誠実で簡素で丁寧。日本の良さが出た映画『リバー、流れないでよ』
何度も繰り返す時間に人々が翻弄される。いわゆるループものの良作が昨年のシッチェス・ファンタスティック映画祭で上映された『リバー、流れないでよ』だ。
登場人物たちは2分経つと、ループが始まった「初期位置」に戻され、そこからの2分間を何度も繰り返すことになる。
なぜ良作なのか?
①繰り返しが退屈にならない設定
何度も繰り返すからループなのだが、その繰り返しによって見ているこっちが飽きてはお話にならない。『リバー……』には飽きさせないように毎回、ちゃんとお話に工夫がある。
たった2分間なので、登場人物の成長物語にはならないが、繰り返す間に愛憎入り混じる人間関係が明らかになっていくことで物語が停滞せず、前に進んでいく。
前進のカギは、ループしても記憶が残っている、という設定。2分間にパソコンで打った文章は消えてしまうし、鍋を食べまくってもお腹は一杯にならず、ケガをしても治ってしまう。
2分間に「やったこと」は2分後には元に戻って「やっていないこと」になる。
しかし、記憶だけは残る。
よって、登場人物たちは過去のループから学ぶことができる。学ぶから前進できるわけだ。
②ループが試行錯誤の場となる
ループから学べるということは、ループをいろいろな試行錯誤の場として使えるということ。まずループがなぜ起きているのか、という原因究明にループを使い、次にループから脱出するために何をすればいいのかをトライする場としてループを使う。
ループからの脱出という目的が明確で、そのために登場人物たちが何をするのかという興味が持続するので、飽きない。併せて、なぜループが起きるのかの謎解きの方も同時進行するので、飽きない。
③ループが教える「人生」
何度もループしていると一度きりの人生の大切さが身に沁みる。ループなら失敗すればやり直せばいいが、人生は一度きりでやり直しがなかなか利かない。
と同時に、人生ではなかなか思い切れないこと、結果を恐れてチャレンジできないことが、ループならばチャレンジ可能だ。
例えば、愛の告白をする。
返事がYESなら万々歳、NOでも2分間で元に戻るからダメージは少ない(?)。いや、もっとうまい手がある。いきなり告白せず、2分ごとに少しずつ距離を縮めていき確信ができてから告白する。
ループに巻き込まれることは、口説くための永遠の時間を手に入れることだ。
あなたも相手もループから逃げられず嫌でも一緒に居なくてはならない。さらに、ループからの脱出という共通の目標のために力を合わせなければならない。
この状況で男女の距離が縮まらないはずがない。
④ループの理由と解法に納得できる
ループがなぜ起きたのか、に納得できる理由を提示できず、どうやってループを止めるのか、に納得できる解法を提示できない作品は失敗する。だって、その2つがクライマックスなのだから。
『リバー……』のこの2つはネタバレになるから書かないが、ちゃんとしていた。見終わった後わだかまりは残らず、スカッとした。
だが、例えばやはりシッチェス映画祭で2017年に上映された『アルカディア』(原題/ 『THE ENDLESS』)は、見ている者にそこを丸投げしている。謎まみれの大風呂敷を広げるだけ広げておいて最後に畳んでくれない。
見終わって頭の中は???? 「金と時間を返せ!」と言いたくなった。
ループものに科学的な難解な解説は必ずしも要らない。何か物語的に辻褄が合う説明さえあれば十分だ。
例えば、同映画祭の2022年出品作『La Alarma』では、ループは「宇宙人によるマインドコントロール」だった。「回し車に夢中になるネズミ」に相当するのが、「ループの中に生きる地球人」だった。荒唐無稽だが、伏線さえ回収されていればこの程度のもので必要十分である。
『リバー、流れないでよ』だって荒唐無稽なのだが、ハッタリをかまさず、大風呂敷を広げず、最後にきちんと畳んで終わる。誠実で簡素で丁寧。
日本人の美徳と日本の美しい風景も堪能できる。
各国映画祭を席巻したのにも納得。おススメです。
※写真提供はシッチェス映画祭