせず、週40時間ぐらいしか働いていないという。

こうしたメリハリのある働き方ができる理由は、もちろん生産性が高い国会運営ができているからである。

40歳未満が約3人に1人を占めるドイツの国会議員

そして、ワークライフバランスを整えることができれば、子育て期間中の若い世代など、様々な層が無理なく、議員活動をすることができる。

実際、ドイツの今の連邦議会は、約3人に1人が40歳未満になっており、議場を見ても、明らかに若く、女性が多い。そのため、日本の国会と比べると、だいぶカジュアルで、雰囲気が明るい。

1-2期で議員を交代

さらに驚いたのが、議員を続ける期間である。

これは地方議員かつ党によっても大きく異なるが、緑の党や左翼党では、1-2期務めたら、議員を変えるのだという(中には長く続ける議員もいるが)。

その理由としては、議員はあくまで市民の代表であるため、様々なバックグランドを持った人が選ばれるのが望ましく、ずっと同じ人が政治家を続けているのは良くないという考え方があるという。

そのため、新しい考えを取り入れるため、積極的に議員を入れ替えている(比例代表の名簿を入れ替えている)。

そして、議員を辞めたら、元の職業に戻ったり、議員の経験を活かして他の職業に転職するのだという。

日本では、一度当選すると、落選するまで議員を続ける「生涯政治家」が多いが、それとは大きく異なる。

市民の代表であり、新しい考えを取り入れるという考えが乏しいのに加え、一度政治家に就くと、変な色がつき、就職しづらくなるという社会の雰囲気の違いも大きい。

またドイツの地方議員などと話していて感じたのは、政治活動というのは必ずしも政治家だけがやるものではない、市民の立場でも関われることがたくさんあるため、「政治家」というポジションに固執する必要がないという点だ。

実際、各政党のユース党やユースカウンシル(若者議会)のメンバーも自身のことを政治家だと認識している。

こうした政治家や政治活動に対する認識の違いは、民主主義国家としての成熟度合いの違いをまざまざと感じさせられるが、一旦国会運営の話に戻そう。

生産性を求めるドイツの国会運営と形式主義の日本の国会

わかりやすく日本とドイツの国会運営を比較すると、下図のようになる。

筆者作成
筆者作成

こうして見比べると、社会として重視している価値観の違いがよくわかる。

ドイツでは生産性を求め、議論に参加しない人は会議に参加しないという「当たり前」を国会でも実現している。

むしろずっと座っているだけの方が、時間の無駄だと有権者から怒られるような気さえする(ちなみに傍聴席は常に満席になっており、1時間ごとに人が入れ替わる)。

一方日本は、生産性よりも形式主義を重視し、儀式のようなプロセスを踏むことを重視している。

事前に徹底的に根回しを済ませ、滞りなく終わらせるために、実質的に議論する場と、了承を得る場を分ける。結果的に生産性の低いプロセスが多くなる分、長時間労働になる。

これがあらゆる場面で起きており、その象徴が国会の姿である。

筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、官僚の長時間労働などの是正のために、質問通告の早期化や日程闘争をなくすための通年国会の導入など、これまで国会改革を提言してきたが(国会改革、国家公務員の長時間労働改善に対する申し入れ)、ドイツの連邦議会を見ると、もっと根本的に見直す必要があると強く感じる。

でなければ、ますます日本の政治は世界から遅れるばかりだろう。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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