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タバコ対策は「喫煙者へのフォローアップ」も重要だ

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

タバコ対策が揺れている。

受動喫煙対策を強化する目的で健康増進法の改正を目指している厚労省は当初、飲食店をすべて原則禁煙(喫煙専用室の設置は可能)とする方針だった。その後、飲食店などからの反発で、居酒屋や焼き鳥店などを除くアルコールを提供する一部小規模店を例外とするなど、当初案より後退する修正案となっている。

ラグビーのW杯や東京オリパラのタイミングに向け、今国会で法改正をしなければ対策が間に合わない。2017年4月7日には来日したWHOのアサモア・バー事務局次長が、丸川珠代五輪大臣に受動喫煙防止など「たばこのない五輪」対策の徹底を強く求めた。一方、自民党は4月14日、当初案よりも後退した厚労省案にさえ拒否し、党内の厚労部会を開かないことで厚労省に抵抗を強めている。

喫煙率は性別年代によってはまだ高い

わが国の喫煙率は年々減少し、特に男性の喫煙率は2005(平成17)年の39.3%から10年間で9.2ポイント減少した。2010(平成22)年から2014(平成26)年まではほぼ横ばいが続き、年度や都道府県によっては漸増や微増。2015(平成27)年の喫煙率は「現在習慣的に喫煙している者の割合」で総数が18.2%となり、前年2014(平成26)年の19.6%より1.4ポイント減少した。

これらの結果には、喫煙をやめたがっている人に対し、禁煙外来での治療が保険適用されるなど禁煙サポートや受動喫煙防止といったタバコ対策の施策が広がったことが影響していると考えられる。

ただ、2015(平成27)年の男性の喫煙率は30.1%、女性で7.9%となっており、年代別でも男性は30代で41.9%、女性は40代で11.7%が最も高く、性別年代によっては依然として高い喫煙率となっている(※1)。

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喫煙率の男女比較(2014年度):2014年の喫煙率は男性30.5%、女性7.7%。男性40代42.9%、女性30代13.0%が最も高く、性別年代によって喫煙率は依然として高い。

禁煙希望者への情報提供が足りない

本記事では何回かに分け、タバコ対策について考えてみたい。まず、現状の問題点について整理してみよう。

まず、喫煙者で喫煙をやめたがっている人、禁煙希望者はどれくらいいるのだろうか。「現在習慣的に喫煙している者におけるタバコをやめたいと思う者の割合」は総数27.9%、男性26.1%、女性33.6%だ。約三分の一の喫煙者が禁煙したがっている、ということになる。

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タバコを「やめたい」と思う者の割合(2014年度):「現在習慣的に喫煙している者におけるたばこをやめたいと思う者の割合」は総数29.2%だった。

その一方で、禁煙治療の方法などについて情報は不足している。「身近な禁煙治療機関の有無」を質問したところ「わからない」という回答が男性で56.7%、女性で50.2%だった。特に男性(20歳以上)ではすべての年代で「わからない」が50%を超えている。

つまり、禁煙治療や治療機関についての効果的な情報提供があまりなされていない、ということだろう(禁煙治療機関の有無「わからない」約半数。※2)。

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身近な禁煙治療機関についての知識(2015年度):「身近な禁煙治療機関の有無」を質問したところ「わからない」という回答が男性で56.7%、女性で50.2%だった。

禁煙治療後に再喫煙する患者は多い

禁煙治療についても、まだまだ満足のいくものではない。

年間の禁煙治療者数は約24.9万人と推定され 、喫煙者の約30%が禁煙を希望しているという総数から比べれば依然として低い。

また、禁煙外来による禁煙治療では、治療後のフォローアップの難しさが指摘されている。ちょっと古い調査研究(※3)だが、保険適用の最終5回まで終了(初診から約3カ月後、12週間後)した患者で、治療終了9カ月後の禁煙状況をみると「禁煙継続」が49.1%、「1週間の禁煙」が2.6%、「禁煙失敗」が22.4%、「不明」が23.6%だった。

さらに、禁煙外来で禁煙治療を受けた全対象者における治療終了9か月後の状況についてみると、全対象者に占める「禁煙継続」の割合は29.7%だった。また「1週間禁煙」は1.4%、「失敗」は13.6%、「不明」22.8%、「無回答」4.6%、「治療中止時喫煙(9か月後の状況調査対象外)」は27.8%だった 。

喫煙者に対するフォローアップを

以上で述べたように、年代性別によって依然として喫煙者は多く、その中で喫煙をやめたがっている喫煙者は約30%いる。しかし、禁煙の方法や身近な禁煙治療機関の有無がわからない喫煙者も多く、禁煙外来などで治療を受ける喫煙者も少ないままだ。また、禁煙治療を受けても禁煙に成功する患者は半数に満たない、というのが現状なのである。

筆者は、こうした状況で受動喫煙防止という「錦の御旗」を闇雲に掲げることにやや疑問を抱く。

もちろん、喫煙と受動喫煙が我々の健康に重篤深刻な影響を与えることは論を待たない。望まない喫煙にさらされている人たちを、タバコの害毒から守ることが必要なのは当然だ。

だが、男性の約30%が喫煙者である、という現状は看過できない事実だろう。様々な利害を外しても、こうした人たちの反発は十分に予想される。

受動喫煙防止対策と同時に重視すべきなのは、依然として多い喫煙者に対する働きかけ、そしてフォローアップなのではないだろうか。依存症に必要なのは、周囲や環境の患者への理解とサポートだ。

自治体によっては地域の医療機関や公的機関、教育機関などで、禁煙啓蒙活動に力を入れているところもある。この部分をおざなりにした対策は不完全だ。

関連記事:

※1、※2:平成27年国民健康・栄養調査結果の概要

※3:診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書

※2017/04/20:11:33:「たばこ」の表記を「タバコ」に変えた。2017/04/24:12:54:文末に関連記事URLを加えた。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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