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プーチン氏、ワグネルのトップに直訴されるもつれなく対応か 米軍事機密文書が示唆

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
戦闘員の遺体の動画や画像を投稿して弾薬不足を訴えるワグネルトップのプリゴジン氏。(写真:ロイター/アフロ)

 バフムト周辺の領土の一部を奪還し、抗戦を続けるウクライナ軍。ロシア国防省は11日夜、バフムト周辺の支配地を失ったという報道は「事実と異なる」と否定したものの、翌12日にはバフムトの北郊からロシア軍が後退したことを認めた。ロシアの民間軍事会社ワグネルトップのプリゴジン氏は11日、“ロシア軍はバフムトの陣地から逃走した”と訴えていたが、同氏の訴えはロシア軍が後退を認めたことで証明されたようだ。

 ロシア軍の劣勢な状況も公然と明かすプリゴジン氏。先日、同氏はロシア兵の遺体を映し出す動画を投稿して弾薬不足を訴えたが、2月にも、類似した方法で、ロシア国防省に弾薬不足を訴えている。もっとも、その時は、動画ではなく、遺体の画像を投稿して弾薬不足を訴えていた。弾薬供給をめぐって、プリゴジン氏とロシア国防省の間で起きていた亀裂は、先日漏洩した米軍事機密文書の中でも示唆されているようだ。米紙ワシントン・ポスト電子版が伝えている。

米機密文書が明かすプリゴジン氏と露国防省の摩擦

 機密文書によると、2月中ば頃までは、ロシア国防省はプリゴジン氏の弾薬の要求に応じていたようである。しかし、2月12日、ゲラシモフ参謀総長が、ワグネルへの弾薬供給と弾薬輸送のために予定していたフライトをストップするよう命じた。それに対し、プリゴジン氏のレトリックはエスカレートする。そのため、ロシア国防省はワグネルへの弾薬の供給を2倍にすると提案し、それについて公表することを望んだ。

 しかし、2月21日、ロシア国防省はプリゴジン氏の訴え(ジョイグ国防相とゲラシモフ参謀総長がワグネルへの弾薬の供給を拒否し、ワグネルを崩壊させようとしていると訴えていた)は事実ではないと発言。

 そのため、プリゴジン氏は翌22日、兵士の遺体の画像とゲラシモフ参謀総長に宛てた2月17日付けの弾薬要求書を投稿するという反撃に出た。

 そんな反撃に出たからだろう、文書には「同日(22日)、プリゴジン氏は、プーチン大統領やジョイグ国防相とミーティングするよう呼び出されたとみられる」、「ミーティングは、少なくともある程度は、プリゴジン氏が公然と非難する問題や、その結果ジョイグ国防省との間で起きている緊張関係に関するものだった」と記されているという。もっとも、そのミーティングで、3者間でどのような話し合いが行われ、プリゴジン氏がこの時、弾薬を得ることができたのかは不明だ。

プリゴジン氏より露軍側についたプーチン大統領

 また、プリゴジン氏は、このミーティング以前に、プーチン大統領にも直訴していた。文書には「このミーティングの前、プリゴジン氏は“2月半ば、プーチン大統領に、ワグネルの戦闘員を補充するために、引き続き受刑者を入隊させることを許可してほしいと懇願した”と主張した」とあるという。

 また、同氏は、プーチン大統領に、新たに動員されたロシア兵をワグネルに訓練させてほしいと申し出たり、ウクライナで戦う外国人戦闘員、特に、アフガン人を募集するよう依頼したりもしたという。

 もっとも、このプリゴジン氏の直訴に対して、プーチン大統領の対応はつれなかったと見られる。「プーチン大統領はプリゴジン氏に、これらの問題はロシア国防省と解決するようにと言い、ワグネルのトップよりも軍の側についた」と文書は述べているという。

 プリゴジン氏とロシア国防省の不和はすでに知られるところで、同氏が前線から撤退した場合、国家反逆罪となるとロシア国防省から脅されたと主張したことも報じられているが、プリゴジン氏とプーチン大統領の間にも不協和音が生じていたことを機密文書は示唆している。

 プリゴジン氏は、ウクライナ軍が猛攻しているからか反転攻勢はすでに始まっているとの見方も示しているが、足並みが揃わないロシア側が、イギリスから巡航ミサイル「ストーム・シャドウ」を供与されたウクライナ軍の反転攻勢にどう応戦するのか注目されるところだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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