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またロックダウン。コロナ感染再拡大のスペインで、次に迫る危機

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
飛行機も結局、全席使用で運航中。申告書と検温と目視で感染者入国を防げるわけがない(写真:ロイター/アフロ)

香川と岡崎の住む地域はフェイズ2へ逆戻り

非常事態宣言が6月21日に解除されてから2週間ちょっと。外出と移動は自由になり、商業活動も再開され、サッカーも帰ってきて、スペインの空気は一変した。夏も始まりビーチやバルのテラスは人で埋まった。まるでコロナ禍など嘘だったかのような日々が1週間ほど続いた。

が、もちろんそれは幻だった。

6月21日以降、通算72のクラスターが発生し、7月6日現在そのうち47が収束していない。

まず、感染者140人超のガリシア州の計7万人が住む市町村が封鎖された。

次に、感染者数530人超のカタルーニャ州ジェイダ県の計20万人が住む市町村も封鎖。

感染者数400人超の隣接するアラゴン州のサラゴサ県とウェスカ県(香川真司と岡崎慎司が所属するクラブのあるところだ)が移動や活動制限のあるフェイズ2へ逆戻りした。

その他、アパートやホテルなど施設・建物単位、繁華街単位などの封鎖が行われている。

日本の常識、クラスター追跡が行われなかったわけ

こうした再感染の広がりと対策を見ていてわかることがある。

それはクラスター追跡ができているうちは、施設や建物などの「局地的封鎖」が行われ、追跡不可能になると「県市町村単位の封鎖」になる、ということ。追跡不可能で、もうどこで発生してもおかしくないとなれば、地域丸ごと人を閉じ込めてしまおう、となるわけだ。

実は、非常事態宣言が解除されるまでスペインではクラスター追跡は行われていなかった。

3月上旬に500人台の感染者数が5日間で4000人台になる感染爆発が起き、そのまま非常事態宣言が出されロックダウンされたので、それどころではなかったのだ。

それが今は追跡の成果で、クラスターの大部分は局地的・限定的な封鎖で済んでいる。こうしてクラスターを管理下に置いていくのが、緩和による感染拡大との共存の道、「新しい日常」というものなのだろう。

新たな感染拡大はどこから来た?

クラスター追跡によって、感染源と経路も初めて明らかになった。

まずは「家族内感染」。

ロックダウン中会えなかった家族に会いに行き、ソーシャルディスタンスとマスク着用が疎かになり感染。数カ月ぶりの再会に抱擁とキス抜きなんてスペイン人の気質ではあり得ないので、これは予想されたことだ。

次に「産業活動での感染」。

農産物の選別、食肉の加工などの現場での感染。工場内での密閉・密接具合や温度、湿度などの環境が感染を拡大させるのではないか、と見られている。

三番目がこれに関連して「農業収穫者内での感染」。

果物と野菜の生産が盛んなスペインでは収穫期に数万人単位の短期労働者を必要としており、この大部分が外国人である。彼らは「必要不可欠な産業の従事者」なので、ロックダウン中も入国でき14日間の検疫も免除されていた。さらに、同じアパートで密になって暮らす劣悪な生活環境もあって感染が拡大した。

こう見ていくと、日本では「夜の街」と盛んに言われているが、感染源にもお国柄が出ることがわかる。

若者の無法はクラスター化せず

以上の感染拡大要因とは別に、マスメディアが散々叩いているのが、「若者の無責任な行動」。

応援するバスケットチームの優勝、中止された夏祭りの代わりに、ロックダウン時の欲求不満解消、ただ単に集団で酒を飲むのが好きだから……など、若者が集団で騒ぐ理由はいくらでもある。

3つの要因に避けられない部分があるのに対し、マスクもしないソーシャルディスタンスも守らない若者たちの無法は避けられる――が、叩かれている割にはここからクラスターが発生した、というニュースは聞かない。無症状者が多く、数字に上がって来ないせいなのか?

日本人観光客も“水際無策”の対象に

さて、今はまだ顕在化していないが、今後間違いなく感染再拡大の要因になるだろう、と言われているものがある。それが、「海外からの旅行者」だ。

6月21日の非常事態宣言解除によって、EU・シェンゲン域内国(欧州34カ国)からの入国制限は解除され、7月1日から域外の日本を含む12カ国からの入国にも制限が無くなった。

が、問題は、感染対策の方もノーチェックに等しいこと。空港で行われているのは、健康状態の申告書提出、検温、目視のみなのだ。これでは無症状感染者の入国を防ぐことは当然できない。

スペインは国内総生産の14%を占める観光が最大の産業である観光国。稼ぎ時の夏にドル箱の外国人観光客を逃すような策=検疫を採ることはできないのだ。

このほぼノーチェックは外交上の「相互主義の原則」にも反している。

日本の観光客がスペインを訪れても申告書提出、検温、目視のみで済むが、私が日本に帰国するとPCR検査、検査結果が出るまで待機、陰性でも入国後14日間の自宅待機が義務付けられているからだ。

それでも私は入国できるだけましで、スペイン人観光客はダイレクトに入国拒否に遭う。

ちなみに、今日本からスペインへ旅行するのは現実的ではない。行きはノーチェックでも帰りは「入国拒否対象地域」(=スペインもその一つ)に滞在歴がある者として、私の帰国時と同じ扱いを受けるからだ。

「新しい日常」の危うさと矛盾とは?

以上のスペインの現状は、コロナとともに生きる「新しい日常」の危うさと矛盾を象徴している。

観光業を経済回復の起爆剤とするために外国人をほぼノーチェックで入国させる→そのリスクには目をつむる(→感染発生せねば万々歳)→感染発生ならクラスター追跡で対応→追い切れなくなったら地域丸ごとロックダウンする。

この危ういシナリオは、観光業のみならずすべての経済活動でも繰り返されるのだろう。

「矛盾」と言うのは、国策による感染発生が「個人の責任」というふうに転嫁されがちだからだ。

観光業を促進するために入国チェックを甘くしても構わない。リスクゼロの活動回復、経済回復などあり得ないのだから。だが、旅行者という移動し追跡しづらい集団のせいで大規模再感染が起きたら、安易にマスク未着用とソーシャルディスタンスを守らなかったせいにはするな、と釘を刺しておこう。

感染は常に個人の無責任のせいにできる

因果関係がわかりにくく感染経路がつかみにくいコロナ禍では、責任のすり替えが起こり易い。

どんなに周りが感染していてもマスクとソーシャルディスタンスで自分を守ることができる。そういう意味では、”究極の感染対策はマスクとソーシャルディスタンスであり、結局のところ一人ひとりの責任だ”という強弁もまかり通りかねない。

すでに、「すべての共有スペースでマスク着用を義務付ける」という案が感染拡大地域で出ている。屋外で周りに誰もいなくてもマスク着用というのは、感染防止においてどんな科学的根拠があるのか? そして、感染拡大の大元にある国や地方自治体の責任はどこへ行ったのか?

一方を解放し一方を抑圧する、というのは感染拡大防止と活動回復を両立させねばならない「新しい日常」の常であろう。だが、抑圧されるのがいつも同じ側では、末永くなりそうなコロナとの消耗戦は維持できない。

政治的な判断に基づく、旅行者が持ち込むウイルスを源とする必然的な感染拡大に対して、政府はどう反応するか?

もし、その答えがマスクとソーシャルディスタンスのさらなる厳守で、“みなさんの無責任が封鎖を招く”だとしたら……。

(過去の記事は以下のリンクに。1回目:12のこと、 2回目:封鎖の遅れ、 3回目:大移動が招く感染、 4回目:医療崩壊、 5回目:データ不信、 6回目:報道の大本営化、 7回目:高まる同調圧力、 8回目:失業者救済スタート、 9回目:意外な封鎖下の需要、 10回目:WHOへの失望

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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