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生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向けアンケート結果より

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

2022年12月、教師用の生徒指導に関するガイドブックにあたる「生徒指導提要」が12年ぶりに改訂された。

新たに、子どもの権利や、校則のホームページ公開、児童生徒や保護者等の意見を聞くこと、校則見直しの変更プロセスを明示化することが盛り込まれるなど、良い方向へと大きく改善した。

関連記事:「ブラック校則」見直しへ、大幅に改善した文科省「生徒指導提要」(改訂試案)。課題は現場への浸透か(室橋祐貴)

では、学校現場はどのくらい変わったのだろうか。

日本若者協議会では、改訂から約1年が経過したことを受けて、生徒指導提要改訂で学校現場は変わったのか、中学生・高校生、教員を対象にアンケートを実施した。

回答数が少なかったため、あくまで一つの参考としてになるが、結論としては、ほとんど全員が「変わっていない」と回答し、まだまだ子どもの権利が尊重されていない実態が明らかになった。

具体的にどういう回答だったのか、詳細を見ていこう。

生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート結果まとめ

このアンケート調査は、日本若者協議会のHPやSNS上で回答を募集したWebアンケートです。調査対象は、中学生・高校生、教員で、実施期間は11月13日(月)〜11月30日(木)です。

・調査方法 Web調査(日本若者協議会のホームページやSNS上で回答を募集)
・調査対象 中学生・高校生、教員
・調査期間 11月13日(月)〜11月30日(木)
・回収数 43回答

学校からの説明はなし

まず、生徒指導提要が改訂されたことを知っているか。

出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」
出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」

こうしたアンケートに答えているぐらいだから、「知っている」割合は高かったが、知った場所としては、学校からではなく、メディアやSNSなどが大半を占めた。

これでは結局興味関心のある生徒しか知ることができず、学校全体が変わることは難しいだろう。

教員は、さすがに一部学校や教育委員会からの案内があったが、それでも過半数はそれ以外から情報を得ていた。

またほとんどの教員が、学校からの研修はなかったと回答した。

出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」
出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」

また、子どもの権利についても研修を受けておらず、周知に関しては全く不十分であることが明らかとなった。

出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」
出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」

関連記事:学校教員は「子どもの権利」をどこまで理解しているのか?教員向けアンケート調査結果から(室橋祐貴)

生徒指導提要改訂後も学校は変わらず

そして、生徒指導提要改訂から約1年が経過し、学校は変わったか。

生徒の目線からは、変わった様子は見られないという結果となった。

出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」
出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」

その理由としては、下記のような点が挙げられた。

(どちらとも言えない)
・取り組もうとしてはいるが、なかなか行動に移せていない(高校・国公立・千葉県)
・制服やスマートフォンに対する規制が依然として厳しいから(高校・私立・東京都)
・変わったことを知らなかったから(高校・私立・東京都)

(変わっていない)
・校則を変えることに乗り気な先生がいないから(高校・国公立・東京都)
・内容がわからないけど、特に何か変わった感じがしない(中学校・私立・埼玉県)
・生徒指導提要の改正項目が全く変わっていない(高校・私立・愛知県)
・生徒からの意見が否定されてばかりだから。新しい制服が勝手に決まっていたから(中学校・国公立・千葉県)
・先生も、学生も内容を良くわかってない。学校でも話はない(中学校・私立・広島県)
・先生の態度や学校の雰囲気が昭和のまま(高校・国公立・愛知県)

改訂版の生徒指導提要では、校則周りに関して、校則のホームページでの公開や、校則制定の背景を示すこと、校則見直しの手続きを明示すること、見直しの議論に生徒が参加することなどが推奨されているが、「どれも実現していない」回答が大半という結果となった。

出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」
出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」

教員の回答もほとんど同じであり、教員目線でもあまり変わっていない実態が明らかとなった。

出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」
出典:日本若者協議会「生徒指導提要改訂で学校は変わったか?「学校内民主主義」に関する生徒・教員向け第二弾アンケート」

(変わった)
・校則に対して、若干ではあるが柔軟になってきていると感じる。(中学校・特別支援・兵庫県)

(どちらとも言えない)
・生徒指導主任は気にしていた。(高校・国公立・埼玉県)
・まったく知らない年配の先生がいる(中学校・国公立・大阪府)
・校則の文言が変わっただけで、職員の意識は旧態依然としているから。(高校・国公立・長野県)
・生徒指導の行い方や人権的配慮など、変わったところもあるが、生徒に説明しておいて教員側が実践できていないという場面に何度か出会っているから。(中学校・国公立・熊本県)
・現場への周知の不徹底および、現状との乖離(中学校・国公立・東京都)

(変わっていない)
・これまでのやり方を変えると学校が荒れるのではないかと懸念する教員が多いため。(高校・国公立・宮城県)

・研修がなされていない、校内の動きに生徒指導提要を活かしたという言葉が出てこない。(高校・国公立・静岡県)

・そもそも生徒指導提要が改訂されたという事実しか知らず(それすら知らない教員もおり)、その内容についてまで理解している教員はとても少ないです。また、教員自身が人権や子どもの権利条約、民主主義に関する知識が乏しく、旧態依然とした管理教育を推し進めているのが現状です。(高校・私立・神奈川県)

・改訂の資料や話は、管理職から一言も出ていません。校則も変わりませんし、生徒指導も変わっていません。(高校・国公立・埼玉県)

・旧来の「校則で縛らなければ、生徒は悪い方へ流れる」という不安が職場内にある。(高校・国公立・岐阜県)

・全く変化なし。私が生徒指導提要がこう変わったから学校もこう変わっていきましょうと提案しても会議では通らない。具体的には生徒による校則改定手続きの明文化や、特別指導が適用される問題行動の明文化と指導内容の明示を提案した。そもそも現場の教員は生徒指導提要が改定されたことを知らないし、知ったところで従来のやり方を崩そうとしない。特に年配の教員は。管理職も。層も厚く、声の大きい年配の教員に意見することはタブーな雰囲気が学校には強くあり、おかしいと思っていても若手は沈黙せざるを得ない。浸透するにはまだまだ時間がかかるし、保護者やメディア、世論の力が必要だと感じる。(高校・国公立・東京都)

・「生徒指導」提要なので、学校宛に通知が来たとしても生徒指導担当にその情報が流される。その先は担当者次第になる。私の勤務校の場合は、担当者が年度始めに変わったことのみを周知しただけで、その先は進んでいない。「変わっていない」を選んだが、校則、特に服装に関して担当者の中で検討が始まっている様子はあるし、これから徐々に変わっていく見通しはある。(中学校・国公立・神奈川県)

子どもの権利を学ぶ時間や権利侵害から守る仕組みづくり

学校内での子どもの権利保障や「学校内民主主義」に関しては、下記のような意見があった。

生徒の回答
・校則やイベントのルールを変えたいという声は多くの生徒から上がっているが、変え方が不透明で生徒部から生徒の態度が悪いから変えられないなど、難癖をつけられている状況。校則に対する規制も国や地域として必要だと思うが、校則やルールの変え方についても指標を出してほしい。ただ現状の教員の働き方では生徒としても仕事を増やしてしまうことにつながると思いなかなか要望できない事もあるので、教員の働き方を変える事も必要不可欠。(高校・国公立・東京都)

・親に中学生の頃の話を聞いたら今よりも自由があって羨ましいと思った。全部先に決められてその中で選ぶ選択肢しか与えてもらえないので、窮屈な感じがある(中学校・私立・埼玉県)

・生徒会選挙への学校側の介入・それに対する文句を握りつぶすのをなんとかして欲しい(高校・私立・愛知県)

・取り組みをする上で様々な課題が生じている。まず生徒サイドでは、主導となって動いていく生徒会の任期がほとんどの場合1年となっていて、続けていくことが困難である。
教員サイドでは、日々の業務で手一杯なのでなかなか時間を割くことができないでいる。様々なアイデアは出ているが学校内だけで行動に移していくのが難しいのが現状だと思う。(高校・国公立・千葉県)

・まずは、学校で子ども達にその内容を教える時間をとる事を明記してほしい。いくら改定されても、教師も知っているかは不明だし、学生はほとんど知らない。1時間でも全校生徒に話す時間をつくる努力をすることを、提言して欲しい。努力義務なのか、強制なのかはわかりませんが。そうしないと、学校はあまり動かないのでは?授業をするだけで終わると思います。(中学校・私立・広島県)

・校則は憲法に則り、自由かつ民主的な内容であるべきであり、理事会といった上部組織が生徒たちの意見を聞かずに問答無用で却下する事態を即刻改善しなければならない。(高校・私立・東京都)

・そもそも日本の民主主義は戦って勝ち取ったものではなく、第2次世界大戦敗戦時にGHQから与えられたものであるので、民主主義のありがたみをわかっているようでわかっていない。つまり、民主主義の質が低い。学校内民主主義を実現しても、民主主義の質を上げる教育をセットでしないと効果が薄いと思われる。(高校・私立・東京都)

・(前略)そこで考えたのは学習指導要領や子供の権利など、校則と教員の力を上回るいわば法に拘束力を持たせる憲法のような規定で制服指定などについての明確な基準を設けるということだ。(もちろんこの疑憲法をつくる際にも学生や学生の民意を反映した存在が携わるべきである)
これがあれば生徒の主張に説得力をより持たせることができるし、教員はそれを越す校則、ルールは作れない。それと同時に生徒の行きすぎた主張も疑憲法によって抑制することが出来る。こういう明確な統一基準がないために、教員側は一貫しない意見で生徒の主張を拒否することができるのだ。
現在の学校内民主主義には司法、裁判所、第三者視点のような暴走政治を食い止める手段がない。それにとってかわるものがない限りは、学校内民主主義などたかがしれている。日本において民主主義をかかげるのならば、三権分立、もしくはそうとまではいかなくても教員の権力はもう少し分散、あるいは生徒に抵抗力がなければならない。(高校・国公立・埼玉県)

教員の回答
・勤務校では、どうしても「私立なのだから」(嫌なら辞めればいい)という論調で子どもの権利が蔑ろにされる場面が多くあります。子どもの権利は公立・私立問わず、すべての学校で保障されなければならないという認識が広まるような提言をしていただけると助かります。学校内民主主義や子どもの権利について、各学校が教員向けの研修を行うことを促すような文言も入れていただけると有り難いです。(高校・私立・神奈川県)

・子どもの権利保障を行うには、子どもが意見を表明し、それを心の余裕をもって聞ける教員がいる環境が不可欠であることから、教員の働き方改革を早急に行うべきである。意味もなく男女で分けて行事を行ったりすることがあるので、そこからやめていかないと、生徒から見た性の多様性は育っていないと感じる。(中学校・国公立・熊本県)

・東京都教育委員会の指示により、現在都立学校では校則をホームページにのせなければならないことになっている。しかし本校では校則の一部は記載されているが、生徒を縛る規則の全てが明文化されているわけではない。また、生徒手帳に載っている規則もそうだし、本校には生徒手帳に載っていないルールも多く存在する。本校ではスマホは使用禁止という他校と比較してみても厳しいルールがあるが、ホームページの記載はQ&Aにちょこっと載っているだけである。
個人的には生徒の容姿に関することをルールで規定し、禁止することは憲法に違反すると考える。髪型、ピアス、メイク、服装など。憲法13条を根拠とした自己決定権を侵害している。また、学校生活以外の生活までルールで禁止したり制限することも不当な自由な制限と考える。スマホの没収指導も財産権の侵害にあたるし、災害時に必要な連絡をとる手段を奪っている。このようなルールは見直しをしていくよう働きかけてほしい。
また、生徒指導提要に則った指導が行われるよう働きかけてほしい。憲法や子どもの権利条約の内容理解が促進するような働きかけを行ってほしい。(高校・国公立・東京都)

・1、教職員合意で学校運営がされるしくみになっておらず、校長の決定で上意下達で決定される。職員会議では、多数決も禁止されており、校長の決定を教員に伝える場となっており、教員どうしが意見を出し合い議論して合意を形成する場になっていない。教職員自身の自由と権利が保障されていない状況で、真に生徒の権利が保障されることはむずかしい。
2、教育の内容について。小学校や中学校などで、「自分の義務を果たしていない人は、権利を主張できない」「自分の権利ばかりを言う人はわがまま」であるかのような教育がされているように感じる。「人々の権利を保障するのは、国家や地方自治体の義務である」「学校で、子どもの権利を保障するのは、学校と教育行政の義務である」というあたりまえのことが、子どもも教員も教育行政の担当者もしっかり理解されていない(教えていない)と思われる。この点では、学習指導要領や教科書の記述にも、問題が多い。(高校・国公立・大阪府)

・今回の生徒指導提要の方向性には大いに賛同している。課題は、まず、生徒指導提要の内容について十分現場で説明されていないことがある。しかし、これは今回に限らないことだが、日常の業務が多すぎて、現職教育(研修)の時間を取ることができていない。また、民主主義を掲げるのであれば、現場が適応するのには時間がかかることを外部は理解しなければならないと思う。公立の特に中学校は、学校規模によるがステークホルダーが非常に多い。私の勤務校は生徒が約600名で、保護者はおおよそ1200名ということになる。新生徒指導提要がリリースされてから1年経たないわけだが、1800名のコンセンサスを取るのに1年かかっていないのだとしたら、それはそれで本当に民主主義的なプロセスを踏んでいるのか疑問に思う。「はやく変えなきゃおかしい」と外部が煽ることがないよう願うばかりである。(中学校・国公立・神奈川県)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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