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米国、ウクライナによるロシア領内へのドローン攻撃を黙認か? 長距離兵器を供与する可能性も 英報道

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
米国はパトリオットをウクライナに供与か?(写真:ロイター/アフロ)

 ロシア本土の空軍基地をドローン攻撃したとされるウクライナ。この攻撃について、ウクライナはアメリカの了解を得た上で攻撃したのかどうかが注目されたが、ブリンケン米国務長官はそれについて「我々は、ウクライナに対し、ロシア領内への攻撃を促していないし、攻撃できるようにもしていない」と明言した。

 しかし、12月9日付けの英紙ザ・タイムズは、“Pentagon gives Ukraine green light for drone strikes inside Russia”(ペンタゴン(米国防総省)はウクライナに、ロシア領内へのドローン攻撃にゴーサインを与えている)というタイトルで、米国はウクライナによるロシア本土への攻撃を黙認していると示唆している。

アセスメントを見直したアメリカは黙認か?

 同紙が、米国が黙認していると考える背景には、匿名のアメリカの国防関係者からの情報提供がある。それによると、ロシアによるウクライナのインフラへの攻撃が激化する中、ペンタゴンはウクライナ戦争の脅威に関するアセスメントを見直したというのだ。これまでは、ペンタゴンは、ウクライナがロシアを攻撃することを警戒していたという。ロシアが戦術核で報復したり、国境を接しているNATOの国々を攻撃したりすることを恐れていたからだ。しかし、今では、アメリカ政府は、ウクライナによるロシア領内への長距離ミサイル攻撃が事態の大きなエスカレーションにつながる懸念はあまりないと見方を改めたとしている。ロシアの報復攻撃はこれまで、民間の標的に対して通常のミサイル攻撃で行われてきたからだ。エスカレーションの懸念がないと米国がアセスメントを見直したことが、ウクライナによるロシア領内へのドローン攻撃の暗黙のゴーサインになったのだろうか?

 しかし、アメリカは、表向きには、ロシア領内へ攻撃するゴーサインをウクライナに出しているとは見られたくないので、ブリンケン国務長官は「我々は、ウクライナに対し、ロシア領内への攻撃を促していないし、攻撃できるようにもしていない」という立ち位置を示しているという。

 もっとも、同紙に対し、匿名のアメリカの国防関係者は「我々は、ウクライナに、ロシアやクリミアを攻撃するなとは言っていない。彼らにどうしろとは言えない。兵器をどう使うかは彼ら次第だ。しかし、我々が供与した兵器を使う時は、ウクライナ軍は戦時国際法やジュネーヴ条約に従うようにとだけは訴えている」と話している。

 兵器は供与するが、使うか否かはウクライナの判断に任せるといったスタンスということだろう。

 シンクタンク、米戦争研究所はこの国防関係者の発言について「ウクライナは2014年にロシアに併合された領土を含め、すべての領土を取り戻すために軍事力を使う権利があると訴え、アメリカも、ウクライナに主権がある領土でウクライナが正当な軍事目標を攻撃することを妨げないポリシーをとってきた。匿名の国防関係者の発言は、そのポリシーの延長であると考えられる。国際法は、ウクライナ軍が、ロシア領の正当な軍事目標を、特に、ウクライナ市民のインフラに攻撃を行っている軍事目標を攻撃することを許している」と述べている。

長距離兵器を供与する可能性も

 また、同紙は、アメリカがアセスメントを見直したことを背景に、ペンタゴンが、ミサイル発射台やドローンも含めて、ロシア領の深部への攻撃が可能な長距離兵器もウクライナに供与する可能性がより高くなっているという見方も示している。ペンタゴンの高官たちは、ロケットやロシア領や占領されたクリミア半島を効果的に攻撃するのに使える戦闘機を含めて、ウクライナからの長距離兵器の要求は真剣に考慮していることを明らかにしてきた、としている。ペンタゴンは兵器の供与について「あらゆることを検討している」ということだ。

 実際、先月、米国防高官は「バイデン政権はパトリオットをウクライナに送ることを検討しているのか?」との質問に対しても、「あらゆることを検討している」と答えている。その検討の結果なのだろう、パトリオットのウクライナへの供与について、米国は今週中にも最終判断をするとCNNが報じた。

 パトリオットは、ウクライナが前から提供を求めていた先進的な地対空迎撃ミサイルシステムだ。ウクライナの防衛用なので、バイデン政権は供与してもロシアとの関係がエスカレートする懸念はないと考えたのかもしれない。また、同紙が述べているように、ペンタゴンが戦争の脅威に関するアセスメントを見直した、つまり、アメリカは前のようにはロシアの攻撃がエスカレーションするリスクを懸念しなくなったことの表れかもしれない。

 ウクライナへの兵器の供与について「あらゆることを検討している」アメリカは、同紙が示唆しているように、ロシア領の深部にまで攻撃可能な長距離兵器も供与する可能性があるのだろうか?

 ちなみに、長距離ミサイルについて、ロシアは、アメリカがウクライナに長距離ミサイルを供与すれば、それは一線を超えたことになると警告してきた。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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