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「ロシアを破壊しようとすれば世界は終わる」 アメリカの反感を買う“ロシア発言”次々 ウクライナ侵攻

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ロシアを破壊しようとすれば世界は終わると言及したロシア正教会トップのキリル氏。(写真:ロイター/アフロ)

 西側諸国からウクライナに兵器を供与する動きが進む中、ロシア側から、アメリカの反感を買う発言が次々と発せられている。

西側諸国を“ナチス視”

 ロシア外相のラブロフ氏は、18日、西側諸国のロシアに対する対応を、ユダヤ人を絶滅させようとしたナチスの対応に喩えてこう発言した。

「彼らは、“ロシア問題の最終的解決”という目的で我が国に戦争をしかけている。ちょうど、ヒトラーがユダヤ人問題について“最終的解決”を求めたように、今、西側諸国の政治家たちは、ロシアは構造的敗北を被らなければならないと明言している」

 “最終的解決”というのは、ナチスがユダヤ人を絶滅させる計画を隠蔽するために使った言葉のこと。つまり、ラブロフ氏は、西側諸国が、ナチスがユダヤ人を絶滅させようとしたように、ロシアを絶滅させようとしていると訴えたのだ。

 イスラエルの外相はこの発言に対し「ヒトラーによるユダヤ人絶滅のための最終解決計画と比較したり、現在起きている出来事と関連づけたりすることは、史実を歪め、亡くなった人々やサバイバーの記憶を冒涜するものであり、強く否定されるべきだ」と反論。

 ちなみに、ラブロフ氏は昨年5月も「ヒトラーにはユダヤの血が入っている」と発言したため、プーチン氏は当時イスラエルの首相だったベネット氏に謝罪している。もっとも、そんなプーチン氏も、ウクライナ侵攻開始直後は、侵攻の意図について、ゼレンスキー氏がユダヤの血を引いているにもかかわらず、「ウクライナを“非ナチ化”させるためだ」と発言していた。

 そんな経緯があったからだろう、米国家安全保障会議のカービー報道官も「よくも彼はどんなことでもホロコーストと比較する、自分らが始めた戦争は言うまでもなくどんなことでも。返答する価値がないほどバカげている。我々をヒトラーやホロコーストに割り振ろうとしている。攻撃的な態度以外の何ものでもない。最初からプーチンは、ロシアが脅威に晒されているという見方をしてきた。間違いだ」、「ウクライナがロシア軍にいわれのないやり方で侵攻されなかったら、アメリカや西側諸国はウクライナに兵器や戦闘能力を提供する必要はないだろう」と呆れている。

ロシアの破壊は世界の終わり

 また、19日には、ロシア正教会トップのパトリアーチ・キリル氏も説教の中で「ロシアを破壊したいという希求は世界の終わりを意味する」、「こんにち、世界に、我が国に、そして、人類には非常に大きな脅威がある。なぜなら、クレイジーな人々が、強力な兵器を所有しており強い人々が住む偉大なロシアが敗北するという考えを持ったからだ」と発言した。

 キリル氏のこの発言は、ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長がした「通常戦争で核保有国が敗北することは、核戦争の引き金となりうる」、「核保有国は、自国の命運がかかっている大きな争いで負けたことがない」との発言を支持したものだと指摘されている。

 米国務省のパテル副報道官はこれに対し、「ロシアからそんな発言を聞くのはこれが初めてではない。核兵器に関する挑発的レトリックは危険なだけではなく、無謀で、計算ミスのリスクを加える。正直、それは避けるべきだ。核戦争は勝利せず、起きてはならない」と反論した。

 ロシアによるウクライナ侵攻から、まもなく11ヶ月。

 アメリカや西側諸国の軍事支援がさらに進み、戦闘が長引くことが予想される中、核というレトリックを使い続けるロシアの威嚇が、レトリックで終わることを祈るばかりだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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