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カナダが「エグいタバコ警告表示」を実施

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
タバコ1本ずつに警告表示が。Canadian Cancer Societyより

 タバコのパッケージには喫煙の健康への害が警告表示されている。カナダはタバコ規制の一環として、かなりエグい警告表示を実施した。

タバコ・パッケージの警告表示の効果は

 タバコというのは実に不思議な商品で、パッケージには「吸うと病気になるぞ」と大きく警告文が表示されている。そもそも健康に悪影響がある商品を堂々と売っていいのか大いに疑問が残るが、日本も批准する「たばこ規制枠組条約(WHO FCTC)」には、タバコ・パッケージの警告表示に関する項目(第11条)があるため、締約国はこうした施策をしなければならない。

 日本の場合、健康への害についての警告表示面積は主要面の50%以上、受動喫煙と未成年者の喫煙防止の表示なども加え、警告表示を1mm以上の枠線で囲むことなどが定められているが、喫煙抑制に効果的とわかっている画像表示(※1)は消費者に不快感を与えかねない(!)ということで採用されていない。

 タバコ・パッケージの警告表示については、規制当局とタバコ会社の間で激しいつばぜり合いが起きてきた。タバコ会社が強い抵抗を示すということは、この施策がかなり効果的ということになる。

 実際、過去の研究からタバコ・パッケージの警告表示には、タバコの健康への害に関する知識を高め、未成年者の喫煙を防止し、禁煙を勧め、再喫煙を思いとどまらせるなどの効果があることがわかっている(※2)。特に、喫煙に関連した病気の画像表示には効果があるようだ(※3)。

世界でも最強のタバコ規制の一国

 2023年5月31日の世界ノータバコデーに、カナダの保健省はタバコの1本1本に健康への警告表示を印刷するという規制を発表した。この新しい施策は2024年4月中に実行されなければならなかったが、とうとう実際に警告表示が印刷されたタバコ製品が製造されるようになった。

カナダのタバコ・パッケージの警告表示の例。タバコの警告表示や健康情報、タバコの毒性情報、禁煙サポートへの連絡先など、1本ずつの警告表示。カナダ保健省HPより
カナダのタバコ・パッケージの警告表示の例。タバコの警告表示や健康情報、タバコの毒性情報、禁煙サポートへの連絡先など、1本ずつの警告表示。カナダ保健省HPより

 カナダ保健省は、すでに2000年から喫煙による健康への害の画像表示をタバコ・パッケージに義務づけている。2011年からは、パッケージの表面と裏面の75%以上に警告表示を義務づけ(日本は50%以上)、禁煙サポート(クィットライン)へのアクセス・アドレスや電話番号、毒性情報などを表示しなければならないようになっている。

 今回はさらに、タバコ製品の1本1本のフィルター部分に、6つの警告表示を印刷するように義務づけたということだ。それぞれの文言は短く、効果的な内容になっている。また、1本ずつの警告表示は2年ごとに変える。

  • 一服ごとに毒が(Poison in every puff)
  • タバコは臓器にダメージを(Cigarettes damage your organs)
  • タバコはがんの原因に(Cigarettes cause cancer)
  • タバコの煙は子どもに有害(Tobacco smoke harms children)
  • タバコは勃起不全の原因に(Cigarettes cause impotence)
  • タバコは白血病の原因に(Cigarettes cause leukemia)

 カナダ保健省は、タバコのサイズ(長さ83ミリメートルから85ミリメートル、70ミリメートルから73ミリメートル)によってタバコ製品を2つのグループに分け、大きいほうのサイズは製造段階で2024年4月30日までに履行するようタバコ会社に命じている。小売店にこれらの製品が並び始めるのは2024年7月31日からだ。

 タバコ規制は各国で温度差がある。カナダはオーストラリアなどと並び、世界でも最強のタバコ規制国だ。

 日本では、財務大臣がJT(日本たばこ産業)の株の33.35%を保持し、財務省からの天下りも残っている。タバコ・パッケージだけでも日本政府の対応が問われる。

※1-1:David Hammond, "Health warning messages on tobacco products: a review." Tobacco Control, Vol.20, Issue5, 2015
※1-2:Seth M. Noar, et al., "Pictorial cigarette pack warnings: a meta-analysis of experimental studies." Tobacco Control, Vol.25, Issue3, 2016
※2:Anh Ngo, et al., "Global Evidence on the Association between Cigarette Graphic Warning Labels and Cigarette Smoking Prevalence and Consumption" International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.15(3), 421, 28, February, 2018
※3-1:Cristina de Abreu Perez, et al., "‘If I hadn’t seen this picture, I'd be smoking’—perceptions about innovations in health warnings for cigarette packages in Brazil: a focus group study" Tobacco Control, Vol.32, Issue1, 21, July, 2021
※3-2:Ruiping Wang, et al., "The estimated effect of graphic warning labels on smoker's intention to quit in Shanghai, China: a cross-sectional study" BMC Public Health, Vol.21, article number 2170, 26, November, 2021

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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