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新型コロナ「都市封鎖」で起こる医療崩壊。「医師は裸のヒーロー」「残酷な患者選択」…スペインに学ぶな!

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
マドリッドの見本市会場の特設病院。完成は全土封鎖開始から2週間近く後……(写真:ロイター/アフロ)

4月6日午前11時半現在

感染者数:13万5032人(前日比4273人増)

死者:1万3055人(前日比637人増)

※数字はいずれも公式発表

今日の最大のニュースは死者数の増加がわずか637人に留まったこと。4月2日の950人をピークに、これで4日連続の減少。3月14日からの全土封鎖の効果が出始めているのか。もっとも昨日は日曜でカウント漏れの可能性もあるのだが。

今日も「都市封鎖」で次々と起こる12のことを掘り下げる。(過去の記事、1:遅れた非常事態宣言はここ 2:感染危険地域からの人の流出3:老人ホームでの大規模感染はここ

4:医師用の防護服不足

午後8時はヒーローに拍手を送る時間だ。バルコニーや窓から伸びた手が叩かれ、「ブラボー!」「勝つぞ!」などの声がこだまする。

ヒーローとは医者や看護師。家に籠って戦力になっていない者から、戦いの最前線にいる者たちへの労いのエールである。

中国でもイタリアでも起こったし日本でも起こるだろう。自然発生的に、あるいはSNS上の誰かの主導で。メディアも「彼らこそヒーローだ」とはやし立て、医師や看護師も拍手で返す。そんなビデオが悲惨なニュースの合間の美しいアクセントになる。

だが、そんなイノセントな日々は1週間も続かなかった。

そのうちヒーローたちから「我われはヒーローではない。武器も与えられず裸で戦場に送られているのだ」といった告発が届くようになる。

それで初めて、我われは深刻な医療物資不足、特に防護服の不足が起こっていることに気付くのだ――。

どのくらい不足したかというデータは無い。だが、医療関係者の感染者がヒントになる。

スペインの医療関係者の感染者は今日現在で1万9400人、1週間で60%増加した。これは全感染者数の14%に当たり、イタリアの9%よりもはるかに高く、不名誉な世界一だ。

告発によると、医師たちは防護服をゴミ袋で手作りしたり、スポーツ用のゴーグルを使ったり、医療用ではない市販のマスクで代用したり……といった装備で患者と接していたという。

悲鳴を受けて、投稿サイトは善意の人による手作りキットの動画で埋まるのだが、数も質もそれで間に合う訳がない。

病院が大規模感染源に、医師や看護師が感染の媒介役になった、というのは明白だ。

感染7日後ノーチェック復帰の無茶苦茶

今日の会見で保健省は医療物資(マスク、防護服、人工呼吸器)の購入に約1000億円を割いた、と胸を張った。だがこれ、全土封鎖以降に費やした額である。発注から到着までのタイムラグ間、ヒーローたちが裸だったことの確かな証言ではないか。

医療関係者の感染が増大するとどうなるか?

当然、医者と看護師の不足が起こる。それを防ぐために、「発症から7日後に(解熱剤を使わず)発熱がない者は職場に復帰すべき」という指針を4月になって政府が出した。

これは2つの点で恐るべきものだ。1つは、通常の隔離期間14日を半分に短縮したこと、2つ目は、感染検査も行わず医療現場に復帰させようとしていること――。

実は、検査しようにもキットが手元に無い。全医療関係者にPCR検査を実施するには人的にも検査機器的にもキャパシティが足りず、簡易キットは注文済みだが、まだ届いていない(これについてはまた酷いエピソードがあるので今後紹介したい)。

結論、まだ物資は足りず、その結果、人も足りない。医療関係者の超人的な頑張りだけが頼りだ。

全土封鎖から24日目なのに。

5:医療設備とベッド不足

「マドリッドで65歳以上の患者の人工呼吸器が外されている

こんなショッキングな告発ビデオが数日前に流れた。ベッドが足りない、ICUが足りない、人工呼吸器が足りない、と言われ続け、“ついに助ける命、助けない命の残酷な選択が始まったのか”と身構えた。すぐに自治体の医療当局が否定したのだが……。

ベッドが足りなかったのは事実だ。

感染爆発が起きたマドリッドでは、3月23日から4日間かけてマドリッドの国際見本市会場を、ベッド数5500(うち500は集中治療室ICU)の、この国最大の病院に作り変えた。

スペインのベッド数はEU(欧州連合)でもかなり少ない方だ。

10万人当たり297というのは、この感染症での死亡率の低さで知られるドイツの800には遠く及ばず、フランスの598の半分、死亡者数世界一のイタリアの318よりも少ない。肺炎患者の命の綱、人工呼吸器が設置されているICUについても同じ。こちらは2012年の調査で、ドイツは10万人当たり29、フランスが12、イタリアが13、スペインは10……。

それでもスペインのICUは日本の倍

実数で言えばスペインには4400のICUがあり、4月1日の段階では次の4つの自治州で能力オーバー寸前だった。

カタルーニャ州 使用率95%

マドリッド州 同85%

カスティージャ・イ・ラ・マンチャ州 同98%

カスティージャ・イ・レオン州 同78%

が、ここ数日ICU入りする人の伸びは鈍くなっているし、他州には余裕があり最悪、移送という手段もあるので、少なくとも今後はICU(=人工呼吸器)不足、すなわち、救える命を救えない事態は回避できそうだ。

とはいえ、感染爆発が先で、その後を物資も人も施設も追い掛けた、というのが真実「治療を受けられず放置された」という告発は今も後を絶たない――。

では、日本はどうなのか?

10万人当たりのICUのベッド数は「5床程度」(4月1日、日本集中治療医学会理事長の声明)なのだという。つまり、スペインの半分である。爆発的感染が起きれば、これでは耐え切れないことはイタリアとスペインの例が証明している。緊急事態宣言下で爆発回避に集中するしかない。

(次回に続く)

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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