食べないこと(食事ゼロ)が地球と体に優しい? 映画『クラブ・ゼロ』
「私は『意識的な食事』を提案します」
「現代人はそもそも食べ過ぎです」
「食べ過ぎは食品ロスの原因でもあります」
「食べないことでCO2を減らせ地球温暖化も防止できます」
「食べないことで体も強靭になり健康になります」
なので、「みなさん、食べることを止めましょう!」
「体と地球に悪い食事を続ける、無自覚な大人たちを軽蔑しましょう!」
「あなたたち若者が地球の未来を救うのです!」
こんなことを言う人が目の前に現れたらどうしますか?
■人類の消滅こそ地球への究極の優しさ
最初の3フレーズくらいは納得するとして、4つ目以降は首をかしげたくなる。ちょっとアタマ、おかしいんじゃないの、と思いますよね。
だって、一時的な絶食や断食なら健康に良いかもしれませんが、食事ゼロ=ずーっと食べないでいて体に良い訳がない。
そりゃ、私たちは呼吸してCO2を出しますよ。牛のゲップに含まれるメタンガスが地球温暖化を促進しているなら、私たちのオナラも温暖化を促進していることでしょう。もちろん、私たちの社会は空気も水も容赦なく汚染しています。
よって、私たちは明らかに地球環境に悪い、持続不可能な存在であることに疑いはない。
でも、だからと言って、食事ゼロの次に「存在ゼロ」にする訳にもいかない。
■真面目な若者ほどコロッと騙される
映画『クラブ・ゼロ』には食事ゼロを提唱する人が現れます。そして、真面目な若者たちはコロッと騙されてしまうんです。で、地球のために、健康のために食べることを永遠に放棄していく――。
温暖化なんてオレには無関係、健康になんて興味ないという、意識低い系の者たちは逆に騙されません。
作品内の「クラブ・ゼロ」とは、頭のおかしいカリスマ的リーダーが率いる、意識高い系の若者たちをメンバーとするグループ。メンバーは黄色い制服のエリート学校に通う、地球と自分の未来を憂う生徒たち。リーダーは栄養学担当の女教師で、自分の顔写真入り「ファスティング・ティー」ブランドを立ち上げて販売しています。
まあ、地球のために食べないことを提唱する人が、環境のために自己犠牲を厭わない人が、物販で小金儲けに走る、というのは明らかに矛盾しているわけですが、若者たちはそこには疑問を持ちません。
ヒロイックでストイックな自分に酔うことと、空腹と栄養失調が正常な判断力を失わせているとも言えるし、そもそも、食事を永遠に放棄することに疑問を持たないのだから、そんなディテールに疑問を持つ訳がない、とも言える。
■目を背けたくなる露悪的で冷たい描写
『クラブ・ゼロ』が昨年のカンヌ映画祭で上映された時、ある部分の描写で席を立つ人が出たそうです。シッチェス映画祭では席を立つ人こそいませんでしたが、私は直視できませんでしたし、小さな悲鳴も聞こえました。
見ていただければわかりますが、これ、不要な描写です。物語的には映像にする必要はなく、音と仕草で「そうした」と思わせるだけで十分に伝わります。
しかし、あえて映像で見せつけた。
現実から目を背けないという覚悟と、露悪的な部分の両方が伝わってきた。これは、ジェシカ・ハウスナー監督の味なのでしょう。
そういえば、若者たちは、否、若者を演じる役者たちは作品内でどんどん痩せていきます。見るからに痩せこけていく。まさか食事ゼロを実践させた!?
メイクだけでやつれさせる手もあったのでしょうが、これも、監督のリアリズムへのこだわりなのでしょう。
現代社会への皮肉、という部分はやや表面的で、中だるみもありますが、見る価値がある作品。日本公開が待たれます。
※写真提供はシッチェス・ファンタスティック映画祭